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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第六章 最後の抵抗、新たな支配

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第九十五話 ウララとの密会計画

トウガは少しの間絶句したあと、押し殺すような声で問い返した。


「陛下は……。

 陛下はこの婚儀を喜ばれているのか?」


ケイトリンは静かに目を伏せた。


「いえ、間違いなく悲観されておられるでしょう。」


その断言に、トウガは歯を食いしばった。


「くっ……!

 望まれぬ婚儀か……。なぜだ?

 何故、貴様はそう感じた?」


ケイトリンは淡々と答える。


「陛下はご聡明な方であらせられます。

 民を想う御心も強く、ようやくご成長あそばして、

 これから本格的に親政をなされるところでした。


 ですが……」


「何が起きている?」


トウガの声が鋭くなった。

ケイトリンはトウガの瞳を静かに見つめ、口を開いた。


「陛下は孤立しておられます。

 元帥閣下による法整備で、女帝の権力は元帥の意志を大きく反映するように変わりました。

 陛下は次第に手足を削がれていき、もはや飾り物のようにございます」


トウガの拳が震えた。


「ラートリーめ……」


ケイトリンは淡々と続ける。


「廷臣はもはやラートリー閣下の方しか見ておりません。

 そして夫となられるセリオン閣下は、陛下のことを見下し、

 まるで子を産む道具にしか思われておられぬご様子」


「くそっ……!

 この俺が不甲斐ないばかりに、陛下にこのような御境遇を……」


トウガは悔しさを噛みしめるように唇を噛んだ。


ケイトリンは静かに首を振った。


「陛下の周りには誰もおりませぬ。

 子犬だけが唯一の心の癒しとされております。

 侍女長である私でさえも、用のない面会は決して許されませぬ」


トウガは息を呑んだ。


「シズクは……?

 シズクは今どうしている?」


ケイトリンは即答した。


「シズク女公は今、メクト遠征からの御帰還途中にございます」


「貴様はシズクの手の者ではないのか?」


ケイトリンは静かに手を上げた。


「……落ち着きください、トウガ公」


「落ち着けるものか!」


怒声が部屋に響く。

しかしケイトリンは怯まず、淡々と告げた。


「シズク女公のご指示で、トウガ公を一度に限り、陛下へ御面会できるよう手配いたします」


「何だと!?」


トウガは思わず身を乗り出した。

ケイトリンは静かに頷いた。


「これは私の侍女長としての身分を賭けた面会となります。

 一度きりとご認識ください。


 そして陛下から今後のことについて、ご指示を賜りください」


トウガはしばし黙し、やがて低く答えた。


「……分かった。

 それだけで十分だ。どのような手はずとする?」


ケイトリンは淡々と説明を始めた。


「はい。実はトウガ公が到着する日時に合わせて、陛下の公用車の運転手を始末しました」


「は?」


トウガは思わず声を上げた。

だがシズクの一派ならやりそうなことだ。

ケイトリンは微動だにしない。


「私の権限にて、トウガ公を次の運転手に御推薦致しました。

 それにより、陛下にご紹介するための御面会の機会をご準備いたしました。


 平民の御衣裳をご用意いたします。

 本日はこのホテルの七〇七号室でお休みください」


トウガはケイトリンの表情をじっと見つめた。

怪しい動きはない。

むしろ、すべてが整然と準備されている。

シズクの手の者だと確信できた。


「――罠ではなさそうだな。

 俺も人の顔色は見る。


 信用してやろう。委細任せるぞ」


ケイトリンは深く一礼した。


「はい。今夜にはお召物を届けさせます。

 明日の九時にはここを発ちます。

 ご準備願います」


トウガは力強く頷いた。


「承知した!」


・ ・ ・


翌日。

ウララが軟禁されている離宮へ向かう公用リムジンは、ストーニャン区の街並みを静かに抜けていった。


車内にはケイトリン伯爵夫人とトウガが並んで座っていた。

窓は外から見えない特殊加工が施され、運転手も、車体そのものもシズクが用意したものだとケイトリンは説明した。


「機密上の問題はありません」


ケイトリンは淡々と言い切った。

トウガは前方を見据えたまま口を開いた。


「シズクはどうするのだ?

 陛下にお会いせぬのか?」


ケイトリンは即答した。


「もちろんお会いになります」


トウガは小さく息を吐いた。


「そうか……。

 シズクはニャロンメラン星系にいるんだったな。

 遠いな。すぐには無理か。


 あいつは味方であれば頼もしい。

 もしシズクが居れば、また違った策が立てられたかもしれんな」


その言葉を受け、ケイトリンはわずかに視線を落とした。


「……シズク女公からトウガ公に対して、ご伝言があります。

 “何としても簒奪を許すな”と」


トウガは拳を握りしめた。


「当たり前だ。

 そう簡単にラートリーに簒奪を許してなるものか!


 しかし……この場で救い出すことはできないのか?」


ケイトリンは首を横に振った。


「無理です。

 くれぐれも短慮は起こされませぬように。

 陛下のお命を危険に晒します」


トウガは眉をひそめた。

ケイトリンは淡々と続ける。


「セリオンにとって、ウララ陛下である必要はないかもしれません。

 ニャーリ朝の血を引く適齢の皇族女性は、まだ他にもおります。


 ここぞとばかりにウララ陛下を弑逆し、その罪をアジュール家とクリムゾン家に擦り付けた上で、別の皇族女性から子をなして王朝を簒奪することも考えられます」


トウガは息を呑んだ。


「くっ……。否定できん」


ケイトリンは静かに頷いた。


「ウララ陛下の身が第一なのです……。

 我らはヴァーダント家と違い、ニャーリ朝自体が必要なのではありませぬ。

 ココ先帝陛下の血脈こそが重要なのです」


トウガは深く頷いた。


「同感だ。

 分かった。短慮は起こさぬと約束する。

 だが、必ず、いつの日か陛下をお救いせねばならん」


ケイトリンは前方の窓を見つめた。


「まもなく到着します」


リムジンは静かに速度を落とし、離宮へと続く森の中の道へ入っていった。


その先に待つものが何であれ――

トウガの胸の奥には、怒りと決意と、わずかな希望が渦巻いていた。

挿絵(By みてみん)

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!

硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。


第九十五話「ウララとの密会計画」、今回はトウガさんの怒りと決意が描かれました!


「陛下は子犬だけが唯一の心の癒しとされております」って、ウララ陛下の孤独な状況が伝わってきて、本当に辛いです…。第75話で小鳥を逃がしたウララ陛下のことを思うと、陛下が必死に抵抗しながらも孤立してる姿が目に浮かびます。


「セリオン閣下は、陛下のことを見下し、まるで子を産む道具にしか思われておられぬ」って、ラートリーさんの深謀は凄いですが、セリオンくんのウララ陛下への態度は本当に許せませんね…。


「到着する日時に合わせて、陛下の公用車の運転手を始末しました」ってケイトリンさんがサラッと言うのが、完全にシズクさんの手の者らしいですね!

トウガさんが「シズクの一派ならやりそうなことだ」って納得してるのが面白かったです。


シズクさんの伝言「何としても簒奪を許すな」、たった一言ですが重みがありますね。


そして「ニャーリ朝の血を引く適齢の皇族女性は、まだ他にもおります」って指摘、ウララ陛下が「使い捨て」にされる可能性まで示されて、トウガさんが「否定できん」と唇を噛むシーンが本当に切なかったです。


次回、ついにトウガさんとウララ陛下の対面ですね!絶対見逃せませんよ~!

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