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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第六章 最後の抵抗、新たな支配

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第九十二話 層の厚さ

作戦コード777のフェイズ3――

シュロックター提督を撃破した勢いのまま、ニャロンメラン星系を奪取する。

そのために、第1艦隊と第4艦隊は星系要塞へ向けて進撃を開始していた。


提督室では、イレーネが紅茶を片手にくつろいでいた。

戦闘の最中とは思えないほど、提督室の空気は穏やかだった。


そこへ参謀長から連絡が入った。


「提督、第4艦隊のアルシア提督がお越しです」


イレーネは目を瞬かせ、ゆるく笑った。


「アルシアさんですかぁ?通してください。

 何でしょうねぇ。通信では直接お話できないことみたいですねぇ」


ほどなくして、“氷華の軍師”と異名を持つアルシア大将が提督室へ姿を現した。

その佇まいはいつも通り冷ややかで、隙がない。


イレーネは軽く手を振った。


「アルシアさん、どうなされましたぁ?」


アルシアは一礼し、静かに口を開いた。


「提督。先のシュロックター提督撃滅戦、お見事でした」


イレーネは肩をすくめる。


「ありがとうございますぅ。

 それだけを言いに来たわけではありませんよねぇ?」


「はい、提督。今後の作戦について相談に参りました。

 このままコード777のフェイズ3を実行されるおつもり――

 そう考えてよろしいでしょうか?」


イレーネは頷いた。


「はい、そのつもりですぅ。

 今はシュロックター提督を失ったメクトは士気が落ち切っていますぅ。

 この状態であれば星系要塞を落とすのも容易。

 ニャロンメラン星系を押さえたら、この戦争は勝ちですよぉ」


アルシアは一歩進み、真剣な表情で告げた。


「はい、ごもっともです。

 ですが、私に一つ策があります。お聞きいただけますか?」


イレーネは目を細めた。


「はい、聞きますぅ。

 それにぃ、ちょっと硬いですよぉ。

 私はぁ、左遷された無役大将。

 今の立場的にはぁ、アルシアさんの方が上ですぅ」


アルシアは首を横に振った。


「いえ。この作戦においてはイレーネ提督が総大将です。

 それに……あなたと軍略を議論してみたいという欲が湧きました」


イレーネは声を弾ませた。


「まぁ、議論は大事ですねぇ。

 では、どうぞぉ。策を教えてください」


アルシアは端末を操作し、ホログラムを展開した。


「語るより見ていただいた方が速いです。

 ここに来る前に、作戦コード778を入力してきました」


イレーネは身を乗り出す。


「どれどれぇ~」


彼女はコード778の内容を隅々まで読み込み、時には机上の紙に複雑な計算を書き込んで、時間軸や速度といったアルシアの戦略条件を一つ一つ検算していった。


やがてペンを置き、満面の笑みで頷いた。


「うーん、こっちの方がいいですねぇ。

 画竜点睛を欠く――

 私の作戦はあと一歩足りなかったようですぅ。


 アルシアさんのコード778に切り替えましょう」


アルシアはわずかに目を見開いた。


「ほ、本当ですか?」


「はい、本当ですぅ。

 確かに、ニャロンメラン星系要塞は士気がズタボロすぎて急ぐ必要はありませんねぇ。

 そして現時点のニャドロットとペニャンドークのパワーバランスに着目したのも見事ですぅ。

 参りましたぁ」


アルシアは珍しく、柔らかな笑みを浮かべた。

その表情に、イレーネは目を丸くした。


「あらぁ、アルシアさんでも笑うんですねぇ。

 ふふふ、氷の女王の笑顔を見れたのが今回の一番の拾い物かもしれませんねぇ」


アルシアは咳払いし、表情を引き締めた。


「イレーネ提督、茶化さないでください。

 私とてロボットではないのですから」


イレーネは軽く頭を下げた。


「失礼しましたぁ。

 アーヴィンさん、コード778を全艦に通達、即時作戦変更を指示してください」


「承知しました。全艦に通達!

 これより作戦コード778へ切り替える!

 二時間の猶予を与える。各艦長はしっかり読み解け!」


「これでよしっ!

