第2章5 フェル・クアルド代表チームの動き
カァンッ!!
「それまで! 勝者、フェル・クアルド代表チーム、アーパレド!」
勝敗が決し、アーパレドは強めに息を吐いて全身の緊張を解いた。
弓弦につがえていた矢を引く力をゆるめて戦闘態勢も解くと、いまだ闘技場の床に尻をつけている相手にしかと向き直り、丁寧にお辞儀してから闘技場を降りた。
「さすが全大会の優勝国だ。主力メンバーでなくともあれほどの使い手がいるとは」
「こりゃあ今年も手ごわいメンツが多そうだ」
「本戦で早々に当たらないことを願いたいもんだな、まったく」
・
・
・
うっすらと聞こえてくる他チームの声はおおむね称賛に満ちている。
本番ではないとはいえ、少しばかり誇らしい気分になりながらアーパレドは、チームメイトの待つベンチへと戻ってきた。
「おつかれ様、なかなか食らいついてくる相手だったな」
声をかけてきたのはフェル・クアルドのチームリーダー―――ではなく、セカンダリーメンバーたちのまとめ役をしているディランだ。
今回の突発的に行われる事となった事前の個人戦において、シュハク率いるスターティングメンバーはこの試合会場にすら来ていない。
理由はシンプルにこの時間を利用して本戦に向けての英気を養っておいてもらう方が有意義だと、ディランが提案したからだ。
「はい、さすがに弓術だけでは苦戦しましたよ」
そう言って疲労感をあらわにするアーパレドに、セカンダリーメンバーの面々はよく言うと苦笑する。
「謙遜するな。その弓と矢のみであそこまで闘れるのはお前ぐらいのものだろう。俺は今でもお前ならスターティングメンバーでも通用すると思うぞ」
実際、アーパレドの弓術は単なる遠距離武器の域に留まらない。敵が接近しようが矢を単体で短槍のように扱って迎撃したり、弓と弦を巧みに利用して近接での攻防もしかとこなせる。
戦闘距離を選ばないそのスタイルと練度は確かにハイレベル。しかしアーパレド自身は首を横に振り、チームメンバーに否と返した。
「無理ですね。サブ……セカンダリーとしては十分役目を果たせるとは思います。ですがスターティングメンバーを務めるには僕じゃあまだ足りません」
事実、アーパレドに限った話ではない。
フェル・クアルド代表チームのセカンダリーメンバーは、全員がそれぞれの武術において主戦力級の実力がある。
にも関わらずセカンダリーメンバーにとどまっているのは、所詮は1系統の武術における実力者でしかないからだ。
さまざまな国から集う国際大会の選手は各々の国の威信も背負ってくるだけに、主戦力となる選手には一癖も二癖もある選手も少なくない。
真っ当な強さしか持たない者では主戦力は務まらないのだ。
それでもディラン達、セカンダリーメンバーの面々は誇りを持って大会に臨んでいる。自分達を選出してくれたのはあのシュハク王子であり、スターティングメンバーにはなれずとも名誉なこと。何せセカンダリーどころか補欠にも入れなかった者が祖国には大勢いる。
こうして大会に選手の1人として参加できるというだけでも、彼らは十分に満足していた。
・
・
・
セカンダリーメンバーが試合会場で奮戦しているその頃、シュハクは一つの飲食店を貸し切ってアルタクルエ公国の官僚、ノナムと会談していた。
「はい。フェル・クアルドには何とも申し訳ない事ではございますが、そちらの件に関しての進展はなく……」
とても人の良さそうな30代後半ほどの男性はションボリした様子で頭を垂らした。
「そうですか……いえ貴国の協力には大変感謝しております。もとより一朝一夕にてどうにかなるとは考えておりません、頭をお上げください」
一国の王子としての態度と気遣い。それは堂々としてかつ嫌味のない爽やかかつカリスマ性ある好青年たる者をノナムに見せる。
しかしシュハクの心の内は落胆の色に染まっていた。
「(いや、アルタクルエ公国の方々に非はないんだ。簡単に有益な情報が得られるならとっくの昔に得ている。落ち着かないと)」
表向きはしっかりとして心に波など立っていないかのように見える。
しかしシュハクは懸命に己に平静を言い聞かせていた―――と、そんな彼にノナムは一段と声をひそめて、再び口を開く。
「あと、これはその件とは別なのですが……今大会におきましてお恥ずかしながら我が公国内部に不穏な動きが見受けられております」
「! 不穏な……ですか」
「はい。前々より一部に公王様の方針に眉をひそめている者達はおりましたが、それがどうにも妙な動きを見せていると伝わってきておるのです。まあ噂程度ですので真偽も特定も現時点では致しかねるのですが、かつての事も考えますとお気をつけになるに越したことはないと思い、シュハク様にはお伝えしておきたく思いまして」
そう述べるノナムはさらに申し訳なさそうな、悲し気な表情を浮かべた。
何せ “ かつての事 ” はこのアルタクルエ公国にも非がある―――国家レベルの大失態だと言ってもいい。
いまだにその解決に至るモノを得られないでいる不甲斐なさは、一官僚でしかないが愛国心あるノナムにとっても心苦しいのだろう。
「ありがとうございますノナムさん。重々警戒しておきます。我々フェル・クアルドにとって、 “ かつての事 ” は二度と繰り返してはならない事件です。もし何かわかりましたらまたご連絡をお願いします」
シュハクは、今大会はもしかすると荒れるかもしれないと一抹の不安を覚えつつ、ノナムと別れて一路、チームメイトの待つ集合場所へと戻っていった。




