表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

7 師匠・エルマンは語る(1)

 聖魔法を使えるものは、何も女性だけではない。男性は聖人と呼ばれるだけだ。


 だが少ないのは確かで、私は珍しい男性の聖魔法使いでそれなりに整った容姿のため、チヤホヤされていた。そのため多少驕り高ぶっていたのは事実だ。


 私の名前は、エルマン。平民出なので、苗字はない。

 


 *****

 


 今日は久しぶりの休みで、これから弟子に会いに行く。場所が遠いため、自室から転移魔法陣を使って移動する。一応土産を持っていくか。

 

「師匠〜、お久しぶりです〜」


 弟子は相変わらずのようだ。間の抜けた声で、ちっとも力のこもっていない手を振る。これでももう成人なんだから、笑える。ということは、私もそれなりの歳と言うことか。


「今日のメニューは、魔牛のシチューなんですよ」

「それはいい時にきたな。君の料理は絶品だからな」

「そう言われると、がんばって仕留めた甲斐があります〜」

「昔の君なら考えられないな」

「そうですね、いつ死んでもおかしくないくらい、弱っちい体でしたから」


 カラカラと陽気に笑って、家の扉を開けてくれた。中に入ると、ビーフシチューのいい香りがする。先ほど朝食を終えたばかりなのに、食べたくなる。


 勝手知ったる他人の家だ。勝手にソファに腰を下ろして辺りを見回す。変わらぬ落ち着いた部屋だ。リビングにはあまり物を置かないせいである意味殺風景だが、今日は窓際に人形が置いてあった。あれは初めてみるな。


「暇だったから、作ってみたんだけど、可愛いでしょ?」


 かわ…まあいい、個性は人それぞれの大切なものだ。感性しかり、価値観しかり。

 


 なので、朝食が終わった直後であっても仕方ないと思うのだ。


「わかってますって。今準備しますね」


 さすが我が弟子はわかっている。


 私は家から持参した焼き立てのパンをマジックバッグから出して、ダイニングのほうへ移動した。ビーフシチューが大きめの器に並々と注がれようとしていた。


「あ、肉多めで」

「汁だくか」


 謎のツッコミをスルーして、我々はおいしく第二回朝食会を終了させた。お前も食べるんか。

 

「師匠なら来たらすぐ食べると思ったから、一緒に食べようと思って、朝ごはん待ってました」


 そういうことにしておこう。もう一度リビングのソファに移動して、食後の薬草茶をいただく。もちろん消化に適している薬草だ。

 


「王都のほうはどうです?」

「平和だな」

「それは何より」


 我々は平和が1番だ。やれ災害だ魔物だ、隣国が攻めてきたなど、そういう場合1番苦労するのが我々聖魔法使いだ。上の奴らはやれ治せだの、浄化しろだの、言うのは簡単なんだよ、こっちは疲れているんだよと毎日笑顔で心で罵倒という、日々疲れた生活してんだよ。

 

「お前の姉は元気だよ」


 一応伝える。そう、アリシア王子妃の妹、メグに。


 

 我が弟子、メグは、過去最大級と言っても過言ないくらい、脆弱な聖魔法使いだ。いつ死んでもおかしくないくらい貧弱な肉体と、微量な聖魔法。その魔力を使って自分で自分を癒せば、少しは生きていけるんじゃね?と始めた魔法の訓練。逆にそれで何度死にかけたことか。何度蘇生してやったことか。

 


 *****

 


 メグに初めて会ったのは、大聖女様から呼ばれてのことだった。


「エルマンは初めてよね。この子はメグ。しばらく面倒をみてやってほしいの」

「はじめまして、メグと申します。よろしくお願いします」


 行儀作法の担当教師が怒りそうなくらい、豪快に勢いよく頭を下げてきたのが、メグだった。


「どうして私が?」


 私は通常、大聖女様と共に人々を癒す仕事に専念しており、後輩の教育はしたことがなかった。戸惑う私に、大聖女様が苦笑いを浮かべる。


「…この子、聖魔法使いなのはいいけど、体が弱くて魔力を込めるだけで、毎回死にそうになるのよ」

「はあ?」

「その度に周りにいる子が回復魔法かけなきゃいけなくて、正直勉強にならないのよね」

「すんませーん」


 てへっとメグが笑った。私は超最弱聖女の師匠になった。

 


