第20話 採掘機械の上で-その2-
おれたちは、バケットのなかに潜り込むことにした。
バケットは橋桁の上を、動くベルトによって移動しており、それに乗り込めば、自動的に台座のほうへと運ばれることになる。
巨大なバケットは人が三人ほど、入っても狭くはないぐらいの大きさがあった。
おれは、ひとりでバケットに入ろうしたが、リンに引っ張られて、いっしょに入ることになってしまった。
ゴウン、ゴウン……と、バケットのなかは音響が反射し、何も聞こえなくなる。
このまま、しばらくじっとしていればいい——と思ったが、もちろん、そんなうまくいくことはなかった。
順調に移動していたバケットが停止し、それから、急に振り回されるのを感じた。
リンと身体をぶつけながら、バケットのなかで転がることになってしまう。
ようやく、動きが止まってから、おれたちはバケットから顔を覗かせた。
そして、橋桁が今度は上へと持ち上げられていることに、気づいた。
垂直になってしまったら、もう逃げ場がなくなってしまう。
リンの判断は、早かった。
バケットから身を乗り出すと、振り返りもせず、跳びだしていった。
橋桁はまだ、持ち上げられている状態で、急げば鉄のパイプの部分を滑り降りることが可能だった。
おれも当然、それに続いた。
”八月の涼風”のメンバーも同様に、傾斜の部分を滑り降りている。
——これは、どっちかというと、降りるというよりは、落ちているのに、近いな……。
風を正面から受けて、橋桁に脚をつけて、下っていく。
さらに、下から矢や石弾が飛んでくる。
しかし、掠りもせず、おれたちは橋桁の根元の部分に着地した。
瞬間、脚の裏がじーん、と痛むが、飛び込むようにして、おれは前転して受け身をとった。
衝撃を相殺する。
”八月の涼風”のメンバーたちも同様に、ダメージはないようだった。
おれは、腰に手を回すと、
「レイドアーマー展開。スターリー・ジャケット、スプレッドアウト」
と唱えた。
黒塗りの防具に覆われるのと同時に、柄を握るイメージをして、腕を振り抜くと、斬奸刀の“剣王の矜恃”が現われる。
板剣をしっかりと構えると、走り出した。
レイダーたちが、応戦してくる。
弓や投石紐を投げ捨て、剣や斧を抜いた。
支援用のスキルや呪符を使うこともない。
“剣王の矜恃”を構え、予備動作を行う。
右肩に剣身を乗せ、それから、大きく、横に振った。
その動作を読み取り、コンバット・アーツ——ドラゴン・テイルが発動する。
剣の刃が青く輝き、正面に剣の動きをなぞった、扇の形をした軌跡が空中へと射出される。
コンバット・アーツは、訓練を通しておれが取得した技だ。
時間をかければ、誰でも使うことができ、その他のより強力なスキルによって無効化されたり、返されたりすることもあるが、レイダーたち程度の練度なら、その心配はないだろう。
ドラゴン・テイルは広範囲にダメージを与えるコンバット・アーツだ。
宙に放たれた扇型の軌跡に触れたレイダーたちの身体が切り裂かれ、致命的なダメージを受けて、弾け飛んでいった。
全員がその一撃だけで、倒れ伏してしまった。
振り返ると、”八月の涼風”たちを包囲しようとしていたレイダーたちも、同様だった。
致命傷を負うか、意識を喪失してしまっている。
「はっ! よし。さ、次、行くよ!」
リンが走りはじめる。
橋桁の向こう——台座の部分には鉄板が敷かれていて、タンクや階段などが配置されており、落下しないように、端には手すりまでもついていた。
鉄板はメッシュ状になっていて、下の地面が動いているのが見える。
その上を、おれたちは早足で駆け抜けていった。
階段を駆け上がろうとすると、レイダー数人が立ち塞がってきたが、相手にもならなかった。
先頭を歩いているリンが殴りつけ、意識を喪失したレイダーが階段を滑り落ちていくのに任せた。
そして、階段の先にある、まっすぐの通路までやって来た。
突き当たりに、扉があるが、その手前に板金鎧で武装し、長柄の斧で武装したレイダーが陣取っていた。
斧の柄でどん、と床板を突き、
「ここより先は通さぬ!」
と、板金鎧の男が兜の奥から、くぐもった声をあげた。
通路はひとりしか歩ける幅はないので、一対一で戦うことになる。
「はっ! そっちから、招待しておいて、居留守ってのはないよね。ま、いいさ。挨拶ぐらいはしっかり、してやらないとね」
リンが腕を上げ、ひとりで相手をする、ということを示してから、鎧姿の男に近づいていった。
歩きながら、武器を構える。
右手に刀、左手に短剣を装備したスタイルだ。
刀は、反りのある、普通の片刃のものだが、左手の短剣は見慣れた形のものではなかった。
いわゆる、カタールと呼ばれるタイプで、柄は刃に対して直角に付けられており、正拳突きのようにして刃を振るう短剣だ。
リンが柄を握りこむと、刃の左右に、副刃が開いた。
三叉に刃を開くことで、防御も攻撃も可能になる。
”八月の涼風”のメンバーは誰ひとり、武器に手をかけていなかった。
全員、一騎打ちにリンが勝つ、と確信しているみたいだ。




