10 再びメグは語る(1)
本日2話連続投稿します。
私はメグ・チェリーウッド。
世界最弱の聖女さまよ。
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最弱王と自称するほど、魔力がなかったけど、いにしえの大聖女さまのお陰で、私は生き延びることができた。多分転生者である初代の聖女さまが書き残してくれた本『聖女なんて、やってらんねー。というあなたに送る、楽してやっほい聖女生活』のおかげだ。
あれには、人や魔物、大気にいたるまで、すべてのものから魔力を奪う方法が書いてあった。タイトルの割にぶっちゃけ中身がエグい。だって、魔力を奪えば相手は弱る。最悪死ぬ。ある意味最強伝説の始まりだよね。
でもそのことを、大聖女さまや師匠には言わなかった。私がこれを使用してようやく一人前になれる、その程度の力ですよと教えた。
だってやりすぎたら身の破滅だって、本に書いてあった。『最強ってバレると、みんなドン引きするよ』って。自重した。ワタシはオトナ。うん。
そもそもあの本には、なんらかの魔法がかかっていて、日本語を読めない人間には伝授できないようになっていたんじゃないかな。決して私のボキャブラリーが貧困なせいではない。断じてない。
とりあえずぼっちで生きることにしたけど、せっかくだし快適に暮らしたいじゃん?だから、魔の森に着いて真っ先にしたのは、魔力チャージ!魔物がバタバタと昇天したのは仕方ないよね。
もらった魔力を使って、まずは生活魔法を駆使して、小屋の掃除をしなくちゃ。基本的に魔力持ちは、生活魔法はオプションみたいな感じで使えると言われているけど、私はそれすら使えなかったのよ。やっと、魔法使いになれた気がする〜。
自給自足もしなくちゃいけないから、先ほどの魔物をお肉にチェンジ。そこらへんの基礎知識や、実践は、すべて師匠から教わった。ここに来るのは初めてじゃない。何度も来て、師匠と訓練している。だから、これは本番。
冷蔵庫はないから、マジックバッグに全て保管。時間停止機能アリです。他の食料品も入っているから、数年はこのまま暮らせる感じ。
あと、転移魔法陣も多めに作っておかないと。魔法陣は羊皮紙に描いて、そこに魔力を込める。けっこう多く魔力を使うけど、ここなら魔力が貰い放題だから、安心ね。
他にも足りないものがあったら、師匠をパシリに使う。うん。
優雅なわたくしの日課は、魔物から魔力をもらうことから始まる。
私は一応薬師なのだ。だから、薬草を育てて、薬を作っている。出来たものはマジックバッグで保管して、師匠が来た時に渡している。売り上げで生活必需品を買って来てもらうのだ。
魔物は兄様に渡している。父様がトゥーリ王国で商売を始めて、魔物の素材を売っているのだ。元手タダだから、がっぽり儲かっている。なんか解せぬ。
時々親友も来てくれるし、この前は大聖女さまがこっそり遊びに来てくれた。毎日が孤独じゃない。ぼっちじゃない。
でも、やっぱ、さみしいな。
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そんなある日、いつものように、師匠が家に来た。普通にごはん食べて、お茶をして。その後に、最近の王都の様子を教えてくれた。
王子が側室を迎えることになったという。隣国に視察に行った時に、偶然知り会った女性だって。もちろん周りは反対したけどね。でも、一応貴族は側室オッケーだから、王子も問題ないし。
王子は王子妃との間に、世継ぎと弟と妹もいるから問題ないって話で。
「やっとですか。遅いですねえ」
「仕方ないだろ、根回し大変だったらしいぞ」
「そうですよね、だって、自分を毒殺した侯爵家令嬢そっくりな女性を側室にしたいって言ったら、驚きますよね」
