1 メグは語る(1)
全11話で完結いたします。
すべて書き終えていますので、毎日投稿する予定です。
よろしくお願いいたします。
息苦しくて目が覚めるってことあるよね。
私の場合、泊まりにきていた友達が、寝ている私の鼻を摘んでいたんだよね。目を開けると、ニヤニヤした友達の顔がアップで見えるわけよ。
今回もそれかなと思って目を開けたんだけど、友達いなかった。ゆっくりあたりを見回したら、なぜかベッドの脇に、メイド服着た人がいてさ。コスプレ?
じっと見てたら目があって。そしたらそのお姉さんが泣きそうな顔になったんだ。
そのお姉さんが、
「旦那様、お嬢様が目を…」
旦那様と呼ばれた、金髪で彫りが深くてイケメンなおじさまが、緑色の目を潤ませて私に向かってきた。
「おお、メグ、目が覚めたんだね。よかった」
そう言われてまだ苦しいけれど、そういえば久しぶりに誰かの顔を見たなあと思い出す。
そうだ、私は、死にかけていたのだ。
それからまた何度か眠ったり起きたりを繰り返しながら、記憶を手繰り寄せていった。今の私と、前の私の記憶を。
前の私は、日本の社畜。
仕事とゲームと仕事三昧の日々だった気がする。あんまり覚えてないや。そして今の私は、メグ・チェリウッド伯爵令嬢、5歳児。めっちゃ病弱。なんか切ない。
どうやらこれは、異世界転生というやつのようだ。あまり前世の記憶はないが、5歳の今の自分を支配しているのは、前世の自分なのだろう。記憶や心が前世の自分と子供のメグと溶け合い混ざり合い、今の私は、NEWメグなのだ。それは理解している。そして、今の自分の容体も。
私は生まれたときから体が弱い。とにかく呼吸が苦しい。熱をだす。医師の見立てでは、どうやら心臓が悪いらしい。ほとんど寝たきりの生活で、体力もあんまりないし。
今回の発作はかなりやばかったらしく、もうダメかと思われたみたい。だから前世の私が表に出てきたのか。あぶないあぶない。
「こんにちは、具合はどうかしら」
そう言って部屋に入ってきた人は、白いローブを身にまとった、優しそうなおばさまだった。黒い髪に白いものが少し見える。
なぜ今回助かったのかと言うと、このお方、大聖女さまが私を助けてくださったからだ。
この世界には、魔法が存在する。中には聖魔法というものがあり、人を癒すことができるのだ。だが、その魔法を使える人は僅かで、通常は医師が治療してくれる。医療技術が前世ほど発達しているわけではなく、医師が治せない患者を癒すのが、聖魔法というわけだ。
ただ、何度か聖女さまに治してもらったことはあるけど、私の場合は延命程度にしかならなかった。そういう場合は、聖女さまの中でも頂点のお方、大聖女さまに治してもらうのだ。
でもなかなか順番が回ってこなくてね。身分関係なく症状の重い人から診ます、というのが神殿のスタンスなので、時間がかかって。ようやく私の順番が回ってきたときには、私は天国寸前だったらしい。
「大聖女さま、本当にありがとうございます」
金髪イケメンは、私のお父様だった。パパはまだ目をうるうるさせながら、聖女さまに90度のお辞儀をしていた。聖女さま、若干ひいてないか。
「伯爵様、お嬢さまの容体について、お話しがあります」
「そ、それでは別室で…」
「いえ、このお話はお嬢さまにも聞いていただきたいのです」
「はあ」
両親と聖女さまは、ベッド近くのソファに座って話しはじめた。私はまだ起きれそうもなかったから、寝ころんだままそちらに顔を向けた。
「結論から申し上げます。お嬢さまの病は完治いたしません。完全に治すことは出来ないのです」
多分そうだろうなと、なんとなくわかっていた気がする。多分私の心臓になんらかの欠陥があって、前世なら手術でなんとかなるのかもしれないけど、魔法だとそういうのは無理なのかもしれないな。
例えるなら、元々臓器の形に問題があって。その形までは、聖魔法では治せないんだ。聖魔法であっても、万能ではないということか。
両親は下を向いて涙を堪えているように見える。
「この子は、もう治らないのですか…」
「ですが、一つだけ希望があります」
「えっ?」
聖女さまが私に笑顔を向ける。
「魔力を送ったときに気付きました。この子は聖魔法使いであると」
ええ、私が聖魔法もち?これは前世特典か?
