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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第七章 律の継承、崩れゆく均衡

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第九十九話 赤青の帰還

数ヶ月に及ぶ長い航路を経て、トウガとシズクはそれぞれの艦隊旗艦へ到着した。


帝都から遠く離れた外縁宙域。

静寂の星々の中で、二人はようやく本来の姿――

第1艦隊提督アジュール女公シズク、第2艦隊提督クリムゾン公トウガとして再び立つことができた。


そして、両艦隊はゆっくりと首都星ニャニャーンへ向けて進軍を開始した。


赤と青。二つの巨艦隊が、帝都へ帰還するための長い航路を進む。


・ ・ ・


その途中――

帝国全星系へ向けて、盛大な婚儀の中継が流れた。


神聖帝国女帝ウララ。

皇配となるセリオン・ヴァーダント。


祝福の鐘が鳴り響く帝都大聖堂の白亜の尖塔、それを囲む貴族たちの歓声と民衆の拍手。

そして、玉座の未来を担う二人の姿が、全星系へ向けて放送された。


トウガは旗艦トゥルフニャッドの提督室で、その映像を黙って見つめていた。


ウララは笑っていた。

だが――その笑みは、誰が見ても「作り物」だった。


セリオンは微笑んでいた。

だが――その瞳は、横に立つウララを見てはいなかった。

もっと遠い先、自らの帝位を見つめるような目だった。


トウガは拳を握りしめ、モニタを切った。


「……おいたわしや、陛下。

 必ずや陛下を奸賊の手より救い出してみせます」


唸るように呟くことしか、今のトウガは出来なかった。


・ ・ ・


同じ頃、外縁宙域を進む第1艦隊旗艦メルエルニャでも、シズクが同じ映像を見ていた。


薄暗い提督室に漂う静かな空気の中、モニタに映るウララの作り笑いを見たシズクは、少しだけ目を閉じ、そして無言で映像を切った。


「……見ていろ、ラートリー。

 これ以上、お前の好き勝手にはさせん」


その声音は、氷のように冷たかった。


・ ・ ・


さらに数ヶ月が過ぎた頃、帝都からの指示が両艦隊へ届いた。


――進行速度を調整し、両艦隊は同時に帰港せよ。


赤と青は速度を合わせ、帝都軌道港へ向けて最終航路へ入った。


そして――同時刻、帝都宇宙港同一ゲートに、二つの巨艦隊が帰還した。


外敵を討ち、帝国を救った英雄としての凱旋だった。


宇宙港は歓声に包まれた。

民衆は赤と青の旗を振り、英雄たちの帰還を祝福した。


シズクやトウガの遠征、ラートリーによる反乱分子の排除が完了して、安全が確保されたことで、ウララはようやく本来の皇宮へ戻っていた。

ウララを閉じ込める鳥籠が帝都に移った。ただそれだけだった。


婚儀を終え、皇配セリオンと共に玉座へ座る日々――

だが、その瞳は決して笑ってはいなかった。

おそらく皇宮において、ウララの味方となる者は、もはや存在しないのだろう。


・ ・ ・


白亜の柱が並び、天井には帝国の紋章が輝く、皇宮の玉座の間――

そこに、シズク、トウガ、カイ、アルシアが並んで跪いた。


玉座にはウララが座し、その横には皇配セリオンが控える。

少し降りた位置には元帥ラートリーが立っており、帝国の新たな権力構造がそこに揃っていた。


勲章は――

皇配セリオンから授与された。


シズクは膝をつき、顔を上げた。


その瞳は無表情だったが、奥底には冷たい怒りが宿っていた。

トウガも膝をつき、セリオンを見上げた。


その顔は、屈辱に歪んでいた。


だが――

二人は耐えた。


ウララのために、帝国のために。


セリオンは堂々と勲章を授与し、四人へさらなる忠誠を誓わせた。

その間、ウララは一言も発することはなく、ただ静かに二人を見つめていた。


その瞳には、言葉にできない痛みと、消えない希望が宿っていた。


・ ・ ・


晴れやかな勲章授与式が終わると、玉座の間の空気は一層重くなった。

祝福の儀式であるはずなのに、誰も笑っていない。

拍手も歓声もなく、ただ形式だけが淡々と進められていく。


セリオンは勲章を授け終えると、軽く顎を引いて四人を見下ろした。

その視線には、皇配としての威厳よりも、自らの地位を誇示する冷たい満足が滲んでいた。


