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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第六章 最後の抵抗、新たな支配

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第九十話 命令コード777

神聖帝国主力艦隊――第1艦隊と第4艦隊は、メクト主力の第3狩猟艦隊を左右から包むように猛攻を加えていた。


数では神聖帝国側が倍以上。

しかし、艦の一隻一隻はメクト・パクスの方が巨大で、装甲も厚い。

通常の包囲戦のように、数の暴力で一気に押し潰すことはできない。


第3狩猟艦隊は全エネルギーを注力したシールドと追加装甲を、帝国艦隊との対面方向に展開していた。

防御に徹し、ミサイルや実弾兵器を放って牽制しながら、じりじりと星系要塞へ向けて距離を詰めていった。


イレーネたち帝国艦隊も逃がさぬよう常に包囲を維持していた。

それでもメクト艦の耐久力は凄まじく、押し潰しきれずにいた。


・ ・ ・


第1艦隊旗艦 《メルエルニャ》提督室。

戦況を映すホログラムの前で、イレーネは頬を膨らませていた。


「うーん。硬いですね。ほんっと硬い。

 これがジソリアンだったら、今頃殲滅し終わってますよぉ」


アーヴィン中将は腕を組み、淡々と状況を読み取る。


「そうですね。さすが銀河一暴力的な知的生物です。

 戦うために生まれたような連中ですから。


 もう数時間撃ち合っていますが……削り切れたのは三割ほどでしょうか」


イレーネは肩をすくめた。


「あっちは防御に徹してますからねぇ。

 それでも三割削れてるなら上々ですよぉ。


 オークアルンク提督は……なかなか守り上手な方ですねぇ」


アーヴィンは星図を操作しながら続ける。


「はい。ニャドロット星系とニャロンメラン星系は三光年ほどしか離れていません。

 その距離なら、FTLジャンプで三日ほどで飛べます。

 まもなく第1狩猟艦隊が到着するはずです。


 オークアルンク提督は万全に守りながらも、星系要塞への撤退姿勢を見せつつ、

 それでいて我々をニャロンメラン星系のFTL航路出口との対角線上に誘い入れています」


イレーネはホログラムを見つめ、静かに言った。


「上手いですよねぇ。教科書に載ってもおかしくないくらいの采配ですぅ。

 これだけ綺麗に各個撃破の形を取られていながら、まだ反撃を諦めていない。

 オークアルンク提督も曲者ですねぇ」


アーヴィンは苦笑し、イレーネに視線を向ける。


「いえ、真の曲者は……それすら読み切って、その先を組み立てている貴女ですよ」


イレーネは手をひらひらと振った。


「煽てても何も出ませんよぉ。

 私は内勤に左遷された“元”提督なんですからぁ」


そして、ホログラムの敵艦隊を指さす。


「さぁ、相手に逃げる気がないなら――遠慮なく削らせてもらいますよぉ!」


・ ・ ・


そこからさらに数時間の激戦が繰り広げられた。

イレーネとアーヴィン、二人が見つめるホログラフ戦況情報に赤い文字のアラームが大きく発生した。


「来ましたかぁ!」


大規模重力波を検知。

それはまさに第1狩猟艦隊の参陣を知らせるものだった。


アーヴィンが星図を確認しながら報告した。


「艦艇多数確認。コード照合。第1狩猟艦隊ですね。

 率いるのは破壊王の異名を持つシュロックター提督です。


 まっすぐ全速力でこちらへ向かってきます。

 十五時間後に接敵します」


イレーネはいつも通りの表情で頷いた。


「破壊王だなんて物騒ですねぇ。

 作戦コード777を実行!」


作戦コード777が第1艦隊、第4艦隊の全艦長に向けて送信された。


艦長達は作戦コードDBから紐づいた作戦を開き、もう一度しっかりと読み込んで頭に叩き込んだ。

そして、全艦一斉に動いた。


神聖帝国内で最も練度が高く統制が取れたシズクの艦隊である。

一糸乱れぬ動きで、即座に攻撃から防御へと切り替える。


今度は神聖帝国側がシールド、追加装甲をメクトに向ける。

全くの隙を見せずに神聖帝国側のニャークォテッド星系へのFTL航路ポイントに向けて整然退却を開始した。


第3狩猟艦隊側も一瞬の戸惑いを見せた。

だが、すぐに攻勢に転じた。


シズクは戦況把握の速さで知られている。

ゆえにこれだけの戦果をもって良しとし、初戦は撤退すると読んだのだろう。


もちろん退却の擬態の可能性も考慮して、オークアルンク提督は深追いもせず、少しでも削り返そうと全力で攻撃を放つに留めた。

そして第1狩猟艦隊のシュロックター提督は、まずは第3狩猟艦隊との合流を第一とし、神聖帝国側の動きに警戒しつつそのまま全速力で進んだ。


