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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第六章 最後の抵抗、新たな支配

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第八十七話 イレーネの秘策

メクト・パクスに占領されている星系――

ニャドロット星系、ニャロンメラン星系、ペニャンドーク星系。


この三つはメクトと国境を接する神聖帝国辺境に位置し、星系要塞は既にメクトによって完全占領されていることが分かっている。


それらを領有していた貴族連合の公爵、侯爵たちの安否は確認されていない。

私設艦隊、防衛艦隊は既に撃滅されたとの報が伝わっており、領主たちの生存もおそらく絶望的だろう。


だが、これらの星系にはそれぞれ植民惑星があり、一定数のニャーンが居住している。

ほぼメクトによって実効支配されているとはいえ、今なお国際法上はニャニャーン神聖帝国に所属する星系だ。

メクト―ニャニャーン国境戦争の終戦に際して、このまま現状認定の調印がなされれば、星系そのものを奪われることになる。


メクト自体は先進種族であり、占領した住民を虐殺することはない。

しかし時折、異星人を気分次第で捕食するという習性を持つため、救出に時間をかけるわけにはいかなかった。


今回もイレーネの遠征艦隊は、ゲートウェイを使った最短経路で現地へ向かっている。

それでも二ヶ月は掛かるため、戦略を練る時間は十分に確保できていた。


・ ・ ・


扉が三度、控えめに叩かれた。


「アルシアです。お呼びと伺い、参上しました」


落ち着いた声が外から聞こえる。


「はぁい、どうぞお入り下さぁい」


イレーネが気の抜けた声で返すと、扉が開き、アルシアが一礼して部屋に入ってきた。

提督室の空気を一度見回したアルシアは、すぐに本題に入った。


「失礼します。

 ……戦略について、方針を決められましたか?」


イレーネは椅子にもたれたまま、軽く頷いた。


「はい、ですがぁ。

 私はシズク様ほど優れておりませんので、答え合わせがしたくてぇ」


「私でお役に立てますか?」


その言葉に、アルシアは少し身を乗り出した。

イレーネは両手をぱたぱたと振った。


「立てます、立てますぅ。

 では作戦会議をしましょうかぁ」


イレーネは卓上のホログラムを操作し、三つの星系を表示させる。


「ニャドロット星系、ニャロンメラン星系、ペニャンドーク星系についてです。

 これらの星系はこの順に横並びとなっていて、ニャロンメランからは双方に援軍を出せますぅ。

 逆にニャドロットとペニャンドークは、互いに直接は繋がっていませんよぉ」


アルシアは頷き、星図を確認した。


「はい、仰る通りです。

 それぞれ境界上には、下部主力艦隊を防衛として置いています。

 それゆえに、ニャロンメランを経由してまで敵三艦隊が集うことはないでしょう。


 ニャロンメランを攻めた場合は三艦隊と、その他の星系を攻めた場合は二艦隊と対峙することになります」


「そうですよねぇ」


イレーネは頬に指を当てて考えるふりをする。


「だから私達の最初の選択肢は、ニャドロット星系かペニャンドーク星系に限られますよねぇ」


「はい」


アルシアは淡々と続ける。


「それでも攻めた途端、ニャロンメランの狩猟艦隊がすぐに駆け付けるはずです。

 そうなると三対二。

 敵には星系要塞のサポートがあるため、こちらは圧倒的に不利と言えます。


 如何に先制攻撃で戦果を挙げるかが重要になりましょう。

 もちろんそれは敵も想定しているため、序盤は守りに徹してくることでしょう」


「ふーむ、そうですよね。普通はそう考えますよねぇ」


イレーネがわざとらしく唸ってみせると、アルシアが目を細めた。


「普通?

