第24話 遺跡探索
「ね、ね。あれ、じゃないか?」
リンが、遠くを指差した。
おれたちは、脚馬に跨がり、荒野のなかを移動していた。
少し離れたところから、エクスカーベターが移動するずしん、ずしん……と大地を響かせながら動く音が聞こえてくる。
風が少し強く吹いており、砂塵がエクスカーベターの外見を隠してしまっていた。
地響きまでは誤魔化せないが、街道から遠く離れているので、まぁ、わざわざ、近づいてくるもの好きもいないだろう。
エクスカーベターに乗り込んでいるのは、コレットとレッド、ダガーで、それ以外の”八月の涼風”のメンバーは脚馬に騎乗して、移動していた。
荒野は水場が少なく、岩と丘陵しか目にしていなかった。
そのなかで、遠くにうっすらと、岩山ではないものが、砂塵のなかに浮かび上がっていた。
遺跡のある場所は、地図からすると、そろそろなので、たぶん、それが目当ての遺跡、ということなのだろう。
近づいてみると、塔のように見えるが、途中から折れてしまって、土台の部分しか残っていないようだった。
塔の名残はかなりの大きさがあり、上に向かうにつれて、なだらかなカーブを描くのではなく、極端に先細りとなっていた。
折れたのか、何かがぶつかってきたのかは、わからないが、塔の幅と同じ高さのところで、破砕されてしまっている。
遺跡——と聞いて、古代都市や神殿、列柱、または地下への入り口を想像していたのだが、何だか、肩すかしを食らったような気分になった。
塔の下の階層の部分は、砂のなかに半ば、埋もれてしまっていた。
そのなかで、塔の東側の部分からだけ、道がつけられていた。
自然に発生した道ではなく、人の手による簡単な工事で広げたような形跡がある。
道の上にはまだ、エクスカーベターが移動したのと同じ、新しい無限軌道の跡がついているので、そこから出てきた、ということなのだろう。
塔への入り口の部分は破壊されてしまっており、その隙間から砂塵が内部に入り込んでいるようだった。
少し傾斜がつけられていて、その先は大きな空間となっている。
その空間には、エクスカーベターが数十台、並んでいた。
しかし——そのほとんどが、破壊されてしまっている。
台座の部分だけになっていたり、上部の構造物がまるまるなくなっていたり、あるいは横倒しやひっくり返ったり、状態は様々だが、無事なエクスカーベターはひとつもなさそうだ。
おれたちが奪取したエクスカーベターは、レイダーたちがこのなかから、動かせるものを見つけて、移動させてきた、ということなのだろう。
空間の広大さに、おれたちはちょっと途方に暮れていたが、エクスカーベターの残骸の間を、道のようなものが残されていることに気づいた。
レイダーたちの足跡なのだろうか。
罠かもしれない——と思いながら、おれたちはコレットやレッド、ダガーたちと合流し、探索を続けることにした。
脚馬は、遺跡のなかでは移動できない箇所があるので、連れてはいかないようにしたようだ。
床に打った杭に手綱を結びつけていく。
それを眺めながら、おれは“旗を振るもの”のメンバーだった時、同じようなことをしていたのを思い出していた。
│獣人のミュウは、追跡を得意としているらしく、時々、地面に屈み込んで、足跡を調べていた。
こんな場所なのだから、野生生物が迷い込んでしまった、ということはないだろう。
そして、おれたちは奥の壁際までやって来た。
列柱とアーチ、それに開口部が覗いている。
壁には、かなりすり減っているが、壁画のようなものが描かれていた。
レッドが明かりの呪文を唱え、おれたちの周辺を淡い光で照らした。
アーチは三つあり、中央のものが一番、幅も高さもある。
どれにする——と聞くまでもなく、リンがまっすぐ、中央のアーチへと近づいていった。
扉はもとからなく、開かれていたようだ。
階段が続いており、おれたちはリンに従って、下っていった。
途中から、階段は大きな直径を描く螺旋状のものへとなっていった。
右手には大きな地底へと続く穴が開いており、柵もないので、気をつけなければ、転落死しそうだった。
どのくらい、歩き続けたのだろうか。
やっと、おれたちは階段が尽きるところまで、やって来た。
突き当りの開口部をくぐると、そこから先は天然の地下洞窟となっていた。