「んじゃあ、聖魔法を手のひらに集中させて…」

「はい、あ…」


パタン。


「え」

「あ、エルマン先生ダメですよ。メグちゃん、このくらいで死にかけるんですから」

「マジか。おい、しっかりしろ!」


 結果、メグに関わった聖女聖人全員の能力がアップした。あいつが自分で自分を癒せた時は、全員で泣いたな。関係者以外は、ドン引きしてたな。

 



 そんな最弱王に、王子の治療をしろと言うなんて。それも、実の姉が。


 聖魔法は使えても脆弱なため他人は癒せないと何度も言ってきた。我々神殿も、本人も両親も。


 だが、不思議とまわりは誰も聞かなかった。聖魔法使えるなら、癒せるんでしょ?私を治してよ、タダで。そういう考えのものがなんと多いことか。練習台になってあげるわ、優しいでしょ?的な奴もいたな。


 しかも、聖魔法が使えるのに怠けている妹を持つ可哀想な姉というスタンスだったか。どこをどうやったらそんなことになるというのか。


 だが我が弟子は、マイペースだった。のらりくらりとかわして、とにかく自分だけを癒しまくった。癒さないと死ぬからな。ガチで。

 


 *****

 


 そんな弟子に同情したのか、ある時、大聖女様がメグと私を呼んだ。


「どう?自分を癒せるようになった?」

「はい、おかげさまでボチボチやってます〜」

「ギリギリですね。少しでも気を抜いたら倒れますね」


 正直な状態を申告すると、メグが私を睨む。


「んもう、本当のことを言っちゃダメですよ〜」

「仲がいいわね、あなたたち」

「恐れ入ります」


 軽く頭をさげる。そんな私を面白そうに見て、大聖女さまは軽く頷く。


「メグ、あなたに見てほしいものがあるのよ」


 大聖女さまは後ろの棚から箱を取り出して、目の前のテーブルに置いた。


「これはね、歴代大聖女に伝わる、初代聖女直筆の書物なのよ」

「え、そんな大切なものを」

「もちろん大聖女以外閲覧禁止」

「そそそそんなものをなぜ私に?」

「なんとなくだけど、あなたならわかるかもと思ったのよ」


 大聖女さまが箱の蓋をはずした。中には古びた一冊の書物があった。


「なんだこれ、文字が読めない…」


 表紙に書かれた文字は、まったく知らないものだ。だが、メグはそれを食い入るように見る。


「まさか、読めるのか、メグ」

「どうぞ、手に取って見てちょうだい」


 メグが恐る恐る本を手にする。そっとページをめくりさらに目をこらす。我々はただじっとメグの動向を伺った。


 書物はそんなに厚くない。軽く目を通して、メグは本を元に戻した。


「どう?読めた?」

「…はい」

「読めたのか?」


 そこで理解する。読めたということは。


「まさか大聖女とは」

「ええ、そうよ。この本が読めることが1つの条件ね」


 それでは次代の大聖女は。


「いえ、違います。これはそういう本ではありません」


 即座にメグが否定する。


「だって、今の大聖女さまは、これをお読みになれないのですよね?読めるかどうかは判断基準にならないと思います。確かに特殊な内容でした。でも、これだけではダメです」

「…教えてほしいの。この本は歴代大聖女に伝わる大切な本。今までで読めた大聖女はほんの僅かな人と記録されているわ。そして、その人は皆、歴代最高と言われている。そこには何が書いてあるの?」


