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ニャニャーン大乱記  作者: ひろの
第六章 最後の抵抗、新たな支配

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第八十二話 毒虫の最期

「"突き通す角"艦隊と"堅忍不抜の甲殻"艦隊、こちらに向かってきます。

 同時に"激烈なる酸"艦隊は後退を開始!

 

 合流する模様!」


「逃がすか!合流させるわけにはいかん。

 確実に各個撃破だ。


 足止めが要るな……。


 星系要塞映せ!」


破壊され放棄された神聖帝国の星系要塞がモニタに表示される。


「星系要塞の西地区を映せ。……そこだ」


半壊した要塞の外殻が映し出される。

だが西区だけは、外装が辛うじて形を保っていた。


「見ろ。西地区は比較的破壊が少ない。

 排熱層と外殻メンテナンス層が生きている。

 散布ノズルも残っているはずだ」


副官が息を呑む。


「……まさか、あれを使うおつもりですか?」


カイは迷いなく頷いた。


「使う。

 排熱層に潜入し、ジェネレータを自爆寸前まで過剰加熱させろ。

 排熱量が跳ね上がれば、プラズマ流が散布ノズルへ一気に流れ込む。


 その上で――」


カイは二つの敵艦隊の進行宙域を指し示す。


「外殻メンテナンス層のノズルを

 “突き通す角”艦隊と“堅忍不抜の甲殻”艦隊の進路へ向けろ。

 電磁シールドを張り、散布したプラズマを帯電させて固定するんだ」


艦橋がざわめく。

副官が確認するように呟いた。


「……プラズマ霧を、宙域に“保持”する……?」


カイは冷たく笑った。


「そうだ。

 奴らのスラスターはイオン射出式が主装備だ。

 我々のプラズマスラスターと違い、

 外部プラズマを浴びればイオン流が乱れ、推進効率も姿勢制御も崩壊する」


副官が呟く。


「これで二艦隊が"激烈なる酸"艦隊の元に向かえなくなるということですか……」


カイは振り返り、艦橋全体に命じた。


「そうだ!

 航路を変えざるをえまい。そうなると救出は間に合わぬ。


 特殊部隊の小型高速戦闘艇コルベットを回せ。

 西地区へ突入、排熱層と散布ノズル層を部分占拠しろ。

 小規模防衛陸兵が要るはずだ。用心しろよ!


 完全制圧は不要だ。

 散布ノズルを開けて、敵二艦隊の進路にプラズマ霧を撒くだけでいい」


「は!」


特殊部隊のコルベット艦長がモニタに現れて敬礼する。


「――やれ」


艦橋が震えるほどの声で応じる。


「よし、では我らは毒虫に止めを刺しに行くぞ!

 空母ニャルガ=アストレイア、アーク=ニャミュレイ、グラン=ニャヴァロン!


 艦上攻撃機・バルク=ニャインダー隊、

 護衛艦上戦闘機・フェルニャ=ブレード隊、全機発艦!


 "激烈なる酸"艦隊にまとわりついて足を止めろ!

 敵直掩機を誘い出せ!


