第四話 これから
周りを見渡す。ギルドだ。
手元の用紙、ガルドの腹、ミナとシオンの様子を順に確認する。
「出発前……?」
ひとり、呟く。
ガルドは自分の腹をさすり、ミナは口を抑えうずくまっている。シオンも少し呆けていた。
時刻を確かめる。まだ他の調査隊は出発してないはずだ。
本来なら、誰より早く情報を持ち帰って追加報酬を狙うつもりだった。
「腹、何ともねぇな……」
「うっ……ごめん、トイレ」
「……私たち、生きてる?」
受付からユリシアさんが近づいてくる。
「大丈夫ですか?」
ギルドの中は、いつも通り動いている。
俺たちだけが、おかしな事になっていた。
「あ、だ、大丈夫ですよ。ちょっと考え事を」
誤魔化すために、愛想笑いを浮かべる。
とにかく、今は……
「少し体調が悪いみたいなので、今日は宿に戻ります」
ユリシアさんにそう告げ、ガルドの腕を引いた。
「行くぞ、ガルド」
「お、おう」
「シオン、ミナの様子見てきてくれ。俺たちは先に宿戻ってる」
「えぇ、わかったわ」
「では、ユリシアさん、また」
逃げるように宿へ戻る。
周囲に人がいないことを確認してから、声を落とす。
「ガルド、お前死んでたよな?」
「そう……だな」
宿へ向かう道すがら、事実を確認する。
あの時の、ガルドは死んでいた。
その後はほとんど言葉を交わさないまま、宿の談話室に戻った。
しばらくすると、ミナとシオンも戻ってきた。
「全員、死んだ記憶がある。それで間違いないな」
談話室の隅で、声を潜め話す。
全員がうなずく。
ガルドは何度も腹をさすっている。
ミナはまだ顔色が悪く、シオンも心ここにあらずといった様子だ。
俺も最後の瞬間を思い出し、肌が粟立った。
「どういうことなんだ?」
純粋な疑問をガルドが口にする。
「取り敢えず。整理しよう」
今の日付と時刻、持っている荷物から、出発前夜まで戻っていることは分かった。
そして、全員があのダンジョンで死んだ記憶を持っている。それも間違いない。
「まさか……加護?」
「俺たちの誰かに、加護が発現したってことか?」
少し顔色の戻ったミナが仮説をたてる。
加護。先天的、あるいは後天的に授かる、理屈では説明できない異能。
魔法とも科学とも異なり、その仕組みはどちらの学問でも解明されていない。
加護の有無を調べる方法は確立されている。だが、なぜ発現するのか、どう働くのかは分かっていない。
「いま、貰った……ってこと?」
シオンの言葉にハッとする。だが、後天的に発現するのは稀だ。ましてや、成人してから発現した例など聞いたことがない。
「けど、聞いたことがないからあり得ないと決めつけるのは、思考停止だな。調べよう」
俺の言葉に三人がうなずく。
三人とも生きている。
それだけで安心するはずなのに、胸の奥の震えは止まらなかった。
俺たちは、本当に死んだ。
そして、戻ってきた。
「今日はもう休もう。明日の朝一で、加護の有無を調べる」
俺の言葉に三人が同意する。
そこで何も出なければ、俺たちに起きたことは――いったい何だ?




