【二つの世界①】
ホテルに入りチェックインを行うと、フロントマンから客が待っていることを伝えられた。
ロビーの方に顔を向けると、新聞を片手に広げ手を上げる人物が居た。
FBIのフーバー長官だった。
「やあ、フーバー長官、その節はお世話になりました」
薫さんと私は、フーバー長官のところに行き挨拶をした。
「ところで君たち結婚したそうじゃないか、おめでとう!」
「ありがとうございます。さすが情報通ですね」
「まさか君、その報告をするためにわざわざ僕を呼んだんじゃないよね」
フーバー長官は冗談でそう言って笑った。
私が長官を呼んだのは、そういうことではなく、これからのアジアのことを理解してもらうため。
おそらく敵もここのところで日本が不利となるようにアメリカ政府に働きかけてくるはず。
私はそのことを話し、フーバー長官たちFBIには敵がアメリカ政府を先導しないように注意してもらいたいことを伝えたかった。
日本の真意が伝わらなければ、事態は敵の思うようになってしまう。
「で、その敵と言うのは?」
フーバー長官が私に聞いた。
私は、ソビエトのスパイだと答えた。
いままでもソビエトのスパイは暗躍していて、それでこの前訪米した時には、FBIに協力してもらいアメリカ政府内にいた奴らを掃討してもらった。
だが今回は規模が違う。
フーバー長官は、規模が違うとはどういうことだと私に聞いた。
「この戦争の行く末が決まったとき、世界は二分されるからです」
「世界が二分……アメリカとソビエト?」
「違いますもっと規模が大きい、民主主義国と共産主義国です」
「まさか」
いままでの戦争は、戦争の結果での領土の取り合いだった。
勝った方が負けた国の領土を併合する。
しかし今回行われている世界的な戦争は、単なる領土を目的としたものではなく、イデオロギーの戦いなのだ。
アメリカやイギリス、フランスを中心とする民主主義。
ドイツ、イタリアを中心とする帝国主義。
そしてソビエトを中心とする共産主義。
おそらくこの戦いの後、帝国主義は崩壊するだろう。
だが民主主義もそれ相応に痛手を被るはず。
民主主義は貧困層に夢を与えることは難しい。
経済的にある一定のレベルに到達してこそ、民衆と国は一体化できる。
これに対して貧困層に夢を与えて先導できるのが共産主義だ。
彼らは、共に働き、共に富を分け合おうという理想を掲げている。
もちろんそのようなことを欲まみれの権力者たちが許すはずもないが、貧困に喘ぎ藁にも縋る彼らにとってはやはり希望となる。
そしてこの戦争では多くの町や農場が破壊され、多くの貧困層が生まれてしまう。
共産主義がこの土壌を見逃すはずはないのだ。
「そのことと日本の関係は?」
フーバー長官が私に聞いた。
国政に携わっていないフーバー長官には、この辺が少しわかりにくいだろうが、必ず長官の協力が必要なのだ。
なにしろここアメリカは、対日政策の鍵を握っているため、ソビエトのスパイ活動がもっとも行われている地域なのだから。
私が事の詳細を離すと、フーバー長官は納得してくれた。
「結婚祝いを送る前に、とんだ引き出物をもらってしまった!」と彼は言ったあと、こうも付け加えてくれた。
「順番が逆になったが、これから僕が手掛けることを二人の結婚祝いとして恥ずかしくないものとなるようにさせてもらう」と。