 大聖女様が、メグの両手をにぎる。目は真剣で、メグは少し怯えているようだ。私もここまでの大聖女さまのお姿は、初めて見る。


 確かにこの内容を知れば、歴代最高の大聖女に登りつめることも可能なのかもしれない。


 だが、メグは、にへらといつものゆるい顔に戻ると、そっと大聖女様の手をさすった。


「内容は、誰にでも教えてはいけないと書いてあるんです。理由は、危険だからです。これを読めるものは、その理由を理解しているもの。読めないものは、その危険性を知らないから、だから伝授してはいけないと」

「…そう、そうなの。それならあなたはその危険性を理解した上で、ここに書かれていることを実行できるというの?」

「多分、できると思います。というか、これ、私のような人のための本というか?」

「なんだそれは?」

「これ、簡単に言うと、聖魔法を強化する本なんです」

「それのどこが危険になるの?」

「私程度の貧弱なものだから、強化しても普通程度で落ち着くと思います。ですが、大聖女さまほどとなると、強すぎて、大変なことになるかと」

「強すぎて何か問題あるのか?」

「つまり、この本に書かれている危険性を理解できるかがポイントなんです。読めないということは、使ってはいけない方法なんです」

「あなたはやってみるのね」

「はい。ぶっちゃけ私はこのままでは長くないと思っております。ですから、これを自分のために使いたいと思います」

「危険なことにはならないと」

「お約束します」


 ようやく大聖女様の手の力がゆるんだようだ。メグの髪を優しく撫でる。


「あなたは本当に不思議な聖女ね」

「大聖女さまは、私の大切な家族です。家族を危険なことに巻き込みません」


 2人はゆっくり抱きあう。


「私の大切なおば…お、お姉さまです」

「…後で反省室にいらっしゃい」


 コメントは差し控えさせてもらおう。

 


 *****

 


「で、結局これは何の本だ?」


 メグは両手で顔を覆って下を向く。うーんうーんと唸る声がする。あとなんかブツブツ言ってる。


「いや、これいいんか?」「んでも大丈夫か?」「いやいや、それでもな」


 しばらくしてゆっくり顔をあげたメグは、目が死んでいた。結論が出たようだ。


「まず、いろいろご説明する前にですが…実は私、前世の記憶がありまして」

「はあ?」

「前世…ですか?」


 私と大聖女は互いに顔をあわせた。困惑した表情のまま、メグを見る。メグは、はあとため息をついて、


「全部お話しますね」


 そうして、語り始めた。

 



 メグには前世の記憶がある。それも異世界での記憶だという。そしてこの本は、異世界のメグのいた国の文字で書かれていると。その国は、日本という。


 恐らく初代大聖女さまは、同じ転生者と思われる。


「それで、この本の表紙に書いてあることなんですけど…」


 なぜか躊躇うメグ。もう一度ため息をついてから告げたのは。


「これ、『聖女なんて、やってらんねーというあなたに送る、楽してやっほい聖女生活』というタイトルの本なんです」

「「はあ?」」


 そりゃ言いたくないよなと、全員の心が一つになった瞬間だった。


 

「そもそも聖魔法って神のお力をいただいて、それを使っているというスタンスでやってますよね」

「まあ、それが基本だよな」

「だから、調子に乗った奴らが、勝手なこと言うじゃないすか。やれ治せ、やれ浄化しろ、守れ、それが神に与えられたお前達の仕事だろとか。逆剥けくらいでやってらんねーっつーの」