神聖帝国軍は最小限の被害に抑えながら一定距離を取った後、反転して退却ポイントへとゆっくり進んだ。


・ ・ ・


十五時間後。


第1狩猟艦隊と第3狩猟艦隊は合流した。

第3狩猟艦隊は修理のため、徐々に星系要塞へ向けて後退を始めた。


・ ・ ・


「よぉし!頃合いですね!」


イレーネが唐突に叫ぶ。

アーヴィンが各艦の状況に目を通し、冷静に報告する。


「はい、予定の宙域です。双方の位置関係も計画通りです。

 ここから全速力で進んだ場合、ニャロンメラン星系へのFTL航路地点へは、敵第1狩猟艦隊よりも六時間早く我々が到着します。

 FTLドライブにはここまで移動中に全艦チャージ済みです。

 すぐに飛べます」


その報告を聞きつつ、イレーネも盤面上の宙域情報を見渡しながら、全体の状況を計算していく。


「はい!良し良しですよぉ!」


「我々がニャークォテッド星系への退却ではなく、ニャロンメラン星系への攻撃のための偽装だったと知られれば……。

 シュロックター提督は目を血走らせて追ってくるかもしれませんね」


「うふふ。猛将タイプは扱いやすいのがいいですねぇ。

 では作戦コード777の第二劇開幕ですよぉ!」


第1艦隊旗艦 《メルエルニャ》がニャロンメラン星系へのFTL航路地点へ向けて回頭する。

それに全艦が綺麗に追従する。


「最大船速でニャロンメラン星系へ向かってください」


イレーネの号令を受け、代わりにアーヴィンが全艦へ展開した。

神聖帝国の第1艦隊、第4艦隊が一斉に直進する。


慌てたのは第1狩猟艦隊だ。


神聖帝国軍が退却すると踏んでいたため、第1狩猟艦隊は星系要塞へ撤退する第3狩猟艦隊の護衛として合流してしまった。

ニャロンメラン星系は地方艦隊の第1守護艦隊しかいない。

最強と名高いシズクの神聖帝国軍が本気で攻めるならば守り切れるわけがない。


ニャロンメラン星系はメクトにとっても守りの要。

ここを奪われると残りの星系が孤立する上に、逆に神聖帝国側がどちらにも攻め込めるという心理戦を展開できる。

メクト側からすると失いたくない拠点である。


第1狩猟艦隊のシュロックター提督は即座に反転し、こちらもニャロンメラン星系へのFTL航路地点へ転進する。

移動しながらのFTLドライブチャージが必要で最大船速が出せない。

アーヴィンの計算通り、六時間ほどタイムラグが発生するだろう。


・ ・ ・


神聖帝国艦隊は、予定通り先にニャロンメラン星系へのFTL航路地点へ到着した。


アーヴィンがてきぱきと各艦へFTLジャンプの指示を出していく。

イレーネはその様子を傍で見つめながら、ゆっくりと紅茶のカップを手に取った。


「さぁて、ここからが作戦コード777の本番ですぅ。


 シュロックター提督。

 ニャロンメラン星系があなたのお墓になりますよぉ」


一口すすると、にっこりと笑った。

挿絵(By みてみん)

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!

硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。


「命令コード777」、今回はイレーネさんの大掛かりな罠が発動しました!

「退却に見せかけた偽装」って、本当に大胆ですよね!


第3狩猟艦隊を削りながら、第1狩猟艦隊を引きずり出して、しかも合流させてから一気にニャロンメランへ向かうとか、手順が多すぎて凄いです!

何が凄いかって?

第3狩猟艦隊は追ってこれないようにある程度削っておくんです。

そうなると第1狩猟艦隊が慌てて追っかけてきますよね。


最初から冷静さを失った状態で第1狩猟艦隊を孤立させるのが目的だったんですよね。

細かい所ではオークアルンク提督に「シズクは初戦は退くと読んだのだろう」って判断させたのが完全に計算通りですし。

オークアルンク提督は「擬態の可能性」を考慮しました。

これってオークアルンク提督が優秀な証拠です。

偽退却を深追いして反撃を受けるパターンも多いですからね。

でもそう正しく判断することすらも計画通りです。

実際愚かにも追ってこられたら全てのタイミング計算が狂います。

敵が優秀だからこそ優秀な動きを先読みする。

イレーネの恐ろしさですね!


「ニャロンメラン星系があなたのお墓になりますよぉ」って、紅茶片手ににっこり笑いながら言うイレーネさん、最高に怖くてかっこいいです!


ただ孤立させただけなら、第3狩猟艦隊と同じで削り切れない可能性がありますよね。

ってことはもう一罠くらいありそうですね!


次回も、絶対見逃せませんよ~!

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