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第二次世界大戦を乗り越えろ!  作者: 湖灯


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【結婚式と新婚旅行①】

「おーい、お二人さん。新婚旅行の日程が決まったぞ!」

 9月10日、お昼前に草鹿さんがそう言って近づいてきた。

 新婚旅行の日程って、誰の?

 思い当たるのは、最近結婚した私と薫さんしかいないのだが、その私たちはそもそも結婚式を挙げていないのだから新婚旅行もあったものではないし、だいいち今はそのために休暇を取ることもできない情勢だ。

 少し離れた机越しに私たちは、お互いの顔を見合わせていた。

 草鹿さんは薫さんの肩をポンと叩いてから、真っすぐに私の方に向かってきて言った。

「新婚旅行に行く前に、やはりちゃんと式だけは挙げておいたほうがいいな」と。


 たしかに式は挙げたほうがいいに決まっている。

 けれども未来から来た薫さんには身寄りがなく、私も父は早く亡くなり母も昭和8年に病気で亡くなっていて、もともとどういうわけか親戚との付き合いも一切なかったのでお互いに孤児同然だったから式を挙げていなかった。

 私たちの中では、サンフランシスコから日本に帰って来たあの夜の日枝神社での二人だけの参拝が結婚式だった。


「草鹿さん、その新婚旅行とか結婚式とか、いったいどういうことなんですか?」

 私の問いに草鹿さんは「太平洋横断、グランドキャニオンとナイアガラの滝の旅だ」と、なおも理解不能な返事をした。

 わからないでいる私の傍に薫さんがやって来て、それはもしかして欧州戦争に参加したアメリカの視察として日本から2名出すという井上さんの、アレですか?と言った。

 薫さんは、ときどき変なことを言うが、それで私もようやくわかった。

「しかしそんな大役を、私が仰せつかるなんて。だいいち陸海軍が……」

 戸惑っている私に、草鹿さんが会議の内容を教えてくれた。

 山本連合艦隊司令長官は、編成や訓練で忙しいから出せる人材はないと言い、なによりも永野軍令部総長は最初から柏原君を推していたということと、陸軍の東条も最初こそ自分の息がかかった者を出したがっていたが次第に柏原なら適任だろうと折れたことを。


 永野さんの気持ちは嬉しかったし、あの東条から適任と言われたと聞いて驚いている私に草鹿さんが言った。

「ああ実際東条は、さんざん君には苦汁をなめさせられて、君の実力を一番知っているからな」と。

 そして最後に、こう言った。

「井上君の気持ちにも応えてやれ」と。


「井上さんの、気持ち?」

「これは君たちの結婚を知った、井上くんなりの愛情表現だよ。じゃないとアメリカからわざわざ視察に来いなんて言うはずはないだろう?」


 なるほど、そう言われればそのとおりだと思った。

 いくらPPSAという安全保障協定を結んだからといっても、軍内部の詳細なことまでも曝け出してしまうかもしれない実戦の場に他国の将官を招待するなんてことはあり得ない。

 草鹿さんのいうとおり、この件についてはサンフランシスコにいる井上さんが骨を折ってくれたことは間違いないだろう。

 そして井上さんなら、この視察に誰が選ばれるかということも……しかし何故女性である薫さんも?

 まだ半分納得のいかない私に、草鹿さんが付け加えた。

「君たちが結婚したことを知った井上くんは、同時に永野さんや俺たち大本営の奴らがこの件にどう反応するかも見抜いていたんだよ」と。


 そこまで言われて断る理由はなかったが、それと結婚式とは話が違うと言うと、草鹿さんは「結婚はお前たち二人がよければそれでいいというものではない。お前たち二人を心から祝福したいと思っている人たちの前で、それを披露して祝ってもらってこそ夫婦として正式に社会から認められるものだ。二人とも身寄りがないことは知っているが果てしない荒野に2人しかいないわけじゃなく、社会の中で生きていくためにこれは必要不可避なことだ」と言った。

 そして、こうも付け加えた。

 祝儀は出すが、結婚式の場所や費用は、ちゃんと二人で考えて出すようにと。

 私たち二人が草鹿さんにお礼を言うと、それまで黙って仕事をしていた仲間たちから盛大な祝福の拍手をもらった。


 仕事を終えた私たちは、さっそく結婚式をどこであげるか相談した。

 お互いに一番に思いついたのは、やはり日枝神社だった。

 私たちはすぐに日枝神社に赴き、結婚式を挙げたい旨を宮司さんに相談すると、急な申し出にもかかわらず9月14日の日曜日に空きがあると言われたので、その日にお願いすることにした。

 次は来てくれた人たちを、もてなす披露宴をどこにするか。

 ところが宮司さんは、披露宴も開いているのでどうするかと聞いてくれたので、こちらも即答でお願いした。

 しかし夏の暑さも和らいだこの9月の大安の日曜日に、結婚式も披露宴会場も開いていることを不思議に思い、もしかしたら予約していた結婚式が何かの事情で取りやめになったのかと聞くと宮司さんは人差し指を口に当てる内緒の仕草をした後、思いもよらないことを教えてくれた。

 それは9月5日の夜に、どうしてもこの日を開けておいてほしいと頼みに来た人がいたこと。

 その人は近々、柏原と名乗る男女が結婚式の相談に来るはずだからと、宮司さんの前で土下座をして頼んだということだった。

 相手はいくら聞いても名を名乗らなかったが、その出で立ちからしてただものではないと感じたので宮司さんはその人の頼みを聞き入れて開けておいたのだと言った。

 私たちがその人の特徴を聞くと、宮司さんは小柄で鼻の下にちょび髭をはやした子供のようにクリッとした目の中年の男だったことを教えてくれた。


 私たちはその特徴を聞いてお互いの目を見合わせて「草鹿さんだ!」と言って喜んだ。

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