 直掩機が出来たらイオン砲を撃ちづらくなる」


三空母からクリムゾンの精鋭パイロットたちの艦載機が出撃していく。


「全艦、動きながら前進、逃げる"激烈なる酸"艦隊との距離を詰めろ。

 イオン砲には最大限警戒せよ!」


カイはこの宙域全体を碁盤のように支配していく。


「俺は……クリムゾンは……一対一では絶対に負けん!」


・ ・ ・


特殊部隊のコルベット 《レッド・スレッジ号》がコロンニャ星系要塞の西区宇宙港に接舷する。


要塞コンピュータに直接接続し、各種制御と同期させる。

ジェネレータを強制起動すると、要塞内の電源が確保され、内部施設が明るくなる。

工作兵が監視カメラの情報を接続して要塞内西区の状況を確認した。


特殊部隊隊長は、ヘルメット越しに全員を見渡し、

無言で手を振り下ろした。


作戦開始。


20名の隊員が同時にヘルメット内通信をONにする。

耳の奥で、隊長の低い声が響いた。


『聞こえるか』


『は!』


『いいか、状況を共有する。

 奴らはこの要塞に価値を見出していない。

 西区の駐屯守備兵は――数えるほどだ』


隊長の声は淡々としているが、

その内容は隊員たちの背筋を冷たくした。


『A112ブロック、A34ブロック、A10ブロック。

 蟻型部族のジソリアンが各十匹ずつ。

 電源が入ったことで警戒している。

 接触すれば戦闘は避けられん。気を抜くな』


新人隊員の喉が鳴る。


『奴らは飛ばないが、タフで力が強い。

 決して捕まるな。

 撃ち尽くすか、レーザーブレードで無力化しろ。

 頭部を落とした程度で油断するな』


その言葉に、

ジソリアンと戦ったことのない隊員の額から汗が落ちた。


隊長は続ける。


『3つの小隊に分ける。

 スレッジA、スレッジB、スレッジC。

 三方向から制御室へ向かう。

 可能な限り戦闘を回避しろ。

 最初に制御室に到達した小隊が安全装置を解除し、

 ジェネレータ出力を115%に固定して起動。

 外郭メンテナンスノズルを宙域X112に設定する』


『そこまでできたら撤退だ。

 撤退信号を出し、全スレッジ小隊はレッド・スレッジへ帰還。

 要塞から離脱する』


『――以上。行け』


スレッジAは静かに、影のように進む。

ジソリアンの巡回を避け、

崩れた通路を越え、制御室へ最短距離で向かう。


スレッジCは側面ルートから進入。

瓦礫の山を越え、

時折聞こえるジソリアンの足音に息を潜めながら前進。


スレッジBは中央ルート。

最も距離が短いが、敵の巡回も多い。


『……隊長、スレッジBだ。A32ブロックで接触。

 あ……が……つよ…い!』


通信が乱れ、金属音が響く。


『後退しろ! B、聞こえるか!?』


『……ッ、囲まれ――』


通信が途切れた。

最後に、金属が裂ける音だけが残った。


隊長は短く息を呑む。


『……スレッジB、応答なし。

 A、C、予定通り進め。

 Bの犠牲を無駄にするな』


隊員たちの胸に重いものが落ちたが、

誰も声を出さなかった。


スレッジAが制御室に到着する。

制御室前の隔壁は半壊していた。

隊長が手信号を出す。


「突入」


静かに、しかし迅速に制御室へ侵入。

内部は暗く、埃が舞っている。


技術兵がコンソールに接続ケーブルを差し込む。


『……電源系統、反応あり。

 安全装置、解除します』


古い要塞のシステムが唸りを上げ、

制御室の照明が一斉に点灯した。


『ジェネレータ出力――115%固定。

 過熱開始。排熱層にプラズマ流入』


『外郭メンテナンスノズル、宙域X112へ設定。

 電磁シールド層、帯電モードへ移行』


隊長が息を吐く。


『……よし。プラズマ・デブリ散布、開始。

 任務完了だ。撤退する』


スレッジCが制御室前に到着した。


『A、Cだ。合流する』


『よし、撤退ルートへ移る。

 Bの分まで生きて帰るぞ』


要塞外殻の散布ノズルが次々と開き、

内部で過熱されたプラズマが外宇宙へ噴き出す。


電磁シールド層が帯電し、

散布されたプラズマは霧のように宙域X112へ固定された。


巨大な“赤い雲”が、

ジソリアン二艦隊の進路を塞ぐ。


スレッジAとCは、

崩れた通路を戻りながら、

要塞の振動を背中で感じていた。


『ジェネレータ、過熱限界まであと九十秒。

 急げ!』


レッド・スレッジが見えた。


隊長が最後に振り返る。

スレッジBの隊員の顔が脳裏に浮かぶ。


一瞬だけ黙祷する。すぐに全員が乗り込み、

コルベットは要塞外殻から離脱した。


背後で、要塞の排熱層が赤く輝き続けていた。


・ ・ ・


プラズマ・デブリ帯に入り込んだ

"突き通す角"艦隊と"堅忍不抜の甲殻"艦隊の亜光速航行速度が激減する。

姿勢制御自体も不調が発生して、混乱が生じた。


ナ=リダー提督もガスナ=イルベン提督も名将、

すぐに全艦隊に関して指示を出し、該当宙域から離脱、

別航路でカイの第5艦隊を追う。


もはや救援は間に合わない。

彼らは瞬時に"激烈なる酸"艦隊を切り捨てた。


・ ・ ・


"激烈なる酸"艦隊はカイの思うままに追い詰められていた。


艦載機部隊は執拗に敵艦隊の足を狙う。


思わず"激烈なる酸"艦隊からも直掩機が出撃して、

航空戦・対空砲火戦が激しく始まった。


かしこに敵・味方の艦載機が爆散する光が走る。


だが、ここまで密集するともはやイオン砲は撃てない。


第5艦隊は一気に距離を詰める。


「頃合いだな」


カイはそう呟くと全艦隊・全艦載機に向けて指示を出す。


「全艦、全航空機にも通達!

