第八十四話 奇跡再現
角砲の光が収束し、今まさに放たれようとしている。
その瞬間――
カイの脳内で、自分自身の声が怒鳴った。
(何を諦めている。
お前はクリムゾンの嫡男だろうが!!)
カイの目が見開かれる。
「……そうだ。
俺はクリムゾン。死ぬ瞬間まで諦めん!」
カイは立ち上がり、叫んだ。
「全艦、敵角砲に向けて突進せよ!!
恐れるな!!
この手の武器は“近すぎる射程”では撃てん!
威力が高すぎて誘爆するからだ!!
弱点は――敵の懐だ!!
我らの速さで出し抜いてやれ!」
第5艦隊が一斉に加速する。
「クリムゾンの速度を舐めるなぁ!!」
角砲の誘爆危険射程内に突入する。
“突き通す角”艦隊は、
まさか第5艦隊が捨て身で突進してくるとは、
思っていなかったため、一旦角砲を諦めて盾艦が前方を塞ぐ。
「気にするな!そのまま体当たりしろ!!」
第5艦隊は速度を落とさず、さらに加速する。
その最中――
カイは自問自答を始める。
(考えろ、カイ。
父上ほどの統率力であれば、もう間近に来ているはずだ。
あとは――飛び出す場所を選んでいるだけ。
冷静になれ……!
父上ならどこから来る……?
この小惑星帯は“川”だ。
流れの緩急がある……!)
カイはホログラムに小惑星帯の三つのポイントを表示する。
K12ポイント。
巨大小惑星が流れを塞ぎ、周囲は比較的安全だが大回りが必要となる地点だ。
K26ポイント。
小型岩石群が激しく流れる濁流地帯であり、最も危険で、最も読めない。
K39ポイント。
小惑星の切れ間であり、最も飛び出しやすい地点だ。
クリムゾンの勢いを活かすならここだろう。
カイは静かに笑った。
(ふん……父上なら考えるまでもないな)
第5艦隊が盾艦へ突進。
「総員、衝撃に備えろ!」
激しい火花が散り、それぞれの追加装甲が剥がれ飛ぶ。
ぶつかり削り取る間、艦船が激しく揺れる。
両手で提督席の机を握ったまま、
カイが叫ぶように指令を出す。
「全艦、敵艦に体当たり後は宙域X22Y52へ突き抜けろ!!
そのまま敵に尻を見せて逃げ切れ!!」
副官が叫ぶ。
「て、提督!?
あの角砲からは逃げ切れません!
背後から狙われます!!」
カイは振り返らずに言う。
「構わん!!突き進め!」
第5艦隊はカイを信じ、
次々と盾艦へ突進し、激突し、擦れ合い、
火花を散らしながら背後へ抜ける。
敵盾艦はカイの反転攻撃を警戒し、
第5艦隊が進行する側へ移動しながら、
対角線上に防御線を張る。
角砲は射程が開くのを待ち、
再度チャージを開始した。
カイのモニタにはロックオン警告が限界表示される。
(父上……!)
カイは目を瞑る。
その瞬間、“突き通す角”艦隊の背後で、
巨大な爆発が連鎖する。
ドッキング中の弩級戦艦は回頭できない。
盾艦はすべて第5艦隊側を向いている。
背後は――完全に無防備。
そこへ銀河最強の火力を誇る第2艦隊が出現した。
即時、その最大火力を“突き通す角”艦隊に向けて放った。
通信が開く。
「待たせたな、カイ!!」
「……やはり父上ならK26ポイントから来ると思っていました。
最も敵の予想を裏切る地点はK26ポイントです。
安全なんて関係ない。
父上にはどこでも同じですからね!
それに時間まで予想とピッタリだ。
父上らしい……。
人を待たせるのが嫌いな性格が出ています」
敢えてカイはK26ポイントが敵の背後になるように、
計算して突き抜けた。
父の行動を読み切っていたからに他ならない。
トウガは笑う。
「俺の行動をお見通しか!
こんなお膳立ては期待していなかったが――。
だがな、俺は“据え膳”はちゃんと食うタイプだ!!」
トウガの第2艦隊が背後から撃ち抜き、
カイの第5艦隊が反転して前方から襲いかかる。
銀河最高火力の二艦隊に挟まれ、
“突き通す角”艦隊は身動きが出来ない。
慌ててドッキングケーブルを遮断しようとするが、
それよりも先に中央の弩級戦艦が、
第2艦隊の猛火力によって撃ち抜かれる。
弩級戦艦の爆発に巻き込まれ、周りの戦艦も大破していく。
そこに容赦のないトウガの攻撃が加わる。
「俺の可愛い息子を可愛がってくれたようだな。
皆、容赦するな!