そうなのだ、王子の側室になるのは、私の大親友・イリス(友達は彼女しかいないが)なのだ。
彼女と王子がこっそり付き合っているのを知ったのは、学園にいたころ。密会場所が、私のランチ場所の近くだったからねえ。ついのぞいて、いやいや、ゴホン。
王子が毒殺されそうになってお前が治せよと、部屋に連れて行かれた時、テーブルに無造作に散乱していたのは、イリスオススメのクッキーだった。見慣れた缶とリボンが見えた。
王子があれを食べて倒れたのが容易に想像できた。ちょろいぞ、王子。
となると、犯人はイリス、んな訳ない。それに仕立て上げられるイコール、彼女が危ない。
私はちゃちゃっと王子を治して、イリスの元に急いだけど、そこには王子と同じ状態の彼女がいた。幸い部屋には誰もいなかったので、屋敷の人間をターゲットにして、魔力を貰う。それを利用して彼女を癒した。
「大丈夫?」
「え、ええ、なぜあなたがここに?それに私を治して大丈夫なの?他人を癒したりしたらあなたが倒れちゃうじゃない!」
そんな風に、すぐに他人を気遣うことが出来るあなたのことが大好きだよ。
「実は裏ワザ覚えたから、大丈夫。それよりあなたのことなんだけどね」
と、王子殿下暗殺未遂事件のこと、多分犯人はイリスで当選確実ということを伝えると、絶句していた。だろうな。
「ってこって、今すぐ隠れたほうがいい。ああ、反論してもダメだと思う。そういう筋書きになっているはず」
「そんな、なぜ私が」
「多分バレているのよ。王子との関係性。恋人なんでしょ?ひゅーひゅー」
「こっ!」
真っ赤になった彼女は可愛いからずっと愛でていたいが、時間がない。
「私を信じてくれる?」
そっと両手を差し出す。彼女は一度目を閉じて深呼吸をした。ゆっくり目を開けて私の両手をその手で包み込む。
「あなたは私の親友よ。お願い助けて」
「まかせなさーい」
師匠に言わせると「悪い顔をした猫」という表情で、笑う。若干「これ早まったかなー」って表情のイリスをスルーして、マジックバッグから偽死体を取り出した。
「ひっ」
「あ、ごめんねー、これ偽物だから」
ダイジョブダイジョブ。
自分の顔の遺体だもんね、びっくりするよね。でもこんなこともあるかなと思ってさ、彼女の偽死体も作ってもらっていたんだよね。
偽死体は、兄さまの友達に作ってもらってあった。
その人も転生の記憶持ちでさ。意気投合したんだけど、変わった人だったなー。亡くした人に会いたくて、でも転生するのを待ってらんないし。だから、体を用意して魂を召喚するのだという。
がんばれー。
その召喚用ボディをオーダーしといたのよね。私と彼女仕様で。うん、先見の明があって、流石ね、私。ぐふふ。
そんなことしていたら、侯爵家の人達が目を覚ましたようで、彼女の両親が部屋に入ってきた。魔力を貰うという名目で屋敷中の人をぶっ倒したからな。みんな気がついて、娘は大丈夫かしらーって、パパ達飛んできたみたい。
驚く両親だけを部屋に入れてもらい、事情を説明する。そんな馬鹿なと信じない両親。そりゃそうだろうな。でも、事実だ。
「おそらく王子殿下暗殺未遂の犯人として、騎士達がやってくるでしょう。あなた方は知らず存ぜぬで通してください。恐らく家としてもそれなりの処分をくだされるでしょうが」
「お父様…」
「ううむ…」
私は見てきたんだ。クッキーという証拠が犯行現場にあるのを。あれ、めちゃくちゃおいしいのに、何してくれてるんじゃ。あ、食べたくなってきた。
「そうならないとしても、彼女は身を隠す必要があります。んで、ここにはちょうどそっくりの死体がある。どうします?」
「でも、この子が疑われない可能性もあるでしょ?」
「いや、ダメでしょう。時間の問題だと思いますよ」
なかなか納得しない両親。そこに扉をノックする音が響く。