 まぁ、一つだけ難癖をつけるとですねぇ……

 折角のラッキーセブンを逃してしまいましたぁ」


「ふっ。ラッキーを逃したのは我らではありませんよ。

 メクトの方です。彼らにとって最悪な戦線となるでしょう」


イレーネは感心したように目を細めた。


「上手い事言いますねぇ」


アルシアは敬礼し、踵を返した。


「それでは本官は旗艦へ戻ります。

 必ずや勝利を!」


イレーネも力強く返す。


「はいっ!」


アルシアが退室した後、提督室に静けさが戻った。

イレーネはゆっくりとソファに身を沈める。


(本当にシズク様の陣営は層が厚い。

 あのレベルの人たちがまだまだいますぅ。


 ま、私が居なくても大丈夫ですねぇ)


・ ・ ・


第1艦隊と第4艦隊は、可能な限りの最大亜光速でニャロンメラン星系要塞へ向けて突き進んでいた。

艦隊全体が一つの巨大な矢となり、星系要塞へ向けて一直線に迫る。


アーヴィンが状況を報告する。


「艦隊は最大船速で星系要塞に向かっています」


イレーネは提督席で身を乗り出し、明るい声で応じた。


「はい!皆さん、全力で当たってください。

 敵は士気が落ち切っています。

 第1守護艦隊が出撃してきたら、そちらへ注力してくださいねぇ。


 1400の時点からコード778を開始しますぅ」


アーヴィンは即座に通信を開いた。


「全艦に通達。作戦開始は1400。

 多少の被害は黙認する!

 全力で攻撃せよ!」


・ ・ ・


アルシアの作戦では、ニャロンメラン星系要塞攻略は急ぐ必要がないとされていた。

しかし、神聖帝国艦隊は一刻も早く落とそうという勢いで、星系要塞へ容赦ない猛攻を加えた。


要塞だけでは防ぎきれず、第1守護艦隊が前へ出て迎撃する。

だが、神聖帝国主力――第1艦隊と第4艦隊の前では、

守護艦隊はなすすべなく損害を積み上げていった。


アーヴィンはホログラムを見つめながら眉をひそめる。


「思ったより敵の抵抗が弱い。

 このままでは落としてしまうやもしれません。」


イレーネは軽く頷いた。


「では、778のフェイズ2に移行しましょう。」


フェイズ2の指示が全艦に伝達されると、帝国艦隊は星系要塞への打撃を弱め、第1守護艦隊と防衛衛星への攻撃へ切り替えた。


二個の主力艦隊による集中砲撃は凄まじく、守護艦隊は次々と沈黙していく。

防衛衛星に至っては、ほぼ壊滅と言える状態だった。


もはや星系要塞の陥落は時間の問題だった。


・ ・ ・


イレーネは戦況タイマーに目をやり、楽しげに声を上げた。


「戦闘開始から三日目ぇ!

 そして間もなく時刻1730になりますぅ。


 全艦、フェイズ3へ移行!」


その号令と同時に、動けぬほどのダメージを受けた第1守護艦隊へとどめを刺すことなく、第1艦隊と第4艦隊は一斉に回頭した。


艦首が向いた先は――ペニャンドーク星系。


アルシアの立案した作戦コード778、その本命がついに動き出した。

挿絵(By みてみん)

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!

硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。


第九十二話「層の厚さ」、今回はイレーネさんとアルシアさんのコンビが輝きました!

イレーネさんが自分の作戦より良いと認めてすぐにコード778に切り替えるの、本当に器が大きいですよね!

「画竜点睛を欠く――私の作戦はあと一歩足りなかったようですぅ」って、あっさり認めるのがイレーネさんらしいです!

そして、アルシアさんが珍しく笑顔を見せたシーン、めちゃくちゃ良かったです!

「氷の女王の笑顔を見れたのが今回の一番の拾い物かもしれませんねぇ」って言って、「茶化さないでください。私とてロボットではないのですから」って返されるやりとり、最高でした!


「折角のラッキーセブンを逃してしまいましたぁ」「ラッキーを逃したのは我らではありません。メクトの方です」ってアルシアさんがスパッと返すの、普段の無表情とのギャップがかっこいいですね!


今回はアルシアさんが主役でした。

ですが、このまま星系要塞を奪取するだけでも戦争が終わるというのに……。

それすら足りないもう一歩って何なんでしょうね?

艦首がペニャンドーク星系へ向いて、アルシア作戦の本命が動き出したところで次回へ、めちゃくちゃ気になります!


星系要塞奪取で勝利できるとしたら……敵艦隊を殲滅して完全勝利を目指すとかですかね!!


次回も、絶対見逃せませんよ~!

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