第2章1 スケジュール変更は突然に
アルタクルエ国際戦技大会、初日。
「事前にフリーバトルって……なんだそりゃ? そんな予定だったっけ??」
リッドは首をかしげる。だが不思議に思ったのは彼だけではなかった。
「各国チームから1名を選出してエキシビジョン的に試合を行う、とのことだ。勝敗は本戦トーナメントとは無関係だが突然であったことは否めん―――皆が戸惑うのも当然だな」
大会主催側から各国代表チームに通達されたのは、唐突な予定変更だった。
本当であれば本日は1回戦1試合目、フェル・クアルド代表チーム vs グリス民国代表チームの試合が行われるはずだった。
ところが急遽、本戦トーナメントとは別でこの日は各国チームから1人出してのランダム対戦試合が行われることとなったのだ。
「意味わかりませんねーホント。そういうんは普通、もっと早くに通達されるんとちゃいますの??」
スィルカはあまりにも不自然だと言わんばかり。
実際、各国から身分の高い来賓も来ている大会としては、運営の不備はそのままアルタクルエという国そのものへの不信感を募らせることになりかねない。
「可能性としましては何か問題が起こったか、もしくは準備の遅滞などが考えらますが……」
背景を探るように可能性をつむぎだすジッパム。しかし推測の域をでないと首を横に振って言葉を切った。
「まー、あれじゃない? とりあえず1人選ぼーよ。誰が出てもいーのソレって?」
理由を考えても仕方ないとばかりにハルが話を前に進める。
そして意外にも、自分はあんまり出たくないとやや消極的な態度だった。
「ああ、チームに登録されている者であれば誰でもよいそうだ。が―――」
ガントも少し困ったように言葉を詰まらせる。
というのも、勝敗がトーナメント本戦に一切影響なしとはいえ下手をすれば事前に手の内をさらす事となる。
しかも各国のお偉いさんが来賓として来ている以上、各チームとも手の内を隠すためにワザと手抜きしたり負けるといったことがやりづらい。
なので必然、手の内がバレても問題ない選手を選ぶことになるのだが、かといって補欠メンバーなどを安易に選ぶこともできない。できれば勝利した方が自国の威信に貢献できるからだ。
「ええと、つまり―――その方の強味となる能力が隠せる、またはバレても問題なく、かつ勝利できる可能性が高い選手を出すことが理想……という事になるのですよね?」
自分で言いながらモーロッソは悩ましそうに表情を歪めた。
「けど、そんな都合のいいヤツなんざイナイナイバーっしょ。特にこの辺りはっさー」
ジクーデンがモーロッソ、自分、ジッパム、ハルを腕をぐるっと回して指さしていく。
この4人の扱う能力や技、特異性は強さに占める比重が大きい。なるべく秘匿するに越したことはない。
「それでは適任はリッドさんかシルちゃんでしょうか……?」
ミュースィルは消去法でそう述べるも、当の本人たるスィルカが難色を示した。
「そうは言うてもミュー姉さま。ウチも蹴り主体のスタイルいうんはあんまり早々認識されん方がええんですよー。リッドさんかて汎用性ある戦い方やゆーても確立した戦闘スタイルですし、本番まで披露せんに越したことないですー」
「そうだよなぁ……自分の不利になっちまう話はなるべく勘弁してほしいぜ。あくまで優勝目指すんだろ?」
そう言いながらリッドはガントを伺う。
言葉とは違い、向けた視線はリーダーのお前の意見に従うと丸投げする意が宿っていた。
「まあ、それを言い出せば全員がそうだからな。さて、誰を出す―――」
そこで言葉を切ってガントは、机の上に両脚のっけてぼけーっとしているシオウを見た。
本番である本戦トーナメントに一切関係しないのであれば、補欠の彼を出しても再びトーナメント中に1度だけ出せるという権利は損なわれいのでは? という考えが脳裏をよぎったからだ。
しかしガントがそれを口に出す前にシオウが先手を取る。
「……補欠は “ 大会全体を通して1度しか試合に出せない代役 ” なんだろう? そこんところを運営側が貫き通すんだったら、そのエキシビジョンマッチも1度に数える可能性もあるだろうに」
「む……確かに、な」
シオウがめんどくさいからそれっぽい言い訳をしたようにも聞こえるが、実際問題としてその辺りは無視できない。
シオウ自身に戦意はこれっぽちもなく、それは大会通して変わらないだろう。
だが “ イザとなれば補欠がいる ” という状況そのものがメインやセカンダリーのメンバー全員の精神的な補助にもなる。もう使ってしまって使えない、というよりかはやる気が1mmもなかろうとも保険としている方が良いのだ。
だがそうなるとますますガントは困ってしまう。適任が思いつかないし、初日の今日これから行われるので時間もなく、早く出すメンバーを選ばなければならない。
皆がどうしたものか悩んでいる中、シオウはあっけらかんと出す選手名前をあげた。
「ふぁ~あ……何をそんなに悩んでるんだか―――ガント、お前がいけばいいじゃないか。簡単なことだろ?」
「……なに?」
ガントとて自分の戦技やスタイルはなるべく本番まで隠したい。いや一番優勝することを強く目指している彼は、もっともその意志が強いとさえいえる。
だがシオウはハッキリと口にした。
「むしろこの中じゃガント、お前が一番適任だろーに、ふぁ~……ねむ……」
他の者の言葉ならばそこまで深くは考えなかっただろう。
しかしシオウは並みではないとガントは評価している。そんな者が、自分が一番適任だと言うのだ、理由がないわけがない。
ガントは無言のまま、そのまま寝息を立てそうなシオウの頭を掴み、理由を言うまで眠らせんとばかりに左右に振り続けた。




