第23話 死闘の後で
おれも、座り込みはしなかったが、レッドの言う通りと思った。
脱力し、しばらくはその場から、動けなかった。
それにしても——セラスはどこから、変形する義手なんてものを手に入れたのだろうか。
また、この自走エクスカーベターそのものを、どこで入手したのだろう。
謎は尽きないが、おれたちはひと息つくと、エレベーターを何とか操作して、下の階に残っていた”八月の涼風”のメンバーと合流した。
その後——おれたちは、エクスカーベターの内部を探索した。
レイダーたちの残党とは、もう遭遇することはなかった。
そして、おれたちは、エクスカーベターの集中制御センターと呼ばれる場所まで、やって来た。
エクスカーベターのほぼ、中央あたり——上部構造物のなかで一番、高い場所にあり、ガラス張りなので、周囲の風景を見渡すことが出来た。
センターの一番手前にある制御卓で、画面と文字盤を使って、エクスカーベターの機能をすべて、制御できるみたいだが、おれにはさっぱりだった。
制御卓は、エーテル・リンケージを大きくしたものらしいが、コレットが、詳しいようだ。
コレットは、“八月の涼風”のメンバーのなかでも、魔道回路や魔道機が専門のようで、手慣れた様子で、文字盤を使いこなしていた。
まずは、移動を続けていたエクスカーベターを停止させ、馬を預かっていたミュウを迎え入れることにした。
外は既に夕暮れ時を過ぎ、双陽は地平線の下に沈もうとしていた。
予定がすっかり狂ってしまったが、エクスカーベターのなかで休憩をして、朝になったらまた、これからのことを考えればいい。
コレットは、エクスカーベターのデータを調べているらしく、制御を終えた後も、夜遅い時間まで文字盤をかちゃかちゃと叩いていたようだ。
そして、朝になり、朝日を浴びて、おれは目を覚ました。
警戒はしていたが、特にこれといったことは、起らなかったようだ。
レイダーたちが使っていたキッチンで、朝食を作ると、”八月の涼風”のメンバーたちと共に食事をすることにした。
目玉焼きや黒パン、干し肉やチーズ、それに乾燥させたナッツなど。
どれも、長距離を移動する時に必ず、口にするものだが、それでも、火を通すだけで、ずいぶんと美味しく感じられる。
「みんな——ちょっと、聞いて」
食事を終えた後、リンがそう切り出してきた。
「コレットがここの制御装置を調べてみた結果、わかったことなんだけど——このエクスカーベターが発掘された遺跡の場所が特定できたみたいなんだよね」
メンバーたちが、顔を合わせた。
すぐには、誰も喋ろうとしない。
「んでっ、どうだろう。その遺跡に、向かってみたいと思わない?」
「ちょいと、お待ちよ。リン、アタシたちの本来の目的、忘れてないかい」
レッドが、おれを見た。
「あー、うん。それなんだけど、もちろん、忘れてないよ。帰郷を急ぎたいんなら、そっちを優先させるけど」
「そんな言い方——断りづらいじゃない」
「……いいんじゃないか? 遺跡の探索、楽しそうじゃないか」
おれは、視線を浴びるのを感じながら、ゴブレットに残りわずかとなったワインを飲み干した。
「リン、本当にいい加減にしなよ。一度、言ったことには責任持ちな」
「だから、送り届けない、とは言ってないでしょ。後回しにする、というだけで。それじゃ、小隊を分ける?」
「だめだよ。どっちも危険なことに巻き込まれる可能性が高い」
「でもっ、遺跡だよ、遺跡。お宝が眠っているかもしれないじゃん」
「どうせ、掘り尽くされているよ。レイダーたちが見つけた遺跡なんだろ?」
リンとレッドはさらに、ああでもない、こうでもない、と討論を続けている。
が——おれは、レッドも本当は遺跡探索をしたいのだろうな、と感じた。
ただ、リンの思いつきだけで突っ走ってしまうと、後々、問題が生じてくるので、レッドはブレーキ役を買って出ている、ということなのだろう。
リンが言うように、遺跡にはどんな財宝が眠っているのか、計り知れないものがある。
無駄足と知りつつも、実際に脚を運んで目にしたい、とは誰でも思うことだろう。
おれ自身、とても興味を惹かれてはいた。
その後——結局、遺跡へ向かうことが決まった。
「ごめん、フィル。なんか、無理矢理、付き合わせることになっちゃって」
朝食の後、リンが話しかけてきた。
「あーうん。別に、いいんじゃないか。特に急いでいるわけじゃないから」
「遅れた分、きちんと埋め合わせはするから」
と、手を合わせてくる。
「いいよ、いいよ。おれも、遺跡って聞いたらつい、わくわくしちゃうからよ」
それは、本心からの言葉だ。
このまま、リンたちの”八月の涼風”の小隊に入隊してもいい、とも思っているのだが、まだ、しばらくの間はどこにも所属せずに、行動してみたい、とも考えていた。