「旦那様、騎士団の皆様が来ております。お嬢様に会わせろと」
「なんだと!それでは」
「だから言ったじゃん」
決断するしかなかった。
声をかけてきた執事に時間をかせいでもらい、その間に偽死体の服を替えて、先ほど彼女が倒れていた場所に戻す。
「お父様、お母様、あとはよろしくお願いします」
「メグ様、娘をお願いします」
両親が頭を下げる。この両親もヤバそうなら、偽死体追加オーダーしとくか。
「お嬢さんのことは、安心してくださいね。んじゃ」
転移魔法陣を取り出して、一旦師匠のところへ戻った。
後で聞いた話だけど、ホントに危機一髪だったらしい。直後に騎士達が雪崩れ込んできて、両親は捕縛されたと。娘が死んでいると、泣いている両親に対して、情け容赦なく。
幸い?というか、その後爵位共々領地も没収されて、財産もほぼ没収されたけど、元々いい人達だったから、こっそり助けてくれた人は多かったらしい。今は、隣国の父さま達のところにいる。でも本来なら家族ともども処刑だよね。かなり王子が頑張ったらしいよ。
にしてもさ、騎士達の来るタイミングといい、完全に計画的だよね。
知らぬ間に遺書も死体の側に置いてあったらしいし。そんなもん、なかったわい。
*****
結局、イリスはトゥーリ王国の、私の兄と両親の元で暮らすことになった。
ホントはすぐに兄の元へ連れて行きたかったけど、考えたらにいちゃん、ちょうどグランフェル国に向かってたとこだったのよね。遊びに行くよって手紙きてたし。
なので、仕方ないから1ヶ月ほどは、イリスに一緒に魔境で暮らしてもらった。
たまたま師匠が来て状況聞かれて、彼女のことを兄に頼むのスッカリ忘れてたことを思い出して、ガチで怒られたのは懐かしい思い出さ…ふっ。
そーいや、家族に事情説明もしてなかった。みんな私が死んだと思って泣いてたらしい。いや、その節はすんません。脱ぼっち、親友と同居って、字面が嬉しくて嬉しくて、ついつい。
イリスをトゥーリ王国の兄の家に連れていったら、
「文明がある…」
って涙目だったの、忘れてもいいかな。ご近所さんは、魔物ねっていう生活は、ダメだったか。
ホントはさー、このままイリスと暮らしたかったんだよね。ぼっち嫌じゃん。でもそれは彼女の為にならないし。王子も迎えに来るって言ってたし。
私は子供の頃からずっと聖女養成所で大勢で暮らしていたから、1人は寂しいのよ。だから、人を助ける。薬を作って、使ってもらう。感謝の声は聞こえないけど、誰かと繋がっているって感じたいから。
私はここにいるんだよって、伝えたいから。
夜、空を見上げて、星を見て。
「へくち」
くしゃみが出た。そういえば、か弱いんだった、私。
あったかくして寝よう。明日もがんばろう、私。
*****
そんなこと考えている時に師匠が遊びに来て、いろいろ話して、ちょっと感傷的になってしまった。
「どうした、ぼーっとして」
「そうじゃないでしょ。この繊細な私に対して、もう少し優しい言葉をかけてあげてやっても…痛い痛い痛い」
師匠が両手の握り拳で私の頭を挟んで、ぐりぐり。
「どこが繊細だとう?」
「ロープロープ」
「また意味のわからんことを」
師匠は今度は片手を私の頭にのせた。そのまま勢いよく撫でる。
「まあ、元気出せよ」
「はあ」
師匠は、ソファに戻ると。お茶をクイと飲み干す。
「王子妃は側室を認めているというが、周りが怒っているらしいぞ」
「お姉ちゃん、意外と王子妃職、天職だったもんな」
そうなのだ、実は王子・王子妃どっちも国民に人気なのだ。二人とも真面目に仕事する、国民に優しい、税金は控えめ、贅沢はしない。どこかの国の偉い人に教えたいほど、良いリーダーなのだ。
