【ニューヨーク】
薫さんと私はアルジェからカサブランカまで飛行機で移動し、ここからニューヨークへ海路を使って帰ることになった。
ニューヨークに帰る船団では5回もUボートの警戒警報が鳴り、そのうち2回実際にUボートからの攻撃を受けて2隻の船が被害を受けた。
もしこの大西洋に日本の零式対潜哨戒機や、キ76改・対潜哨戒機があれば、この2隻の船の犠牲もなかっただろうと思うと心が痛む。
ニューヨークに着いて、私は二人の人物とコンタクトをとることにした。
一人はFBIのフーバー長官。
そしてもう一人はハル国務長官。
会えるかどうか確認の連絡をすると二人とも忙しい身の上で秘書からは、忙しい方なので無理だと断られたが、一応彼にその旨は伝えてもらえるとは言ってもらったので宿泊先のホテルの電話番号を教えてブルックリンから地下鉄に乗ってマンハッタンのホテルに向かった。
地下鉄の中で薫さんにハル長官と会う訳を聞かれたので、私はコミンテルンと高度な外交関係だと答えた。
前にサンフランシスコでハル国務長官にも話したことなのだが、このアメリカではコミンテルンの奴らがあまりにも自由に活動できている。
アメリカは自由の国。
だから政治も宗教も自由。
それは分かるが、コミンテルンの活動家たちは、その殆どがソビエトのスパイとして活動している。
これを野放しにしていたのでは、技術は盗まれ、メディアも操作され、政治も歪められる。
ハル長官もその事には薄々気が付いていたものの、コミンテルンの側近に操られていたルーズベルトにそのことを言っても聞く耳を持たないばかりか、自分の身も危うくなってしまうから言い出せないでいた。
コミンテルンたちはテロや暗殺も企てるから、ハル長官も迂闊なことは出来ない。
もし自分が殺されてしまい、国務長官までコミンテルンの息が掛った政治家が就任すれば、いずれアメリカはソビエトの一部にもなりかねないから。
私は、ハル長官の判断を賢明だと思った。
事情を把握している人間は、必要な時にその真価が発揮できなければならないのだから。
私はある事件がきっかけで、コミンテルンに対して有効かつ最大の敵となり得る人物を見つけることができた。
それがFBIのフーバー長官だ。
そしてその事件こそ、日米の友好関係に決定的な傷をつけようとコミンテルンが企んだ事件だった。
フーバー長官は既にコミンテルンの行動を知っていたから、事件の首謀者をことごとく捕まえて尋問し、最終的にルーズベルト大統領が信頼していた側近にも辿り着くことに成功した。
数々の証拠をフーバー長官から突き付けられたルーズベルト大統領も、これには逆らうことも出来ず自身が共産主義者に操られていたことを認めるしかなかった。
と、これがPPSA(環太平洋安全保障協定)を締結できた一番の理由。
だが、その後の事も気になる。
なにしろ前史では、アメリカの最高機密であるあのマンハッタン計画そのものまでコミンテルンのスパイによって機密情報がソビエトに流出してしまったのだから。
そしてソビエトも間もなく原子爆弾の開発に成功した。
(※マンハッタン計画=原子爆弾開発・製造のために、科学者、技術者を総動員した計画)
欧州最大の工業力を誇るドイツでさえ、アメリカ式大量生産システムを導入しえなかったというのに、既にソビエトはその技術を習得している。
航空機の過給機システムも、あのノモンハン事件の時に墜落したソビエト軍のI-16戦闘機に装備されているのを見た。
この当時、試作機以外でこの過給機を付けた飛行機はアメリカ製のもの以外見た事はなかったのに。
地下鉄を降りて地上に出る。
「わぁ~!」
目の前に立っているエンパイアステートビルを見て、薫さんが驚いた。
1931年に完成した地上102階、最高点443mの超高層ビル。
未来から来た薫さんの話では約100年後の日本でも、このビルを超える超高層ビルは建っていないという。
「総一郎くんカメラカメラ!」
薫さんに急かされて私は慌ててバッグから結婚祝いに貰ったライカを取り出し、薫さんが考案した「自撮り棒」なるものにライカを乗せ、ふたり並んでエンパイアステートビルを背景にして写真を撮った。
この自撮り棒というやつ、なかなか便利だ。
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