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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第六章 最後の抵抗、新たな支配

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第八十九話 メインディッシュ

第3守護艦隊は、神聖帝国主力――第1艦隊と第4艦隊の圧倒的火力に追い詰められていた。


逃げることすら許されない。

背を向けて星系要塞へ全速で退けば、その瞬間に後方から撃ち抜かれる。

だからこそ、彼らは前面にシールドと追加装甲を展開し、じりじりと後退しながら要塞へ向かうしかなかった。


星系要塞からは大型レーザー砲とミサイルが雨のように降り注ぎ、守護艦隊を援護する。

だが、神聖帝国主力艦隊の防御は厚く、要塞砲撃を受けながらも陣形を崩さず、確実に敵艦を削り取っていく。


守護艦隊の艦列は、確実に崩壊へ向かっていた。


・ ・ ・


第1艦隊旗艦 《メルエルニャ》提督室。

戦況を映すホログラムの前で、イレーネは頬を膨らませていた。


「うぅーむ。

 神聖帝国の地方艦隊なら、とっくに全滅させていてもいいくらいですけどぉ……。

 硬いですねぇ。勝ち確ですが、全滅まではいきませんでしたぁ」


アーヴィン・ミャクス中将は腕を組み、淡々と状況を分析する。


「そうですね。そろそろ敵主力の第3狩猟艦隊がここに到着する頃でしょう。

 あと少し追い込めば全滅も可能ですが……被害は増えます。

 多少無理してでも守護艦隊を殲滅しますか?」


イレーネは首を横に振った。


「いーえ。当初の予定時間通り退きますよぉ」


「承知しました」


アーヴィンは頷き、ホログラムを切り替える。


「もうすぐその予定時間です。作戦コード022を全艦に展開します。


 全滅させられなかったのは惜しいですが……撃滅したのは守護艦隊の七割ほどでしょうか」


「七割ですかぁ。及第点です。十分ですよぉ」


イレーネは指先で机を軽く叩きながら続けた。


「それに今思いましたが、全滅より今の状況の方が良いですねぇ。

 全滅させると、今度は“仇を取る”ために全力で向かってきますぅ。

 でも大敗させただけなら、まずは生存者の保護に走りますよねぇ」


アーヴィンは目を細め、納得したように頷いた。


「なるほど……確かに。

 軍事心理学としては、敵行動を誘導するのは鉄則です。

 確実に敵の優先順位を操作できますね」


イレーネはにこりと笑う。


「さぁ、次は第3狩猟艦隊ですよぉ。

 2対1。数の差で包囲殲滅する――」


そして、意地悪そうに目を細めた。


「――ように見せかけながら近づきますよぉ!」


第1艦隊と第4艦隊の艦長たちはイレーネの命令コードを受け取ると、的確に指示を出していく。


アーヴィンが意外そうに問いかけた。


「しかし、意外でした。

 軍略的に見れば、今この状況は敵主力である第3狩猟艦隊を撃破する絶好の機会です。

 この各個撃破の最大のチャンスを敢えて見逃すとは……」


確かにそうだ。第3狩猟艦隊は主力艦隊とはいえ、現在孤立している。

同じく主力艦隊である神聖帝国第1艦隊と第4艦隊という倍の戦力で押し切れば、第3狩猟艦隊をも撃破できるはずだ。


ほとんど損害を出さずに、第3狩猟艦隊と第3守護艦隊を壊滅状態にまで持ち込めるのだ。

教科書並みに綺麗な各個撃破戦術を準備しておきながら、イレーネはそれを無視するというのだ。


アーヴィンでなくても意外に思うだろう。

イレーネは誇るでもなく、いつも通りの口調で答えた。


「そうですねぇ、二艦隊で常に敵一艦隊を包囲して各個撃破する。

 確かに今回は綺麗にハマりましたぁ。


 ですけど、これだけ綺麗な各個撃破戦だとぉ。

 敵も対策は打ちやすいですよぉ。

 特に経験豊かな提督であれば、こういう危機は何度も経験してますからねぇ。


 それに私達の狙いはぁ――第1狩猟艦隊の撃滅ですぅ!

 

 ほらぁ、美味しそうな料理が途中で出てきたからと言ってぇ。

 それを沢山食べたら、メインディッシュがお腹いっぱいで食べられなくなりますよぉ」


あまりの緩さにさすがにアーヴィンもあきれ顔で返す。


「そうですね。楽しみは最後に取っておきましょう。

 それに守護艦隊でもあの硬さです。

 正攻法の包囲各個撃破作戦では倒し切る前に第3狩猟艦隊が星系要塞に逃げ込むかもしれません」


「そうっ!それなんですよぉ!