両親もメイド達も、おおおと喜びの声をあげる。
「ですが…」
え、聖女さま、歯切れが悪い。
「同時にわかったのですが、この子の聖魔力は、非常に微弱で。おそらく他人を癒すことまではできないでしょう」
「ということは」
「はい、治せるのは自分だけですね。それも毎日コツコツ少しだけ。それで命をながらえるしかないでしょう」
「あ、あの」
おもわず声をかける。聖女さまは私の方にやってきて、膝をついて顔を近づけてくれる。
「聖魔法を使えば、普通に生活できるようになりますか?」
「ええ、大丈夫よ。がんばって魔法を覚えましょうね」
聖女さまは、にっこり微笑んで私に約束してくれた。こうして私は、生きる希望を見つけたのだ。
*****
聖魔法を習得するために、私は聖女さまが住んでおられる神殿に住み込むことになった。他にも聖女になるために勉強している子供達がいるらしく、そこに。いわゆる「聖女養成所」なるものらしい。
場所は王都で、両親も社交の関係で一緒に行くことになった。領地は祖父母と父の弟に任せることに。
私には7歳ほど年の離れた兄がいるけど、隣国に留学していてほぼ会ったことはない。
2歳年上の姉は、もう少ししたら王都のタウンハウスに来るらしい。王都のほうが高度な教育が施せるからって言ってた。姉さまも大変だな。
私はまだ5歳で、教育はこれからだった。そもそも病気で死ぬかもしれなくて、教育どころではなかったからな。そういう一般的な教育も、聖女さまのもとで学べるんだって。
私を癒してくださったお方は「大聖女」さまと呼ばれるお方で、聖女の中で1番すごい人らしい。毎日国中の、私のような最弱王を癒すため、日々ご尽力くださるえらーいお方なのだ。
なので、大聖女さまはとってもお忙しい。そういうことなので、早々にお帰りになられているのだが、私のために他の聖女さまを派遣してくださった。その派遣聖女さまの癒しのもと、私は王都に到着することができた。
いくら大聖女さまが癒してくださった後でも、日々悪化する最弱王なのだ。おかげでなんとか養成所に辿り着き、私は聖魔法を習いはじめた。
聖女養成所には、だいたい6歳から15歳くらいの女の子が20名ほどいて、みんなで共同生活を送りながら協力しあい、聖魔法を学ぶのだと教えてもらった。
「皆さん、今日から一緒に学ぶことになった、メグですよ」
「はじめまして、メグといいます。よろしくお願いします」
ぺこりとお辞儀する。あらかじめここでは身分の差は関係ないし、苗字は名乗らないと教わっている。だから、自分から頭を下げてみたのだが。
「0点ですわね」
「はい?」
冷静な声に頭を上げると、後方に立っていた先生とおぼしき高齢の女性が私を見る。
「あなたのマナーですよ。ここでは、聖魔法、薬草学、治癒の基礎・応用、それに通常の勉強や礼儀作法を学びます。教えがいがありますわね」
「…お、お手柔らかにお願いします」
先生は、すでに引退した元聖女さま方。かなり高齢らしいけど、かなり元気らしい。なるほど。
聖女養成所では、基本自分のことは自分で面倒をみる。着替えとかね。食事や掃除洗濯などは、専門の担当者がいて、我々が行なうことは、あくまでも聖女としての仕事だ。
聖魔法の勉強、実践。一般教育、読み書き計算とかね。あとは行儀作法とか。その中の聖魔法の勉強。これが1番大事なのに、私はこれが1番ダメだった。
まずは魔力の基礎。自分の魔力を感じることからはじめる。自分の魔力を両手のひらに集中させる。それを体全体にまとわせる。
「先生ー、メグちゃんが倒れていまーす」
「またあ?んもー、誰か練習がわりに起こしてやってちょうだい」
「はーい、えい」
「うわっ、目さめてよかった、川が見えた」
三途の川か、あれ。
まず自分の魔力を見極める前に、死にかける。これが1番困った。だが、養成所の仲間は、皆いい人ばっかりだった。何度死にかけても助けてくれた。
「メグちゃんのおかげで、私達実践の評価高いよねー」
「うん、そうそう。この前研修先で褒められちゃった」
「そそそう?よかったわー」
私、実験体じゃないよね?陰でマウスちゃんとか呼んでないだろうな?(被害妄想)