 イレーネ提督は、私の考えが平凡だと?」


「え?いーえ、逆ですよぉ。」


イレーネは慌てて両手を振る。


「アルシアさんはとても優秀な方です。

 そして敵も主力艦隊筆頭が居ますぅ。

 だから、きっとそうなるんだろうなぁって思い知っただけですよぉ」


「策がない状態ですか?」


アルシアが探るように問う。

イレーネは口元だけで笑った。


「一応あるにはありますよぉ。

 その前に次の質問、良いですかぁ?」


「はい。」


「情報だと、ニャドロット星系、ニャロンメラン星系、ペニャンドーク星系。

 この順で第1狩猟艦隊、第2狩猟艦隊、第3狩猟艦隊が待ち構えていますぅ。


 基本的にナンバリングが若い艦隊ほど主力であり強いですよねぇ。

 ニャドロットを避けて、“普通”はペニャンドーク星系を攻めることになりそうですよねぇ」


アルシアは一度視線を落とし、静かに答えた。


「それなんですが、気になって少し諜報してみました。

 おそらく第3狩猟艦隊、第1狩猟艦隊、第2狩猟艦隊の順で配置されています。


 イレーネ提督も“普通は”と仰るということは、狙いはニャドロットでしたか?」


「あー、やっぱりぃ?」


イレーネはぱっと顔を明るくした。


「さすがアルシアさんですぅ、お仕事がはやい!

 私はぁ調べてなかったので、お願いしようかと思ってましたぁ。


 はい、攻めるならニャドロットかなぁとは思っていましたが、予想は当たってましたねぇ!」


アルシアは小さく息を吐く。


「……なかなか複雑ですね。

 これに気づけたのは、私なりには会心の閃きでしたが……。

 まだまだシズク様やイレーネ殿には、大きく差を付けられているようです」


「いえいえ、私とアルシアさんは多分横並びですよぉ」


イレーネは軽く手を振って否定する。

だがすぐに表情を引き締める。


「でもぉ……。

 これで敵の第1狩猟艦隊を最初に狩る算段が立ちましたぁ!」


「第1を……?」


その言葉に、アルシアが思わず聞き返す。

イレーネは満面の笑みを浮かべる。


「はぁい! こういう戦術ですぅ」


イレーネはコンソールに手を伸ばし、戦術コードを入力する。

あらかじめ入力済みだった戦術指示が、細かい手順と共にホログラム上に展開される。


「これを全艦長に展開してください。

 事前によく読んで確認しておくようにとぉ。


 基本的にぃ、私が口頭で指示すると間が抜けるので、全部戦術コードで指示することにしますねぇ」


アルシアは戦術情報に目を通すと、言葉を失った。


「こ、これをイレーネ殿が?」


イレーネは胸を張る。


「はぁい!」


イレーネは急に真面目な顔になって問いかける。


「行けると思いますか?」


「はい、最良の策かと」


その答えに、イレーネは微笑んだ。

挿絵(By みてみん)

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!


硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。

第八十七話「イレーネの秘策」、今回はイレーネさんとアルシアさんの作戦会議でした!

イレーネさんの「答え合わせがしたくてぇ」っていう謙遜、本当に上手いですよね!


アルシアさんに「普通はこうなりますよねぇ」って言わせてから、自分の本当の策を出すっていう、完全に誘導してます!

そして、アルシアさんが「第3、第1、第2の順で配置されています」って自分で調べてきたのを聞いて、イレーネさんが「さすがアルシアさんですぅ、お仕事がはやい!」って褒めるのも、本当に上手な人の使い方ですよね。

イレーネさんの「私とアルシアさんは多分横並びですよぉ」っていう謙遜にアルシアさんが「まだまだ大きく差を付けられているようです」って返すの、二人の関係性がすごく良い感じです!

そして、緻密な戦術コードを見て言葉を失うアルシアさんと、それを出した後に急に真面目な顔で「行けると思いますか?」って聞くイレーネさん。


普段の気の抜けた態度と、本気の瞬間のギャップがすごく魅力的でした!

第1狩猟艦隊を最初に狩るっていう逆転の発想、どんな戦術コードなのか、めちゃくちゃ気になります!

次回も、絶対見逃せませんよ~!

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