 やっぱりこういう硬い敵はぁ、奇策で打ち破るしかありません!」


アーヴィンは頷くと、そのままホログラフを指さす。


「提督、我々はこのまま直進して第3狩猟艦隊を襲撃します。

 敵もこちらの動きを警戒しながら一直線で星系要塞に向けて進んでいます。


 間違いなく敵が星系要塞射程内に入る前に我々の倍の戦力で接敵します。

 時間は12時間後です。

 

 少しお休みください。

 兵達も後退で休憩を取らせます」


「はぁい!そうしてください。

 私も休ませてもらいますねぇ。


 アーヴィンさん、接敵して半日は戦闘が続きますよぉ。

 今はゆっくり皆さんを休ませてあげてくださいね。


 本命とは違うと言っても、倍で襲撃するんですぅ。

 本気で戦いますからねぇ!

 可能な限り第3狩猟艦隊を削りますよぉ」


アーヴィンも頷き、盤面上で時間経過シミュレーションを走らせる。


「おそらく何割か削った所で第1狩猟艦隊がこの星系に現れるでしょう」


イレーネはにやりと笑う。


「そこからがこの戦いの本番ですぅ」


「はい、敵がどう出るか……ですね」


「どう出ようが関係ありません。

 第1狩猟艦隊が現れた時点で命令コード777の出番ですぅ!」


「はい。

 ですが、まずは第3狩猟艦隊です。

 提督、私は失礼いたしますので、その本番に備えてください」


「はぁい!」


・ ・ ・


艦隊は亜光速で航行するとはいえ、星系を横断するにはそれなりに時間がかかる。

だが、それこそがクルー達の体を休める時間となる。


そして10時間。

神聖帝国とメクト。


この二大強国の主力艦隊が今まさにぶつかろうとしている。

既にそれぞれの位置はレーダー捕捉範囲内で、亜光速航行しながらも第一種戦闘配備がなされている。


神聖帝国は二艦隊、倍の戦力で押し切るべく、攻撃重視の態勢で臨んでいる。

一方、第3狩猟艦隊は防御を密にしながら包囲されないように動いて、あわよくば星系要塞に向けて突き抜ける算段だろう。


まもなく、主力艦隊同士の決戦が始まろうとしていた。


・ ・ ・


「提督、敵艦隊、間もなく射程に入ります」


「はい!作戦コード022始動ぉ!」


全艦がコード22に従って、一気に敵第3狩猟艦隊に向けて火力を集中させる。


レーザー兵器七割、実弾兵器三割の配分で一気に敵に向けて攻撃を仕掛ける。

敵も反撃を開始するが艦艇数が倍の神聖帝国は手数が多い。

どうしても守る形になる。


また重点的に放たれるレーザー兵器を止めるため、第3狩猟艦隊はスラスターに回す分のエネルギーすらもシールドに回す必要があり、どうしても星系要塞に向けて移動する足が鈍る。


完全に足止めだ。


艦隊戦で戦力差を覆すのは難しい。

徐々に第3狩猟艦隊に被害が蓄積されていく。


「皆さん、頑張って!いいですよぉ!無理はしなくて良いです!

 時間をかけてゆっくり削り切るんですよぉ!


 そして!


 早く第1狩猟艦隊――来てくださいっ!」

挿絵(By みてみん)

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!


硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。

第八十九話「メインディッシュ」、今回はイレーネさんの長期的な視野が光りました!

「全滅より大敗の方が良い」って発想、めちゃくちゃ冷静ですよね!


全滅させると仇討ちで全力で来るけど、大敗させると生存者保護が優先になる。


敵の行動まで計算に入れるイレーネさん、本当に恐ろしいです!

そして、綺麗な各個撃破戦術がハマってるのに、あえてそれを使わないっていう発想も、なかなか真似できないですよね。


「美味しそうな料理が途中で出てきたからと言って、それを沢山食べたら、メインディッシュがお腹いっぱいで食べられなくなりますよぉ」って、たとえが抜群に上手いです!

アーヴィンさんが「楽しみは最後に取っておきましょう」って乗っかってるのも、二人のコンビが板についてきましたね!

そして「命令コード777の出番」って、前フリがしてありますが、一体何なんでしょう!


第1狩猟艦隊が来た瞬間に発動する切り札、めちゃくちゃ気になります!

次回も、絶対見逃せませんよ~!

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