といっても、岩壁を削って作られた通路は続いており、それが暗闇の向こうへと伸びていっている。
天井はとても高く、音が反響して、かなりの広さがあるようだった。
見上げると、岩壁のところにも通路は刻み込まれ、視界を横切っている。
ダンジョンは複数の層をなし、さらに上層の塔の部分にも繋がっているのかもしれない。
すべての階層を調べるとなると、数ヶ月を必要とするのだろうが、うっかりすると本当に地上にも戻れなくなってしまうかもしれない。
洞窟を横断するように作られた通路は、橋のように暗闇のなかを貫いているようだ。
下の階層には、地底湖が広がっているのだろう。
吹き上げてきている風はねっとりと、かなりの湿度を含んでいるようだ。
通路は、階段があったり、十字路だったり、扉が用意されたりしている。
扉はどうやら、転移用のものらしいが、魔力回路が分断されているからか、機能していないようだ。
石畳は、大きくひびが入り、片側だけが崩落していたり、通路がなくなっているような場所もあった。
ここまで、行き来した経路などは、ソフィが記録しているので、エーテル・リンケージを取り出せば、確認することができる。
“八月の涼風”のメンバーと情報を共有しながら、おれたちは探索を続けていった。
途中、橋架しか残っていないところへと、やって来た。
下から柱が数本、突き出している。
その向こうには、まだ通路が続いていて、その橋架と橋架をうまいこと、ジャンプすれば、何とか向こうの通路へたどり着けそうだ。
まずは、リンが最初に渡り、無事移動できることを確かめた。
続いて、レッド、それにミュウやダガーなどが身軽に橋架の上を移動していく。
橋架は高さにほんの少し差があり、立っている角度も微妙に異なるので、それを計算に入れて、渡らないといけないようだ。
自分の番が回ってきて、おれは少し、緊張した気持ちで、深呼吸をした。
数度、死に戻りを果たしていて、死の恐怖にはいくらか、耐性のようなものがついてはいるが、高所だけは脚がちょっと、すくんでしまう。
この恐怖心は本能的なもので、こればかりは、克服できそうになかった。
おれは、覚悟を決めると、橋架めがけて助走をつけて、走りはじめた。
最初の橋架に着地すると、勢いを殺さずに、次の橋架へとジャンプする。
少し、向きを変えて、脚を繰り出す。
三つ、四つ……と橋架を蹴るが、五つ目の橋架に着地した時、足元が滑るのを感じた。
踏み込みが甘くなり、空中で少し、バランスを崩した。
「あっ……」
声が洩れた。
「フィル!」
”八月の涼風”のメンバーたちがいっせいに声をあげるのが聞こえてきた。
おれは夢中で、腕を伸ばした。
何とか、橋架にしがみつくことができたら——。
そう思うが、距離が足りなかった。
空中に身体が投げ出され、そして、おれは墜落していった。
下には、地底湖と岩場が広がっていた。
運がよかったら、湖の深いところに着水して、助かるかもしれない。
身体を丸くして、衝撃に備えようとした。
と——甲高い声が聞こえてきた。
次いで、羽ばたきの音が耳を打った。
風を感じる。
手首を誰かに捕まれ、引っ張られた。
落下の速度が緩やかになる。
ぎゅっと目を閉ざしていたおれは、空中を滑空していることに気づいた。
何が起こっているのかわからず、おれは上へと視線を向けた。
見ると、リンがおれの腕を掴んでいた。
│三尾鸚鵡のゆうが、リンの肩を後ろ脚でがっしりと保持して、翼を広げている。
「フィル! 着地点を指示して」
「わ、わかった」
ソフィが、下の階層を調べて、安全に降りられそうな場所を教えてくれた。
眼下では、地底湖というか、大きな池が数ヵ所、広がっていて、その間を岩場が露出しているようだ。
おれは、そのなかでソフィが選んだ、着地に適した大きな場所を指さした。
降下する向きが変わり、翼が風を生じさせる。
ぐるり、と空中で旋回すると、また滑空をはじめる。
おれは、脚を広げた。
靴の裏に地面が接するのがわかる。
走るようにして、おれは着地の衝撃を吸収させた。
リンと並び、最後は転んでしまったが、無事、着地を果たした。
おれは、リンと地面に仰向けになったまま、しばらくの間、深呼吸をしていた。




