2 メグは語る(2)
そんな風に思っていた時期もありました(遠い目)。
学園に通うようになって、気がついたときには、私の評価は最悪最恐でした。
「姉を不幸にする妹」
それが私の評価でした。なにそれ?
妹が病弱なせいで、姉はすべてを奪われていた。両親の愛情も。アクセサリーもドレスも。王子が姉に贈ったプレゼントも、妹が奪うのだという。
なんじゃそら。私が身につけているのは、親から貰ったものだが。自分で買いに行ったことはほとんどないなあ。そもそも出かける体力、なかったもんな。
そりゃ貴族だから、商人がいろいろおうちに持ってきてくれて、その中から自分で選んで買ってもらったことはあるけど。ほとんどお菓子とか、文具とか本とか。着飾ることには興味なかったというより、必要なかったもんな。養成所だと、いわゆる聖女のユニフォームという、修道服だったし。
だというのに、ドレスだと?知らんがな。
学園も制服だから、それ以外だと、私の髪を結っているリボンくらいかな。髪留めを使ったこともあるけど、姉に良くないって言われてやめた。
リボンなんて、みんな似たようなもんだしょ?どこに王室御用達とか書いてあるっちゅーのよ。証拠見せろや。
おまけに聖女失格とか言われているんよ。聖魔法使えるのに、誰も助けないって。その通りだが。
一度クラスメイトの1人が紙で指を切ったことがあって、私に治してって言ってきたのよね。
「メグさま、癒してくださる?」
「は?無理です」
速攻断ったら、何様扱いですわ。こっちの事情は聞きもせず、やはり噂通りの悪女ですわと。その噂撒いたやつ、連れて来いっていうの。
こっちの事情を説明しようにも、話すキッカケもないし。ぼっちだし。
結局友達と呼べる人は、1人だけだった。
*****
ぼっちは食堂でランチを取るのが苦手である。なのでいつも学園の裏側の、人気のないところでぼっちランチを嗜んでおりましたのよ。邪魔がないっていいのよ。くすんくすん。
んで、今日もよろしく現地に向かってたところ、1対3という黄金比率の女生徒達がいて、何やら揉めていたのよね。もちろんこっそり聞くよね。
「あなた、何か勘違いしているのではなくて?」
「別にそんなつもりは」
「それなら、次のペアは、私でもよろしいでしょ?」
「それは私が決めているわけではございません。成績順で先生がお決めに」
「では、あなたが成績を落とせばいいんじゃない。だいたい生意気ですわ。私達より上位だなんて」
なんか無茶振り言ってるやつらだな。お前が点数上げればいいだけだろ。関わるのも面倒くさいけど仕方ない。そこは私のランチタイムが関わってくる。その場所、私のお気に入りなんだよね。
私は今はじめてあなた達の姿に気がつきましたよー的な表情で近づいていった。
「あら、すみませーん、お邪魔でしたかしらー」
3人組はキッと私を睨む。
「あら、何かしら、確か王子妃様の残念な妹サマよね」
誰が残念な妹じゃい。
「私達は大切なお話をしておりますのよ。残念な妹サマにはわからないかもしれませんが」
残念残念言うんじゃねえ。
「まあああ、それは残念ですわね」
そう言うと、私は持っていた「あいつ」を彼女達に見せた。それは、そこらの葉っぱの上にいた、虫。
「「「ぎゃあーーー!」」」
淑女は走ってはいけないのではないのか。思ったより、足はええな。
虫を近くの低木の葉の上に戻すと、1人残っていたビックリ顔の女生徒に声をかける。
「余計なことしましたかね」
「あ、ありがとうございます。おかげで助かりました」
「それでは、私はこれで」
ランチランチ、ぼっちのランチ。
「あ、あの」
「ああ、申し遅れました。私は、メグ・チェリウッドと申します」
ちょっと覚えた淑女のお辞儀をする。彼女も礼をかえしてくれた。
「私はイリス・キセラと申します」
キセラ家と言えば侯爵家か。しまった、先に声かけちゃった。あちゃーっと顔に出ていたのか、イリス様は気にしないでと優しく笑う。
「3年生です。あの、あなたは虫が平気ですの?」
「私は薬草学も学んでおります。草花を扱いますから、奴らには慣れるしかありませんからね」
