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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第六章 最後の抵抗、新たな支配

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第九十一話 特大のお宝

第1艦隊旗艦 《メルエルニャ》の提督室。

艦内は静まり返り、FTLジャンプ前特有の張り詰めた空気が漂っていた。

アーヴィン中将は端末を確認し、イレーネへ向き直る。


「提督、全艦FTLジャンプの準備が整いました。

 いつでも跳べます」


イレーネは椅子に腰掛けたまま、ゆるく首を傾けた。


「シュロックター提督の第1狩猟艦隊と私達の位置関係はぁ、どうですかぁ?

 時間差も重要になってきますよぉ」


アーヴィンはホログラムを操作し、航路図を展開する。


「はい。提督の立てた作戦コード777とほぼ誤差はございません。

 まず、我々が跳んだ六時間後に第1狩猟艦隊もこの星系へ到着します。


 そして我々がFTL航路の中を跳んでいる最中に、彼らもFTLジャンプを行うでしょう。

 いくらFTLジャンプと言えども、数光年先への移動です。

 ニャロンメラン星系に我々がジャンプアウトするのに七日はかかります。

 彼らも一刻すら無駄にできずに追いかけてくるはずです」


イレーネはホログラムを眺めながら、満足げに頷いた。


「本当にここまでは予想通りですねぇ。

 ジャンプ中は後戻りもできなければぁ、留まることもできません。

 外部との通信も完全に遮断されていて、まるで一方通行のトンネルを進むみたいですもんねぇ。


 一度跳んでしまえば、私たちも第1狩猟艦隊の動きは見えなくなります。

 この後も彼らは私の思惑通り動いてくれると思いますかぁ?」


アーヴィンは迷いなく答えた。


「はい、おそらくは。

 もし第1狩猟艦隊が追うことを止めた場合、我々はこの大艦隊でニャロンメラン星系の星系要塞を短期間で落とすでしょう。


 この三星系は中央のニャロンメランを押さえた勢力が圧倒的に有利です。


 彼らは我々のことをシズク様の艦隊と思い込んでいます。

 こちらの行動を十二分に警戒するでしょうが、ニャロンメラン星系を失ってしまえば、この三星系を放棄せざるを得なくなります。

 シズク様は奇策だけでなく、正攻法においても銀河一の提督です。

 

 奇策だけを恐れていては、正攻法でニャロンメラン星系を奪われる。

 シュロックター提督であれば、そう判断するでしょう。


 虎穴に入らずんば虎子を得ず。


 いくら危険だとしても、力で押し切ることが可能なほど、第1狩猟艦隊は銀河最強の艦隊です」


イレーネはくすりと笑った。


「そうですよねぇ。

 ニャロンメラン星系の星系要塞を神聖帝国の主力二艦隊で攻め立てたとして……。

 落とし切る前にシュロックター提督であれば、追い付いてきて、暴れまわるくらいしそうですねぇ。


 あぁ、怖い怖い」


「はい」


イレーネは立ち上がり、軽く伸びをした。


「ふむ!彼らはどう動くかなぁ?

 よぉし、行きますよぉ!


 FTLジャンプですぅ!