 おい、大聖女様の前だぞ。なんかやさぐれはじめたな、弟子は。


「それ、お前やってないやんけ」

「でも、みんなはやってる。特に大聖女さまは大変ですよね。王族とか貴族とか貴族とか」

「そうね、正直言うと辛いときもあるわね」

「そこで、この本ですよ。これには、楽に聖魔法を使うことができるノウハウが書いてあります」

「え、そうなのか?それならもっと楽にたくさん聖魔法が使えると…なんか、商人と話しているみたいだな」

「通販番組みたいっすね」

「なんだそりゃ」

「すんません、つい前世の話をしたら、思い出しちゃって。ええと、そうです。楽に聖魔法を使う方法です。ただ、そこが問題で」

「どこに問題があるというんだ?今でも対応が遅いと言われているんだぞ?これで効率が上がれば…あ、そういうことか」


 なるほど、効率が上がるということは。


「そうです、師匠。効率が上がっても、我々は楽になりません。かえって要求が増すと思われます」

「そうね、今の王族、貴族を見れば想像できるわね」


 頼めば簡単に楽になる。元気になる。それは相手の都合を考えなければできる話だ。


 さっきの話しではないが、本当に逆剥け程度でも貴族どもは神殿にやってくる。隣の平民向けの治療院では重症の多くの患者が待っているのに、貴族だからと優遇されて。


 それなりに金はもらっているが、聖女達が疲弊しているのは確かだ。


 だが、楽な方法を覚えてやったとしても、仕事が増えるだけ。まったく意味がないとも言える。


「この本の最後のページに、追加で書かれた箇所があります」


 メグが本の最後のページを開いた。文字は読めないが、よく見ると前のページとは、字が違う。


「多分、別の転生者の大聖女さまが書かれたものですね。『同胞に告げる。これは教える相手をよく考えることだ。私は聖女聖人全員を強化した。だが、聖魔法の強さを知った王族が隣国を侵略した。死なない騎士団が作れる。だって簡単に治せるのだから。同胞よ、簡単なことだ。強くなるより休暇を作れ。楽なのはそっちだ』」

「…そかー」

「…休めばいいのよね」


 また全員の心が一つになった。

 


「そういえば、歴史書に記載がありましたね。隣国の侵略戦争。だけど、失敗しましたよね。逆に領土を一部奪われたと」

「ええ、そこは大聖女限定の別の本にも記載されていたわね」

「そうなんですか?」

「その戦争で、聖女聖人がほぼ全員死んだのよ」


 うっと息を呑む。


「そんなことがあったのですね」

「その時の大聖女さまは戦地に赴いていなかったようだけど。その時に書かれたのでしょうね、そこの記載は」


 大聖女さまがそのページの文字を指でなぞった。恐らくとても悲しんだだろうな。よかれと思った行動が全員を死においやったなんて。


「元々この本には、この方法をみんなに教えるなと書いてあります。多分この方はその意味を理解していなかったんでしょうね」


 聖魔法は、ある意味危険なのかもしれない。普通、風邪をひいた程度では、聖魔法を使わない。薬を飲めばいいからだ。だが、頼めば簡単に回復する。それに慣れてしまえば取り返しのつかないことになるのだと。


 よく見ると、所々追加で書き込みされた後がある。他の大聖女も思うところがあったようだ。


「でも、それはそれということで。お二人は大丈夫ですよね。方法教えても」


 笑顔のメグが、我々を見る。大聖女さまはゆっくり目をとじて、そして一つ頷く。


「信頼してくれて、ありがとうメグ」

「師匠もサボりたいですよね」

「おい」


 元々この本の話をするために、大聖女さまはこの部屋に結界を張っていたので、間者の心配はない。


 葛藤はあったが、結局我々はメグから本の内容を聞いた。だが、結果として、我々はその技術を習得できなかった。理由はある。大いにある。


「だからですね、ぱーっとやってぱーっと…」

「わかるかあああああっ!」

「だって本にそう書いてあるんですってばー」

「メグに習おうと思った私がバカだった」

「大聖女さま、ひどーい」

 

 メグ()()はその方法によって、こっそり強くなった。


 そして、メグは今も生きている。


大聖女様の残した本には、制限魔法がかかっています。

これを読めた者が、他の人に方法を教えられないという魔法が。

みんなに教えたせいで、仲間を死に追いやってしまった大聖女様の力です。

なのでメグは教えることができなかったのですが、もともとポンコツだからその説明いらんか、ということで、省略となっております。


メグ「納得できんわー」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