「そうね。私も薬草学を専攻しているからわかるわ」
彼女がくすりと笑った。
「少しはスカッとしましたかね」
「おかげさまで」
今度は2人で笑った。
この後一緒に近くのベンチでランチしながら聞いたところ、彼女は授業で王子殿下とペアを組むことが多いのだが(成績順って言ってたな)、それを妬んだ奴らに脅されていたらしい。
「あなた方の成績が上がればよろしいんじゃなくって、おっほっほって、言ってやればいいのでは?」
と言ったら、ひきつっていたけど、私、間違ってないよね。
その後も時々ここで、2人でランチをした。
そう、私は、初めて、学園で、友達をー、ゲット、したのだー、したのだー、したのだーーー!(自主エコー)
こうして私はぼっちを卒業したのだ。天から鐘の音が聞こえてくるほど、嬉しかった(幻聴)。
*****
こんな感じで学園生活1年目が、あっという間に終了した。ずっと壁際。グループとかペアで作業的な学業は、0点でしたが何か問題でも。
もともと病弱なこともあって、私には婚約者がいない。両親ともそこはちゃんと話し合っていて、結婚はしないことにしている。
ぶっちゃけ無理なんだよね。多分そこまで長く生きれない。
聖女養成所にいた頃、聖魔法以外でなんとか出来ないかなと学び始めたのが、薬草学だった。学園でも薬草学の授業があったから、そっちに全力投球している。
なので両親と、学園を卒業したら薬師になって、領地のはしっこで細々生きていく約束をしていた。ぼっちで学園を卒業して、これからも細々ぼっちで頑張っていく予定だった。
あの日、姉に呼び出されるまでは。
*****
姉達の卒業式、数日前か。急に王城に呼ばれた。
騎士に引っ張られるように連れて行かれた先で見たのは、ベッドに横たわる、虫の息の王子さま。髪を振り乱した姉につかまれ、ベッドの王子さまに近づけられる。
「早く治しなさいよ、あなたの聖魔法で」
その日、王都近くの山で数日前の雨のせいか土砂崩れが起きて、多くの人が巻き込まれたらしい。急いで助ければ間に合うかもしれないと、王都からも多くの騎士や魔法師団、医師・聖女たちが現地に向かっていた。
当然私はお留守番であるが、一応神殿に赴いて薬の調合を手伝っていたんだけどね。だから、即治せる聖女は、いなかったのだ。
確かに数名の聖女は残っていた。だが、通常業務にあたっていたし、皆忙しかった。私の味方はいなかったのだ。
私には出来ないと、言える状況ではなかった。
土砂崩れの混乱の中で、王子に毒を盛ったものがいたのだ。幸いすぐに吐き出したから、摂取量は少ない。だが、ある程度は毒に慣らしていた王子でも未摂取の成分だったらしく、意識が戻らない状況だ。王子付きの医務官がいるが、かなりやばいらしい。
「だ、大聖女さまを」
「一刻も猶予はないわ。あなたが癒すのよ」
姉が私の両腕を掴んで揺さぶる。そんなことをする前に大聖女さまを呼べばいいのに。
その時、ふと姉を見ると、一瞬だが口元にうっすらと笑みが浮かんでいるのが見えた。なぜ今、この状況で?
ああ、そうか。これは姉にとってのチャンスなんだ。悪女の私を裁く、とっておきの機会。私が王子を助けることなんて出来ないとわかっていての、行動。
もう、無理だ。こんな人、姉とはいえない。
私は王子に近づくと、聖魔法を手のひらに纏わせた。
「何をするの」
おかしなことを言う。
「聖魔法で王子さまをお救いいたします」
「え?」
「私は、聖女です」
王子に向かって跪く。体全体に聖魔法が流れていく。いつも自分を癒すときに行っているものだ。ここまでの動作でもう私には、いっぱいいっぱいなんだが。
「さよなら、姉様」
両手を王子に向ける。手のひらの光が王子に注がれていく。その光が部屋全体を包みこんだ。王子も姉も、部屋にいた者全てを包みこんでいく。
やがて光は消え去り、そこには回復した王子と、横たわる聖女が1人。
「遅くなり申し訳ございません。王子のご容態は!」
大聖女たちが部屋に駆け込んでくる。
だが、誰も答えない。
そこには、呆然と立ち尽くす王子妃がいただけ。