その上仲睦まじい様子も見えて、こりゃ王家は安泰じゃい、ほっほっほって思っていたのに、実は僕、好きな人がいるんですぅーって言い出したら、なんじゃそらって暴れるよね。
王子は息子娘に「パパ、サイテー」って言われて、へこみまくっているようだが。
「んでも、側室は確定で?」
「ああ、来月到着の予定だ」
「やっとかあ」
あれから何年たっただろう。ようやくイリスが王子の元へ行く。
筋書きはこうだ。
ある時、トゥーリ王国へ行った王子は、視察先で運命の出会いを果たす。そこにいたのは学生時代密かに愛し合っていたが死んでしまった女性に瓜二つの人。
確かに最初はあまりにもよく似ていたので、そこに惹かれた。だが、話すうちに彼女の為人に心惹かれていった。やがて思い合うようになる2人。だが、王子と隣国の娘。ああ、2人の運命やいかに。
「まあ、そこら辺はどうせ情報操作するんだろうな」
「ロマンスのかけらもないわー」
「しゃーねー」
意外だったのは、王子だ。彼は思ったよりも、姉のことを好きになっていたらしい。
初めは毒殺未遂のこともあるし、姉の為人を疑っていたが、夫婦として暮らしていくうちに、姉のことをわかっていったという。
狂気の祖母に操られていたということも、そのせいで妹を殺してしまったということも。そして今も後悔しているということも。
あと、実は王子の顔が好みだったってことも。
そりゃ、傾いちゃうよなあ。
姉の王子妃としての手腕よりも、長年一緒に仕事をしているうちに生まれた絆ってやつも、大切なんだと。
だけど、イリスへの気持ちも、あるんだよね。
「問題は公爵家だったが、そっちを抑えたのが、王子妃とはな」
「なんか、王子と姉さま、腹を割って話し合ったらしいっすよ。王子も毒殺未遂のこと話してくれたそうで」
「お前の情報網は、兄貴か?」
「そうです。パパが仕事で王都に行くたびに姉に会ってるらしくてあと、母さまも」
兄さまも、国に帰る度に姉さまに会いに行くんだって。母さまも連れて。
んで、母さま、恋バナ大好きだったみたいで、姉さまからいろいろ聞いてくるんだよね。王家の恋バナ聞くなや。
王子は姉に、ぶっちゃけあの毒殺未遂事件の犯人ってさって、ようやく本当に好きだった人の話をしたんだって。そんで、どうしても諦められないと。でも王子妃のことも大切だって、本当の今の気持ちを話したって。
それを聞いた姉さまは、葛藤ももちろんあったと思うけど、側室を認めてくれたってわけだ。
「本当のことを言いますと、王子妃候補を集めた勉強会の時、一番王妃に相応しいと思ったのは、イリス侯爵令嬢でした。穏やかな印象ですが、知的で政治手腕もございました」
意外にも、姉さまはイリスのことを認めていたんだ。王子は「ありがとう」って、少し泣いたらしい。
よかったけどさ、でも、そっくりさんって設定だからね。間違っても本人ですとは、言っちゃダメだからね。私がやばくなるじゃん。
もっと意外なことには、公爵家の当主様も、側室のことを認めてくれたってことかな。もちろん世継ぎは姉の子供ってことは確定なんだけど、それ以外は問題ないってさ。
公爵家の当主様は、自分の親たちが、身内から王妃を生み出したくていろいろやっていたのを長年見てきて、そりゃもう心底ウンザリしているのだという。なので、目的果たしたし、後継者もいるし、あとは好きにしてちょって考えなんだってさ。
姉が側室のことを交渉したら、そんな返事だったから、ズッコケたらしい。
なので、イリスはようやく王子と暮らせるのだ。
「案外イリスと姉さまが仲良くなって、王子だけ追い出されたら面白いかも」
「ふふ、そりゃいい」
姉は、たくましく成長したのだ。王家を守り、国を守り。自分の家族を守ることができる、強い人になったのだ。
メグの兄ちゃんの友達は、筆者の別の作品に登場しております。
よかったら、読んでいただけると嬉しいです。




