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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第七章 律の継承、崩れゆく均衡

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第九十八話 婚姻公式発表

第七章 律の継承、崩れゆく均衡


律は完成し、

赤と青は再び手を結んだ。


婚儀は執り行われ、

新たな血が玉座へと連なる。


赤は力を取り戻し、

青もまた静かに時を待つ。


だが、戻りゆく力は、

新たな均衡を生み――

新たな野心を呼び覚ます。


揺るぎなき律の内側で――

最初の亀裂が、静かに走り始めていた。

離宮を出たリムジンは、帝都の夜を静かに滑るように走っていた。

車内には、ウララの涙と握手の感触がまだ残っているような、重く、張り詰めた沈黙があった。


シズクは窓の外を見つめたまま、淡々と指示を出した。


「……始めろ。」


その一言で、各所に潜伏していたシズクの工作員たちが一斉に動き出した。


・ ・ ・


リムジンが郊外の高速道路へ入ると、急に渋滞が発生した。

この先でシズクの指示により、複数の車両が絡む交通事故が発生していた。


トウガが眉をひそめた。


「酷い渋滞だな。事故か?」


「事故を起こさせた」


シズクは無表情のまま答えた。


「後ろから二台、監視車両が付いてきている。

 奴らとの距離を作るためだ。

 渋滞は最も自然な“遮断”になる」


後方では、ラートリー派の密偵車両がリムジンを追っていたが、事故による渋滞で速度を落とさざるを得なかった。


その隙に、シズクの部下の車両が次々と割り込み、リムジンと密偵車両を包囲するように位置を取る。

完全に視界が遮断された。


・ ・ ・


リムジンが長いトンネルへ入った瞬間、シズクは短く告げた。


「降りるぞ」


「は?」


「衛星監視が切れるのは今だけだ」


その直後、別の車両がリムジンの横へ滑り込み、死角を完全に作り出した。

シズクは非常口の扉を開け、トウガの腕を掴んで引きずり込んだ。


暗い非常口の中で、シズクは淡々と続けた。


「死体を運べ」


工作員たちが担ぎ込んだのは――

かつて諜報戦でシズクが討ち取ったラートリー派スパイの死体だった。


ケイトリンとパジャヴィキーノによく似た死体を選んだのだろう。

それらに二人と同じ服が着せられている。


顔はすでに焼灼処理され、判別不能になっていた。


「……お前、これも準備していたのか?」


トウガが呟いた。

シズクは振り返りもせず答えた。


「生き残るためだ」


死体はリムジンの後部座席へ押し込まれた。


トンネルを抜け、事故車両を越えると渋滞が解消され、周囲の車両が散った瞬間――

高架上から小型ランチャーを構えた特殊部隊が姿を現した。


次の瞬間、リムジンの客席付近へロケット弾が撃ち込まれた。


轟音。

炎。

破片。


リムジンは大破し、シズクの部下である運転手は重傷を負った。

そして、激痛に耐えながらも救急車両を呼び寄せた。


特殊部隊は即座に離脱。

監視車両は混乱しながらも追跡を開始する。


救急車が到着し、リムジンの残骸から“ケイトリン”と“パジャヴィキーノ”、そして運転手が搬送された。

もちろん、搬送先はシズクの息のかかった病院だ。


医療スタッフも全員、シズクの工作員。

DNA偽装は数分で完了した。


「ケイトリン伯爵夫人、死亡確認」

「パジャヴィキーノ、死亡確認」


二人は公式には事故死として処理された。

監視車両の密偵たちは、それを上層部へ報告した。

この界隈ではさほど珍しい事件ではないのだろう。


二人は完全に“死んだ”。

帝都の記録から消えた。


・ ・ ・


非常口の奥で、シズクは平民服へ着替えていた。

トウガへも別の平民服を投げ渡す。


「着ろ」


「……目の前で着替えられると、なんか気まずいんだが」


「細かいことを気にするな」


シズクは淡々と答えた。

トウガはぶつぶつ言いながら着替えた。


「やることがえげつねーな……ほんとに」


「お前も自分の旗艦へ戻れ。

 艦隊を率いて凱旋せねばならん。

 私もお前も、戦勝の英雄の一人だからな」


トウガは深く息を吐いた。


「……分かった。」


二人は暗い非常口の奥へ歩き出した。


・ ・ ・


