第21話 採掘機械の上で-その3-
リンは、板金鎧の様子を見る、なんてことはしなかった。
駆け足で迫ると、まずは長剣で斬りつけた。
切れ目のない、連続技だった。
おそらく、リンもコンバット・アーツを習得しているのだろう。
刀が激しく、鎧に斬りつけられ、金属音が響く。
「こ……この!」
板金鎧が、リンの連続攻撃が途切れた時を見計らい、両手で構えた斧を繰り出した。
リンが、斧の刃をカタールの三叉の刃で受けると、流れるような動きで、身体の脇へと流した。
板金鎧が、バランスを崩した。
前のめりになる。
「ゆう!」
リンが叫ぶと、光の形をした翼が飛来してきた。
『我は撃つ、鋭き一撃を! 「赤刃の報復」よ、灼熱をもって、仇敵を破砕せよ!』
リンが呪句を唱える。
数枚の呪符が現われ、身体の周りを巡りはじめる。
カードの一枚が、赤い炎に包まれ、灰となる。
と同時に、飛び込んできた翼が炎に包まれる。
そのまま、板金鎧を貫くと、悲鳴があがった。
二歩、三歩……と板金鎧がよろよろと歩き、四歩目でがしゃん、と大きな音をたてて、倒れた。
ここより先は通さぬ、と威勢はよかったのに、あっけないものだ。
長柄の斧を放り出し、動かなくなった。
飛翔していた翼を持つものが、ふわりと宙を舞った。
リンの左肩に降りる。
『三尾鸚鵡ですわね』
ソフィが説明をしてくれた。
首の回りにたてがみのような羽毛を持ち、背中と翼の外側が、硬い突起で覆われている。
体色はカラフルで、黄色がベースだが、青や白、黄色などが混ざっている。
尻尾は長く、その名前のもととなっている三叉になった尾羽根が、リンの肩から腰までまっすぐに伸びている。
『甲族の一種で、身体の一部を魔力で硬質化して、戦うことが可能ですわ。また、知性も高く、汎人類種族の言葉でコミュニケーションを取ることもできるようです』
ゆう、というのが、リンがその三尾鸚鵡に付けた名前なのだろう。
今はおとなしく、彼女の肩に掴まっている。
「さっ。それじゃ、先に進むよ」
通路の突き当たりの扉を開け、おれたちは中へと入っていった。
扉の向こうは、居住区画と設備用のスペースとなっているようだった。
入ってすぐのところは、物置のように、様々な物——壊れた武器や防具、箱や壺、木材や割れたガラス瓶、書類などが雑然と積み上げられ、足の踏み場もない状態だった。
正面の奥には廊下があり、左右に扉や階段、エレベーターなどが配置されている。
廊下にも扉が並んでおり、そちらはすべて部屋となっていた。
部屋はどれも瓦礫だらけで、寝袋が並べられているものもあった。
曲がり角や物陰など注意してみるが、レイダーたちとは出会わなかった。
区画のすべての部屋を調べ終わり、残りはエレベーターだけ、となった。
上の階層へ向かうには、エレベーターを使うしかないようだ。
まずは、おれとリン、レッドの三人がエレベーターに乗り込むことになった。
ボタンを押すと、シャッターが閉まり、かごが動き出す。
エレベーターに何らかのトラップが仕掛けられているのではないか——と思ったが、それは余計な心配だったらしい。
かごが停止し、シャッターがゆっくりと開いていった。
途端——銃声が響いた。
エレベーターにはトラップはなかったものの、待ち伏せはされていたらしい。
銃弾がかごの中を穿ち、奥に穴が開いた。
おれは、エレベーターのシャッターを閉じ、下の階へ移動するためにボタンを連打するが、まったく反応しなかった。
シャッターは開ききった状態のまま、動かなくなってしまう。
その間も、射撃は続き、かごを揺らし続けた。
「リン、レッド……おれが隙を作るから、ふたりは援護してくれ!」
そう言うと、返事を聞かずに、エレベーターから飛び出していった。
『ソフィ——』
『了解。《防護陣》ね。あなたとリン、レッドに展開したわ。それと、《戦場の意思》を付与しました』
指令を出す前に、ソフィがおれの意思を感じ取り、《防護陣》と《戦場の意思》のスキルを使ったようだ。
戦場の意思は、戦闘に参加するパーティメンバー、全員のダメージをある程度、カットするという天恵だ。
おれとリンや、レッドなら、レイダーたちに攻撃的なスキルは必要ないだろう。
シャッターから走り出していくと、すぐに銃弾が飛んできた。
防御陣に弾かれ、打撃がおれに届くことはなかった。
おれは走りながら、”剣王の矜恃”を振り抜いた。
エレベーターの向こうは、広い空間となっていた。
左手には大きなガラス窓があり、そこから、煙たい夕刻前の陽の光が入り込んでいた。
正面の壁際には鉄骨の階段が設置されており、奥で両脇から繋がって、見下ろすことのできる足場となっている。
その足場のところに、やたらと大きい男がこちらを見下ろしていた。
あれが、レイダーたちの首領ということなのだろう。
フルフェイスの兜を被り、右腕だけがやたらと大きな籠手を身につけている。
——ひどく、アンバランスだけど、歩きづらくはないのだろうか?
その首領の左右には、武装したレイダーが数人、並んでいる。
左右にふたつある、階段の登り口の手前には、どちらにもドラム缶を数本、チェーンでまとめて立てかけた遮蔽物が置かれていた。
その向こうに、レイダーが隠れているらしく、ライフルの銃口が覗いていた。
ライフルは強力だが、連射できないのが、欠点だ。
早いところ、決着をつけたほうがいいだろう。
リンたちには援護を頼む、とは言っていたが、その前におれひとりでレイダーどもを始末する気ではいた。
おれは、”剣王の矜恃”を構えた。
右腕を引いて、板剣を引き寄せると一歩、踏み込み、水平に突き出した。
コンバット・アーツのスパイラル・ブレードが発動される。
スパイラル・ブレードは、剣が届かない距離にいる相手にも、打撃を届かせるスキルのひとつだ。
おれの動作に応じて、剣が赤く光る。
そして、剣の先から赤い螺旋状の輝きが打ち放たれた。
スパイラル・ブレードの紅色の光の軌跡が、ドラム缶に殺到する。
そして、その後ろに隠れていたレイダーの身体ごと、ドラム缶を吹き飛ばした。
悲鳴があがり、レイダーが宙を舞う。
そして、おれは階段を駆け上がっていった。