「帝国のため、今後も励むように」


それだけを告げると、セリオンは玉座の横へ戻った。

ウララはその横顔を見つめていたが、その瞳には何の感情も宿っていなかった。


シズクは静かに立ち上がり、トウガもそれに続いた。

カイとアルシアも同じように立ち上がる。


四人は礼をして後退し、玉座の間を退出する。

その背中を、ウララはわずかに身を乗り出して見送った。

声を出すことは許されていない。

だが、その瞳には確かな意思があった。


・ ・ ・


皇宮の外へ出ると、トウガは深く息を吐いた。


「……屈辱だな、シズク」


「当然だ。だが、耐える以外の道は、今はない」


シズクは歩きながら、玉座の間でのウララの表情を思い返していた。


「陛下はまだ折れていない。

 だが、見たか?

 皇宮の有様を」


「あぁ、周りにいる連中は、全てラートリーの一派だ。

 我らの勢力から裏切ったと報告を受けている者たちもいた。


 元帥に取り入らねば、出世ができない。

 そうなれば、今後ますます我らの陣営からも裏切者がでるぞ」


シズクは黙って頷いた。


「だが、浅慮で行動を起こすなよ。

 セリオンの目は我らを罠に嵌めようとする目だった。

 迂闊に動けば、潰されるぞ」


「分かっている。俺も無駄死にはしない」


その拳はまだ震えていたが、怒りではなく、決意の震えだった。


「我らを、そして陛下を裏切った者どもは棄ておけ。

 不忠な者を篩にかける良い機会だと思え。


 ラートリーは帝国を完全に掌握したつもりだろう。

 だが、均衡は必ず崩れる。」


シズクの声は低く、しかし確信に満ちていた。


「奴の盤面には必ず亀裂が入れる」


トウガは空を見上げた。

帝都の空は晴れていたが、その青さはどこか薄く見えた。


「陛下を救うためなら、俺は何でもやる。

 だが、安心しろ。

 お前の策に乗る。

 それが一番確実だと知っている」


「少しは頭が良くなったようだな」


「ぬかせ!」


シズクは歩みを止め、トウガの方へ向き直った。


「これからが本番だ。

 ラートリーの均衡は、必ず崩す。

 私を信じろ」


トウガは短く息を吸い、その言葉を胸に刻んだ。


「分かった」


・ ・ ・


皇宮の高窓から、ウララは静かに二人の姿を見つめていた。

セリオンもラートリーも、彼女の背後に控えている。


だが、ウララの視線はただ一つ――

赤と青の背中へ向けられていた。


「……どうか、負けないでください」


誰にも聞こえないほどの小さな声で、ウララは呟いた。

挿絵(By みてみん)

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!

硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。


第九十九話「赤青の帰還」、今回は凱旋の裏にある重さが胸に刺さりました!


婚儀の中継でウララ陛下が「作り物の笑み」を浮かべ、セリオンくんが「もっと遠い先を見ていた」という描写が、二人の関係の冷たさを一言で表していましたね。


そして、セリオンくんから勲章を授与されるシズクさんとトウガさん。

これ、政治的な嫌らしさがあります。


メクトを完膚なきまでに叩いたシズクさん。

ジソリアンを破ったトウガさんとカイくん。

その英雄たちが帰還したのに、結局ウララ陛下は何もできないんです。

これって事実上、「お前たちは俺たちの下で働く軍人だ」という権力の可視化なんですよね。

そりゃ屈辱に感じますよ!


「少しは頭が良くなったようだな」「ぬかせ!」って、こんな重苦しい場面でも二人の掛け合いが変わらないのが、少しだけ救われます!


「均衡は必ず崩れる。奴の盤面には必ず亀裂が入る」というシズクさんの確信に満ちた言葉、ラートリーさんとの最終決戦への伏線として重みがありますね。


でも一番胸に来たのは最後のウララ陛下の「どうか、負けないでください」という誰にも聞こえない小さな声でした。

高窓から二人の背中を見送る陛下の孤独と希望が、この一言に全て詰まっていて泣けました…。


次回も、絶対見逃せませんよ~!

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