 本日1535丁度に雨がふるぞ」


符牒だ。この星系ジャンプ直前に全クルーに共有されたもので、

敵には漏れていない。


イオン砲が撃てないと分かっているため、全艦隊が密集して射線を圧縮する。


時計が動く、15時35分。


全艦船からレーザー砲と宙間魚雷が一斉に放たれる。

艦載機は一斉に散開した。練度のなせる業だ。


"激烈なる酸"艦隊のほぼ全ての艦船が被弾して爆炎を上げる。


艦載機はすぐに引き返して敵直掩機を落としていく。


同時に再び第5艦隊は"激烈なる酸"艦隊に向けて突撃を開始した。


「敵全滅させよ、小型艦、戦闘機、一隻たりとも残すな!

 零五の奇跡の裏を見せる訳にはいかん!

 誰一人この星系から生きて返すな。全軍突撃!」


そこからは一方的だった。


元々ジソリアンは降伏をしてこない種族である。

戦いか死か。


カイは望み通り、敵を虱潰しに撃ち壊していく。


文字通り、"激烈なる酸"艦隊の全艦船・全艦載機が宇宙の塵と消えた。


「よし。まずは一艦隊」


カイが息を吐く。


それと同時に提督席のモニタに警戒メッセージが表示される。


第5艦隊後衛の駆逐艦・巡洋艦が被弾し、小破・中破を示すメッセージだ。


「もう来たか!」


"突き通す角"艦隊が背後から迫ってきた。


「全速前進、捉まるな!」


カイがすぐに指示を出す。


「前方、"堅忍不抜の甲殻"艦隊。

 挟撃してきます!」


オペレータの報告を聞き、初めて額に汗が浮かぶ。


「く、動きがいい。敵も凡将ではないようだ」


(……父上。

 この二艦隊に囲まれた状況――

 さすがの俺でも、長くは持ちませんよ)

挿絵(By みてみん)

★★ライト層読者さんへの簡単説明コーナー★★

挿絵(By みてみん)

はーい!作者子ちゃんによる、簡単に説明するコーナー!

硬派な人はスルーしてくださいね。ちょっとやってて恥ずかしいので…。

第八十二話「毒虫の最期」、今回はカイさんの圧倒的な戦術が描かれました!

カイさんが、破壊された星系要塞を使って「プラズマ霧」を散布し、

二艦隊の進路を塞ぐ作戦、めちゃくちゃ頭いいですね!


イオンスラスターというのは電場でイオンを加速して噴射する代わりに推進力を得るジェットエンジンのことなんです。この噴射流は極めて細いんです。

そこにプラズマが流れ込むとイオン流が乱れちゃうんですよ。

わからない?そうですよね、難しいですよね。私も頭が痛いです。

例えるなら、細いホースの水流に、横から大量の霧吹きを当てるとどうなると思います?

水流が乱れて真っすぐ飛ばなくなるんですよ。


それと同じことがイオンスラスターから出るイオン流にも起きるんです。

宇宙では噴出した分、前に進むと思えば上手く噴出できなくなれば進まなくなっちゃうってことなんですよね。


「排熱層に潜入し、ジェネレータを自爆寸前まで過剰加熱させ、

プラズマ流を散布ノズルへ流し込む」って、本当に天才的です!


カイさんの「本日1535丁度に雨がふるぞ」っていう符牒も、かっこよすぎます!

全艦からレーザー砲と宙間魚雷が一斉に放たれて、「激烈なる酸」艦隊が全滅したシーン、本当に圧巻でした!


でも、最後に「突き通す角」艦隊と「堅忍不抜の甲殻」艦隊に挟撃されて、カイさんが「さすがの私でも、長くは持ちませんよ」って言ってるのが、緊張感ありますね!

次回、トウガさんが登場するのか、めちゃくちゃ楽しみです!

次回も、絶対見逃せませんよ~!

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