天命と赦しのとき 6
天を貫いた光が降り注ぎ、枯れた木々が再び芽吹かせる。
地に溢れる輝きは、荒れ果てた土に種々の夏草を呼び起こす。
星月に染められた青い夜空の下、戻ってきた風は甘い夜露の匂いがした。さわりさわりと囁く葉擦れに混じって鳥や虫の泣き交わす声が聞こえる。夜に潜む森の獣たちがこちらをひっそりと窺っている気配もあった。
美しい緑の森を荒らした狗神の姿はない。この世の理に従い、万物の循環へと還っていった。焼け跡めいた黒い残痕だけがそこにある。
そして、それを成し遂げた珠姫は、小さな花をつける青草の上で、光に包まれて仰向けに横たわっていた。
「珠姫!」
玄夜が駆けつけると、彼女を包む光が、ぱっと一斉に飛び立つ。
四竜の代行者としての大きすぎる力の影響か、その役目を終えた珠姫は意識を失ってしまっていた。目を閉じた顔は、先ほどの神々しさを失い、穏やかで、年頃の娘らしいあどけなさがあった。傷という傷は癒え、何一つ損なわれていないことが、神の力を降ろした唯一の痕跡だろう。
抱き起こした身体は温かい。
生きている、ごく普通の人の証だ。
「……君は、本当に面白い人だな……」
白い頬を撫でて、囁く。
雪の日の出会いも、巫術師の才も、秘められていた過去や悲しみも、復讐者の激情も、可愛いと言われたときの涙も、どうして心を傾けられるかわからずにいる寂しさも、彼女のすべてが玄夜の心を捕らえて離さない。
「珠姫」
溢れる想いが言葉になる。
「君が好きだ」
答えはいらない――いまは、まだ。
無垢で無防備な顔で眠り続ける珠姫に玄夜は小さく笑みを零して、彼女を抱き上げた。
凶つ神を討ち、穢された地を清める大役を果たしても、日々は続く。必要な休息を取った後は、再び護国の使命のために尽くしていく。それが巫術師だ。そうあれることを誇りに思う。
玄夜のその思いを、珠姫がそうと知らず守ったのだ。
「さあ、帰ろうか」
光は、なおも天から降り注ぎ、地に溢れている。
神に祈り、力を与えたまえと願うのが巫術であるのなら、これは珠姫の心なのだろう。
美しいそれを浴びながら玄夜に抱き上げられて凱旋する珠姫を、巫術師たちが恭しく見送っていた。