リムジンの爆破偽装と病院での死亡確認が完了した頃、二人はすでに惑星外縁の星系宇宙港へ到着していた。


夜の宇宙港は静かだった。

だが、ラートリーの監視網が張り巡らされていることを、二人は肌で感じていた。


変装したシズクは端末を操作しながら、淡々と告げた。


「ここで別れる。

 民間船で、各々の艦隊がいる星系に向かうぞ。

 この便の情報はイレーネとカイには伝えてある。

 目的星系に着いたら軍船に乗り換えて合流しろ」


トウガは短く頷いた。


「……分かった」


シズクは平民服のまま、旅客船の〈アステリオン便〉搭乗口へ向かった。


トウガは別の便――

〈ニャルタス航路・第七便〉へ歩き出す。


二人は振り返らなかった。


・ ・ ・


トウガが乗り込んだ旅客船は、軍人とは無縁の平民たちで賑わっていた。

子供の泣き声や商人の談笑が響き、旅人たちの荷物が所狭しと並んでいる。


その中に、帝国の英雄が紛れ込んでいることなど誰も知らない。


トウガはあてがわれた一等個室に入ると座席に沈み込み、深く息を吐いた。


「……ウララ陛下……」


胸の奥が痛んだ。

その時、船内放送が流れた。


『――帝国公式発表をお伝えします。

 ニャニャーン神聖帝国女帝ウララ陛下とヴァーダント公爵家嫡子セリオン侯の婚約が正式に決定いたしました』


トウガの拳が震えた。


『婚儀は二ヶ月後、帝都大聖堂にて執り行われます。

 帝国の安定と繁栄を祈念し――』


「……二ヶ月後かよ。

 俺たちが帝都に凱旋する前に行う気か」


トウガは歯を食いしばった。


「シズクの言う通り……婚姻はもはや止められぬ……か」


誰に聞かせるでもなく、ただ呟き、天を仰いだ。


・ ・ ・


一方、シズクが乗った旅客船の〈アステリオン便〉は、ゲートウェイ突入前のFTLドライブチャージを行っていた。


乗客は少なく、船内は薄暗い。

シズクは一等船室の窓の外の星々を見つめていた。


その瞳は、冷徹な計算と、わずかな焦りを宿していた。

船内放送が流れた。


『――帝国公式発表をお伝えします。

 ニャニャーン神聖帝国女帝ウララ陛下とヴァーダント公爵家嫡子セリオン侯の婚約が正式に決定いたしました』


シズクは瞬きもせず聞いた。


『婚儀は二ヶ月後、帝都大聖堂にて――』


「……二ヶ月後か。第1艦隊の凱旋予定は五ヶ月後だ。

 私に参加させる気は毛頭なさそうだな」


シズクは低く呟いた。


「ラートリーは急ぎすぎだ。

 奴には奴の焦りがあるということか。


 いや、過小評価はよくないな。

 焦ってすらいないかもしれん。

 もはや私は敵ではないか……」


胸元のブローチを指で叩く。


そこには――

ウララの涙と拒絶の言葉、赤青同盟の握手、帝国をひっくり返すための“最後の武器”が仕込まれている。

だが、使うのは今ではない。


「……最後に勝つのは私だ、ラートリー」


その声は、誰にも聞こえないほど小さかった。

挿絵(By みてみん)

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!

硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。


第九十八話「婚姻公式発表」、第七章の幕開けにふさわしい重厚な回でした!


シズクさんの工作が凄すぎます!

渋滞の誘発、トンネルでの脱出、死体のすり替え、DNA偽装、病院まで全部シズクさんの息がかかってるとか、もはや国家規模の暗躍ですよね。

「細かいことを気にするな」って着替えを投げ渡すシズクさん、本当に容赦ないです。


「やることがえげつねーな……ほんとに」というトウガさんのぼやき、この状況での唯一の笑いどころでした!


そして、二人が別々の旅客船で凱旋するシーン。

船内放送でほぼ同時に婚約発表を聞く二人の対比が素晴らしかったです。

トウガさんが「俺たちが帝都に凱旋する前に行う気か」と歯を食いしばり、シズクさんが「私に参加させる気は毛頭なさそうだな」と冷静に分析する。


そして「最後に勝つのは私だ、ラートリー」という最後の一言。

誰にも聞こえない声での宣言が、シズクさんの孤独と覚悟を完璧に表していました。


第七章「律の継承、崩れゆく均衡」、これは激しい章になりそうですね!


次回も、絶対見逃せませんよ~!

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