 私たちもシュロックター提督たちも、その間は完全に暗闇の中ですぅ。

 先が見えないからこそ、面白いんですっ!」


イレーネは明るい声で命じた。


「では、皆さん。ジャンプを実行してください。

 コード777の作戦通りですぅ!」


それをアーヴィンが厳かに全艦に通達した。

指示を受けると、各艦が一斉にFTLドライブを起動する。

空間が揺らぎ、光が収束し、艦隊は次々とFTL航路へ吸い込まれていった。


FTL航路と呼ばれる安定したワープ宙域を使えば、ジャンプアウト地点は驚くほど正確だ。

それほど確立された“銀河の高速道路”とも言える。


イレーネは静かに息を吸い、ぽつりと呟いた。


「さてぇ……鬼が出るか、蛇が出るかですねぇ」


その声音は冗談めいているのに、どこか神妙だった。

アーヴィンは肩をすくめて返す。


「提督の場合、“鬼も蛇も出ない”前提で言ってますよね。

 どうせ“お宝が出るか、特大お宝が出るか”くらいにしか考えていないでしょう」


イレーネは楽しそうに笑った。


「あはは、アーヴィンさん、面白いことを言いますねぇ。

 意外とお茶目な方だったんですねっ!」


アーヴィンも、珍しく穏やかな笑みを浮かべた。


「提督とご一緒していると調子が狂いますよ」


FTL航路へ跳び込んだ艦隊は、完全な暗闇の中へ消えていった。

その先に待つものは、誰にも見えない。

だがイレーネだけは、まるで未来を覗き見ているかのように、楽しげに微笑んでいた。


・ ・ ・


その六時間後。

メクトの第1狩猟艦隊も、ニャドロット星系側のFTLジャンプポイントへ到着した。

彼らはイレーネの思惑通り、到着するや否や慌ただしくジャンプ準備に取り掛かる。


この時間差であれば、星系要塞が陥落する前に神聖帝国艦隊の背後を突ける。

メクト側はそう確信していた。

そして彼ら自身も、星系要塞との挟撃こそが必勝策だと信じて疑わなかった。


銀河の強国同士が威信を賭けてぶつかる戦いが、いよいよ始まろうとしていた。


・ ・ ・


七日後。

神聖帝国艦隊は予定地点に正確にジャンプアウトした。


ジャンプアウト直後、各艦はFTLドライブから通常航行へのエネルギー経路切り替えを行い、同時に周囲の状況把握に入る。


敵の第1狩猟艦隊の動向を掴むため、一機の偵察機がこの七日間、ニャドロット星系に残って身を潜めていた。

FTLジャンプポイント近くの小惑星に貼りつき、イレーネの第1艦隊からの秘匿通信を待ち続けていたのだ。


そしてついに、確認の通信が入る。

偵察機は予定通り、敵第1狩猟艦隊がFTLジャンプを実施したことを告げ、帰艦のため自らもFTLジャンプへ移行した。


イレーネはホログラムを見つめ、嬉しそうに笑った。


「ふふふぅ。シュロックター提督は跳んでくれたみたいですねぇ」


アーヴィンは星系情報ホログラフを展開し、状況を報告する。


「敵星系要塞は、この七日間で鉄壁の防御を整えたようです。

 周辺には攻撃ステーションとシールドステーションが多数展開されています。


 これでは落とすのに難儀しそうです。

 つまり――敵は完全に星系要塞が狙われていると“誤認”しています」


イレーネは満面の笑みを浮かべた。


「よぉし!特大のお宝が出ましたよぉ!」


アーヴィンは即座に通信を開き、全艦へ通達する。


「各艦に通達!作戦コード777、フェイズ2を実行せよ!」


神聖帝国主力――第1艦隊と第4艦隊は、ジャンプアウトポイントを遠巻きに包囲するように展開した。

レーザー兵器の最大効率距離である「至近照射距離」に、艦列をぴたりと揃える。


レーザー兵器は距離が伸びるほど、拡散・損耗・粒子干渉によって威力が落ちる。

「至近照射距離」とは、レーザーが最も効率よく敵艦へ届く距離――まさに“最大火力が出る間合い”だった。


イレーネはホログラムを見ながら、楽しげに言う。


「ふふふ、ジャンプ後すぐに要塞に行くと決めつけちゃダメですよぉ。

 ジャンプアウト直後が一番危険なんですからぁ。


 FTLドライブから通常航行へのエネルギー経路切り替えには、少しタイムラグがありますぅ。

 シールドの威力が最も弱いのが、FTLジャンプ直後なんですからぁ」


アーヴィンは肩をすくめた。


「敵は少々星系要塞に固執しすぎましたな。

 FTLジャンプ後の危機管理は、艦隊士官学校の中等部で習う基礎知識です。

 シズク様は基礎的な攻撃をしないという思い込みでしょうか」


イレーネはくすりと笑う。


「そうですねぇ。

 あるいは歴戦の勇者ともなると、基礎を忘れがちになるのかもしれませんねぇ」


アーヴィンは無表情のまま、全艦へ次の指示を送る。


「皆、準備を急げ!こちらの偵察機の情報によれば、敵のジャンプアウトは時刻1722頃だ。

 敵はしばらくレーザー兵器を撃てない。


 シールドには一切エネルギーを回すな。全て攻撃に回せ。

 スラスターへのエネルギーも態勢維持分の最小限で良い。


 この場で全弾撃ち尽くしても構わん。

