第22話 採掘機械の上で-その4-
その間、翼に炎をまとった、三尾鸚鵡のゆうが、宙を駆けていった。
飛翔する度に、その翼の炎が広がっていく。
そして、反対側の階段のドラム缶を激しく、燃え上がらせた。
悲鳴があがり、ライフルが暴発した。
ぱーん、と空虚な音を響かせて、ライフルが放り出される。
リンとレッドが、まっすぐエレベーターからこちらへと、走り寄ってくるのが見えた。
炎上するドラム缶を乗り越え、おれと併走するように、階段を駆け上がっている。
その間も、レイダーたちが行く手を阻むように、おれに向かってきていた。
階段の向こうの足場は、ひとりが行き来できる幅しかない。
もう一度、おれは板剣を引き寄せ、脚を踏み込ませた。
「貫け!」
叫ぶのと同時に、”剣王の矜恃”を突き出す。
再び、スパイラル・ブレードのコンバット・アーツを発動させる。
スパイラル・ブレードは、打撃を距離のある相手にも届かせるものだが、狙いが正確ならば、背後にいる複数の相手にも貫通させることが可能だ。
真紅色の光——スパイラル・ブレードの名の通り、螺旋を描く軌跡が、空間を走り抜けていく。
「ぐわっ!」
「おぉっ!」
悲鳴が次々とあがり、おれのアーツを食らったレイダーたちがひざまずいたり、足場から下へと落下するなどしていく。
残されたレイダーたちを相手にするのは、容易かった。
コンバット・アーツなどの必要もなく、板剣を振り回して、足場に残っているレイダーたちを次々と、倒していく。
横に薙ぎ払い、上段から振り下ろし、鎧ごと、斜めに斬りつけて、粉砕していく。
リンたちのほうも、似たようなものだった。
ライフルさえ無効化してしまえば、レイダーごとき、敵ではない。
残りは、首領だけとなった。
「ふふ。てめぇらには、感謝しなけりゃな。あの忌々しいスレッジを、始末してくれたんだからよ」
「スレッジ——ってことは、あんた、”街道の狼”団の生き残りってことだね」
「生き残り、じゃねぇ。このセラスさまがこれから、一から作り直すんだよ。その前に、このばかでっかいおもちゃを使って、”街道の狼”を壊滅させたてめぇらを血祭りにして、名をあげてやるぜ」
そう言うと、セラスは左の指先で、右腕の籠手に触れた。
右腕が、奇妙な音をたてる。
籠手と思い込んでいたそれは、実はそうではなかった。
——義手だったのだ。
義手が、変形していく。
腕状だったそれは、おれが見ている目の前で、指が引っ込み、拳が消え、そして——銃身を六つほど束ねた、中機関銃が姿を現わした。
『フィル!』
ソフィが警告の声をあげる。
しかし、反応が遅れてしまった。
銃口がおれへと向けられ、銃身が回転した。
モーター音が響くのと同時に、銃口が火を噴く。
「「フィル!」」
これは、リンとレッドの声だろう。
おれは後ろに跳び、機関銃の直撃を防いだ。
さすがに、防御陣を張っていても、機関銃の直撃を食らっていたら、ひとたまりもなかったところだ。
『防護陣の機能が80パーセント低下しました……防護陣の機能が60パーセント低下しました……防護陣の機能が40パーセント低下しました……』
ソフィが機械的に、そう告げる。
視界内に、桜色の防護陣が現われ、機関銃の銃撃を防いでいるのが露となった。
あっという間に、防護陣の効果がなくなりかけ、さすがに、ひやりとしてものを感じてしまう。
まだ、故郷に帰りついてもいないのに——リンや”八月の涼風”のメンバーとも、せっかく知り合ったばかりなのに、また死に戻って、やり直しだなんて、そんなことは絶対に避けなければならない。
——こうなったら、防御はすべて捨てて、捨て身で攻撃するつもりでいかなければ、生き残れないだろう。
おれは、”剣王の矜恃”を身体の正面に構えた。
板剣の剣身が、中機関銃の銃弾をある程度、弾いてくれる。
『我は唱える。「漆黒の帳」よ、暗黒のすべての色を、此処に集めよ!』
レッドの呪句を唱える声が響いた。
呪符が舞い、そのなかの一枚が緑色の染まり、風を受けたように、くるくると回転しながら、色を失っていく。
と同時に、視界が暗くなった。
しかし、完全な闇とはならず、遠くのものはぼんやりと、近くのものはより、濃度を増したように、見通すことの出来ない闇と化していく。
それでも、床を踏みしめる足場や壁との距離感などはわかるので、慣れていれば、ある程度の行動はできる。
「おぉ……くそっ! なんだ、これは!」
セラスが義手を振り回して、じたばたとしているのを感じた。
突然、視界を閉ざされて、混乱しているようだ。
レッドがせっかく作ってくれたチャンスを、見逃すわけにはいかない!
というか、身体が反射的に動いていた。
コンバット・アーツや呪符を使いこなす余裕すらなく、一歩、脚を踏み込ませると、”剣王の矜恃”で斬撃を放った。
手応えはあった。
金属それに、肉と皮膚を切り裂くような感触が掌に走る。
押し殺したような声があがった。
そして、視界内の暗黒の色が少しずつ、薄れていく。
目の前に、セラスの横幅が広い背中が現われた。
鎧をおれの”剣王の矜恃”が切り裂き、そして、その下——腰のあたりから、リンの刀の尖端が突き出していた。
正面からは、リンに刀で串刺しにされて、セラスが膝をついた。
刀を引き抜かれると、セラスはものも言わずに、倒れ込んだ。
全身から、血が流れ出す。
腕から外れた義手が、足場から落下していった。
「やった……やったね!」
リンが近づいてくる。
「ちょっと、ヤバかった……レッド、あんたの機転がなかったら、殺されていたのは、おれたちだったな」
レッドを見ると、その場に座り込んでいる。
「アタシも、いくつか死線をくぐり抜けてきているつもりだけど、こんなギリギリの戦いは久しぶり……ちょっと、休ませて。寿命が縮んじゃったよ」