そもそも聖女と言っても、個々の力の差はある。その中で群を抜いて弱いのが、私だった。
最強聖女さまの力を100としたら、私の力は5。堂々の5。過去最弱王と呼ばれている。ちなみに大聖女さまは、150。
ちくせう。
学んでいく上で1番の悩みがこの魔力量だった。なぜって魔力を学ぶということは、実践が1番である。
実践するには魔力を使う。即魔力を使いはたす。即倒れる。死にかける。周りの子が急いで癒す。
この繰り返しで、仲間が強化される。いや、いいけどさ。
あまりにも周りに迷惑かけすぎて、専属の治癒の先生(治癒プラス聖魔法を教えてくれる師匠)が着くくらいだった。なお、その時の師匠は、お前のおかげで「か・な・り」自分も強化されたと言ってた。いろいろすんません。私もここで学べてよかったです。家だったら速攻で死んでたわ。うん。
でも魔力を使うことで、少しずつ魔力量も増えていって、8歳になったとき、魔力量が7になったの。
笑顔で報告したら、みんなに残念な子に見られたけどね。
参考までに、私の次に魔力が少ない子で70くらいかな。
ちくせう。
それでも努力の甲斐あって、なんとか自分で自分を癒すことに成功したのは、14歳の頃。
これで教会を出ても、生きていけると聖女さまのお墨付きをもらったときは、全員で泣いたわ。その頃にはほとんどの仲間は聖女養成所を卒業して、普通に働いていて、後輩だらけだったけど。
後輩も優しいから、いいけど。
うん、本当に聖女さま達には、感謝しかない。死にかけた私の面倒を見つつ、いろんなことを教えてくれた。聖魔法のことや、生活一般。元々貴族だった子もいて、勉強や行儀作法も教えてくれた。とても楽しかった。みんなで家族のようだった。
休日には王都のタウンハウスに帰ることも出来て、そこでは両親にめっちゃ甘えたりしたな。両親もお屋敷の使用人のみんなも優しい。
「お嬢様がこんなに丈夫になって」
「生きてて神」
とか、よくわからんことも言われたけど。
とにかく順調に確実に、寝たきりじゃなく、元気に動き回れることに日々感謝しながら生きていた。
時々隣国にいるルーファス兄さまが帰ってきて、お土産をたくさんもらった。隣国の話も面白くて。特に兄さまのお友達が面白すぎる。
「兄さま、今度お友達を招待してくださいな」
「そうだね、お前はトゥーリ王国には行けないだろうし」
兄さまの交友関係にまぜてもらえて、とても楽しかった。
そんな私も貴族学園に通う年齢になった。
聖女様のお墨付きもあり、聖女養成所からは卒業となった。私はずっといたかったけど、そもそも他人を癒すことができない聖女がいたら、邪魔だもんね。
「これからも精進して、精一杯自分だけを癒し続けることを誓います」
「そうね、他人なんか癒したら、死ぬからね」
という、超強力なお墨付きである。
結局魔力は8しか増えんかったからな。
みんな、80以上だけどな。
ケタ違うけどな。
結局訓練の結果、毎日寝る前に自分を癒して、魔力を1残して寝るという生活スタイルになった。全部使うとなんか危険だし、かといって残しすぎても治らないし。
ほんと、魔力増えてよかったよ。
ちくせう。
こうして、他人を癒せない聖女として、堂々とおうちに帰ったのである。
王都のタウンハウスから貴族学園までは馬車で通える距離とのことで、こちらに住むことになった。両親と暮らせることがとても嬉しかった。
兄は隣国の学園卒業後、そのままあっちで働いている。隣国の王子とも友人になって、楽しくやっているみたい。
姉は2年前から貴族学園に通っているけど、おばあさまのご実家である公爵家で暮らしている。
なんと姉は、王子の婚約者だという。なんでも姉が10歳の頃に、王子の側近や妃候補を決めるお茶会ってのがあって、そこで認められたんだって。
選ばれた子たちは、さらに王城で特別な教育を受けて、その中から最終的に選ばれたのが、姉さまという訳だ。
うちは伯爵で、それだと身分がってことで、姉さまは公爵家の養女になった。すげえな。
私の病気と姉が多忙な為、ぜんぜん会ってないけど、学園で姉と少しは会えるといいなあ。
長いので、ここで一度切ります。