 敵の到着と同時に、第1・第4の二艦隊総力で撃ち尽くせ!」


イレーネは真剣な表情で告げる。


「シュロックター提督の旗艦 《オロリ・ツァル》は必ず仕留めてくださいねぇ。

 脱出する暇も与えちゃダメです。弩級戦艦以上はレーザーも実弾も全部オロリ・ツァルにぶつけてください。

 敵艦のIDを再確認してくださいね」


アーヴィンは静かに頷いた。


「はい。第1狩猟艦隊は、良くも悪くも提督の威名によって成り立っている面があります。

 《オロリ・ツァル》を最優先で撃沈するのは効果的でしょう」


「はいっ!」


イレーネが満面の笑みでそれに応じた。

そして――運命の1722が訪れた。


・ ・ ・


「重力波、多数確認。

 敵艦隊、ジャンプアウトしてきます」


オペレータの声が提督室に響く。

それに対してアーヴィンが声を上げて全艦へ指示を飛ばした。


「全艦、敵を確認次第、全力で攻撃せよ!」


メクトの第1狩猟艦隊が次々とジャンプアウトしてくる。

だが、それと同時に取り囲んだ神聖帝国艦隊の主力艦から一斉射撃が行われた。

爆散していくメクト艦。


そしてついに敵主力艦が一斉にジャンプアウトした。


ジャンプアウトと同時にシュロックター提督が目にしたのは先行してジャンプアウトした燃え上がる友軍艦だった。

それと同時に彼の情報モニタには読めないほどのアラームの波が流れた。


一斉に神聖艦隊から雨のようにレーザー兵器が放たれた。

シールド展開を指示するシュロックター提督だったが、FTLジャンプ後の低出力のため、簡単に貫通してレーザーが艦を引き裂いていく。


慌てて指示をだそうとするが、ミサイルなどの実弾兵器も全て着弾し、艦が大きく揺れ、指示を出すどころではない。


まるで銃殺処刑場のようだった。


動けないメクト艦に向けて、数が倍の神聖帝国主力艦による最新兵器が襲いかかる。

一方メクト艦はシールドも張れず、一斉に向けられた砲弾によってAIがパンクして、追加装甲の展開すらできなかった。


そして、シュロックター提督は自身の失策を省みるより前に、自らの艦に向かって放たれる暴力的な砲撃によって、旗艦 《オロリ・ツァル》と共に爆散して消えた。


イレーネが叫んだ。


「やりましたよぉ!敵は混乱していますぅ!一隻たりとも逃がしてはなりません!

 私たちはシズク様なんですぅ!


 完全勝利以外は許されないと知りなさぁい!」


アーヴィンで少しだけ笑みを漏らす。


「十分すぎるほど完全勝利ですよ。シズク様もこれならばご満足されます」


その通りだった。

もはや第1狩猟艦隊は退くも進むもできず。ただただ銃殺されるのを待つのみだった。


・ ・ ・


五時間後。


第1狩猟艦隊は全艦が大破・爆散していた。

一方神聖帝国軍は、ほぼ無傷と言えた。


「総員、疲れているかもしれませんがぁ……。

 今が頑張りどころなんですぅ。


 星系要塞を攻めます!」


イレーネが叫んだ。


アーヴィンが頷きつつ、冷静に全艦に通達する。


「フェイズ3に移行します。

 第1狩猟艦隊を目の前で虐殺されたメクトは士気が大いに落ちているでしょう。

 

 敵要塞の火力はこちらの戦力の三割程度だ。

 第1狩猟艦隊なしでは、要塞陥落も時間の問題。


 もうひと踏ん張りせよ!


 栄えある神聖帝国将兵諸君。

 この勝利の先は、我らが銀河最強であることを証明してやろうぞ!」


神聖帝国艦隊は勢いのままに星系要塞に向けて突進した。

挿絵(By みてみん)

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!

硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。

第九十一話「特大のお宝」、今回はイレーネさんの作戦が完璧に決まりました!

「FTLジャンプ直後が一番シールドが弱い」っていう基礎知識を使った奇襲、本当に鮮やかですね!

しかもそれが「艦隊士官学校の中等部で習う基礎知識」って言われてるのが面白いです。

歴戦の猛将シュロックター提督が「基礎を忘れがち」になって罠にかかるとか、イレーネさんの人間理解が恐ろしいです!

偵察機一機をニャドロット星系に七日間ひそませておいて、第1狩猟艦隊がジャンプしたのを確認するとか、本当に細かい準備ですよね!

「鬼が出るか、蛇が出るか」「どうせお宝か特大お宝かでしょう」ってアーヴィンさんに言われてるのが、イレーネさんのキャラクターを表してますね!

シュロックター提督が「銃殺処刑場」で爆散するシーン、この作品随一の完全勝利感がありました!

そして「私たちはシズク様なんですぅ!完全勝利以外は許されないと知りなさぁい!」って、イレーネさんがシズクさんになりきってるのが、なんか微笑ましくて笑いました!

アーヴィンさんも珍しく笑顔を見せてくれて、二人のコンビが最高でしたね!

次回も、絶対見逃せませんよ~!

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