こいつらは血も涙もない虫どもだ。
害虫にすぎん、全て焼き払え!」
多艦式位相収束光槍……その唯一の弱点はすぐに動けないこと。
それはすなわち、背後からの攻撃に対して極めて脆いことを意味する
銀河最強の火力を誇る、トウガによってその弱点を突かれたのだ。
瞬く間に三隻の弩級戦艦とその周りの戦艦たちが宇宙と塵と消える。
弩級戦艦たち固定砲台は爆散し、盾艦たちもトウガとカイによって、
挟み撃ちにあい、右往左往する内に撃破されていく。
呆気ないほど簡単に"堅忍不抜の甲殻"艦隊は全滅した。
残るは“堅忍不抜の甲殻”艦隊のみ。
「父上……!」
「さぁ、カイ。
ここからが本番だ。
甲殻を叩き潰すぞ!!」
ついに1対3だった状況が2対1に逆転した。
“堅忍不抜の甲殻”艦隊は防御に固いと言えども
物量に弱い。いずれは貫かれる。
クリムゾンの速度に翻弄される“堅忍不抜の甲殻”艦隊、
この艦隊は矛あっての盾。
単独では驚くほど弱かった。
時間が経つにつれ、
自慢の盾は砕かれて一艦、また一艦と撃沈していく。
遂にはコロンニャ星系のジソリアン艦船は、
一隻残らず駆逐された。
トウガはカイの艦隊に合流し、第5艦隊が単独で
ナ=リダー提督の"突き通す角"艦隊、
ガスナ=イルベン提督の"堅忍不抜の甲殻"艦隊、
テル=ウェーガン提督の"激烈なる酸"艦隊、
この三艦隊を打ち破ったことを銀河に知らしめた。
零七の奇跡を覚えている者はこの銀河にはまだ多い。
神聖帝国が零五の奇跡を再び起こしたことは、
神聖帝国だけではなく、全銀河の星間国家で驚きを呼んだ。
むろん武勇を尊重するジソリアンにとって、
カイという新たな英雄は敵ながらにして畏敬するべき対象となった。
ジソリアン戦役はこうして終幕を迎えた。
★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★
はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!
硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。
第八十四話「奇跡再現」、今回は零五の奇跡が完成しました!
カイさんが絶体絶命の危機の中で、自分自身に
「何を諦めている。お前はクリムゾンの嫡男だろうが!!」って叫んだシーン、
めちゃくちゃ熱かったです!
そして、「角砲の弱点は――敵の懐だ!!」って気づいて、
捨て身で突進するとか、本当にクリムゾンらしいですね!
でも普通なら弱点じゃないんですよ。
クリムゾンの突進力があるから弱点にできたんです。
さすがクリムゾンですね。
一番感動したのは、カイさんがトウガさんの行動を完璧に読み切ってたことです!
普通ならクリムゾンの突進力なら一番緩やかなK39ポイントだと思うのですが、
トウガさんにとっては緩やかとかどうでも良かったみたいですね。
どこでも一緒なら敵の裏をかくところが一番!ってことなんですよね。
あとは、「人を待たせるのが嫌いな性格が出ています」って、
トウガさんの性格まで読んでるのが、本当に親子愛を感じます!
完璧なタイミングでトウガさんに背後を取らせる戦術は見事です。
トウガさんの「俺の可愛い息子を可愛がってくれたようだな。
皆、容赦するな!こいつらは血も涙もない虫どもだ。
害虫にすぎん、全て焼き払え!」って、めちゃくちゃ父親ですよね!
そして、零五の奇跡が完成して、「神聖帝国が零五の奇跡を再び起こしたことは、神聖帝国だけではなく、全銀河の星間国家で驚きを呼んだ」って、本当に伝説になりましたね!
これはジソリアンの侵攻をこれから抑えるという効果もありますし、
カイさんが、今度こそウララ女帝から零七光章の授与をしてもらえるかもしれませんね!
さて、次回からは少し時を戻して、シズクさんのメクト・パクス統制府との戦争になります。
シズクさんもトウガさんに負けない英雄。見逃せませんね!




