第1章10 後がない女性国家のお姫様
ガントがあげた国々は、この北東大陸における国家の中でも、現在進行形で軍事・戦事に対する姿勢に積極性が見られるところばかりだ。
バルラス島国――――――周囲を海に囲まれ、ただ1島のみの国土しかない島国。周囲にはイスルバ、エルトリカ共和国、マージラ諸島連合、そして中央大陸の玄関口にあるエンヌ国に囲まれ、古くから厳しい地政学的不利を強いられ続けている。
しかし過去に周辺国家による侵略を許したことはない。そんな不屈の国を支えているのは、もはやこの国の伝統ともいえるほどの官民一体となっての高い国家防衛意識による。
ドマスーク――――――かつては諸国の犯罪者流刑地とされた掃き溜めの僻地。そこに興った、通称 “ 犯罪者の国 ” だ。
あらゆる黒いモノが集まるともされ、不気味な強さを常に蓄えており、北のオシトリア泉国や、西隣のグリス民国や大国であるヘネスイア王国にも遅れを取らない。
クルディ――――――ルクシャード皇国から間にレンテグラーダを挟んでの南南東にある、荒地・砂地が国土の9割を占めるという小国。
しかし戦闘民族と言われるほどの気概と実力を持ち、ネオデラーダ、レンテグラーダ、ヘネスイア王国と周囲すべてを大国に囲まれていながら、飲まれることなく国家を維持し続けている。
……そして、オシトリア泉国――――――ルクシャード皇国からネオデラーダをはさんでの南東にある、巨大な泉のほとりに首都を構える大国。
他の国々とは異様ともいえるほど大きく異なった国家であり、その国民の9割以上が女性、残り1割以下の男性も、一定年齢以下という女性の国である。
徹底した独自の国家運営によって、古代より女性国家を維持し続けており、それでいて周辺国とも互角以上の強さを有しているという強国でもある。
――――――アルタクルエ国際戦技大会の会場から50mほど離れた高台。
街を一望できるこの場所に座っている一人の少女の姿を見つけ、安堵するようにユウカ=メフメイトはため息を一つ吐いた。
「……見つけた、プラム様」
「ぴっ!? ……あ、ゆ、ユウカです、か……びっくり、しました……」
夕日に照らされて影をユウカに向けて伸ばしている少女は、18歳ながらそうとは思えない幼さと、挙動不審な反応を示す。
明らかに内向的な性格気質であろうプラムと呼ばれた少女に対し、声をかけたユウカはつかみどころのない、物怖じも動揺もしなさそうな、しかし普段寡黙な同年代の女の子。
この二人はオシトリア泉国代表チームのメンバーだった。
「まだ、怖い?」
「……う、うん……も、もちろん大会も、だ、だけど……」
ユウカは、プラムに帰ろうとは促さない。彼女がここに一人でいて街や夕日を眺めている気持ちを汲んでいるからだ。
プラム=オシトリア―――彼女はオシトリア泉国王家ゆかりの姫君の一人だ。
しかし、生来よりおどおどとした内気で人見知りなその性格は、女性の国たるオシトリア泉国においてはマイノリティである。特に王家筋の人間は常に、国をしかと強く、たくましく守っていかねばならないという意志の強さを求められる傾向にある。
そのためオシトリア泉国の女性は、たとえその見た目こそ華奢で見目麗しかろうとも、気持ちや心の強さというものをその芯に据えている者が多い。
“ オシトリアの美女は猛毒である ”
そんな言葉が他国のお偉いさんの間でささやかれるほどに、したたかなる女性たち。
当然、こういった国際大会においては絶対に他より舐められない事が、祖国からは求められている。
しかし、プラムはそれに反しているタイプだ。今回、代表チームの一員に選ばれたのも実力の高さよりは荒療治に近い形でだった。
「……女王様、ハッキリ言ってたしね。“ 最後の機会 ” だって」
「はい……」
大会で好成績をおさめる事は当然、求められている。だが今回、プラム個人には別の事も求められていた。
―――オシトリア泉国では、15歳を迎えた女性たちは皆、“ 子作り ” を始めなければならないという決まりがある。
それは確実に子孫を残し、国家繁栄に寄与するためであり、確実に女児を設けるべく、諸国に比べ成人年齢が低く定められている。
いかに女性の国の人間とはいえ、子を成せばそれも女性しか生まれないなどという特異さはなく当然、男児も生まれる。
オシトリア泉国において男児は、15歳までは居住・生活が認められるが、15歳を迎えるとある選択をしなければならない。国内に留まるか、国外へと出ていくかである。
そこで国内に留まる選択をした場合、絶対的なある事を生涯命じられる―――すなわち、子作り相手として子種を提供し続けることだ。
多くのオシトリア泉国民は、国内に留まる選択をした男性たち――― “ 種供者 ” を相手にして子を成すが、特定の誰かと結婚するという事はあり得ない。ただ結婚事態が禁じられているわけではなく、結婚する場合はその男女とも国を出てゆく事となるが、その例は稀だ。
「……」
同じ18歳のユウカも当然、15歳を迎えた時より定期的に “ 種供者 ” 相手に子作りを行っている。チームメイトの中には既に、実際に子を産んだ者すらいる。
しかし、プラムは王家ゆかりの者でありながら、怖いという理由で今までその国の定めに従ってこなかった。
そんな彼女に、現オシトリア泉国女王は最終宣告をし、この大会に送り出した。
『誰が相手でも構わない、大会の間に子作りを行ってくること。もしできなかったならば国外で生きていく事を考えるように』
国の定めに従えないのならば、国を出るべし―――すなわち追放処分だ。
「……うう、でも……で、も、私……オシトリアが好き、だし……」
「じゃ、やるしかないんじゃない? ……そんな怖くないよ、慣れれば。それに無理なら無理でさ、別に国外で生きていくのも悪くないと思うよ、一生泉国に足を踏み入れられなくなるとかじゃないって聞くし」
「……―――ううん、が、頑張る……わ、私なりに、その……考えたから……。えと……チームの役にも立つと、思う……た、たぶん……っ」
「? どういうこと、ソレ?」
追い詰められたプラム姫が、自分の中で考えていたことを、ユウカに打ち明ける。
聞いたユウカは、彼女らしくないその計画の内容に最初は驚いた。
だが同時に、だからこそ彼女はここで街並みや夕日を眺めていたのだと気づく―――決心と覚悟を決めるために。
「……わかった。プラム様のソレ、私も手伝う。上手くやれるといいね」
「う、うん……っがん、ばるっ」




