【No Way!②】
しかし一時はどうなることかと案じたが、さすがはアイク。
敵が発見を恐れて海からではなく遠回りして陸から来たときには驚いた。
シチリアはとても大きな島で、島の東端から西端までの距離は280㎞にもおよぶ。
そしてドイツ軍が駐屯する中で一番東にあるのがパレルモ飛行場で、あとの飛行場はどこも150㎞以上も西にある。
特に航続距離の短いBf109やJu87急降下爆撃機を使用するのであれば、往復で300㎞も無駄に飛ぶことは出来ないので、彼らはこのパレルモから飛ぶ必要があった。
そうなると海上を飛んで来るはずだったのに……。
だがアイクの取った行動は的確だった。
全ての機を海軍機に統一して、しかも地中海側から侵入させれば、ドイツ軍は地中海側に第二次上陸部隊の護衛で空母が近付いて来ていると思うだろう。
そうなれば地中海西部の制海権を少しでも取り返そうとして、必ずやもっと大規模な第二次攻撃隊を出動させるに違いない。
アイクは追加で各基地にあるP-36戦闘機にも出撃を命じた。
こっちの方は、各基地から最短距離を通るって来るように指示を出したが、時間的にはドイツ軍の攻撃時間からは少し遅れて到着してしまう。
何とかギリギリ戦闘地域に到着できるレベルだが、P-36自体は各飛行隊合わせて30機ほどしかないので大した戦力にはならないが、これも彼なりの考えがあってのもの。
空母がいなければ、陸軍の飛行機はこれだけしか飛んで来ないと敵に思わせることが目的なのだろう。
少し遅れたが私も戦況を確認するために、東条エアーフォト号に乗って出発した。
101式司偵を最大速度で飛ばすと、15分後には戦場に到達した最初の部隊に追いつくことができた。
私は高度を上げ、戦場を縦方向に遠退いた。
F2Bバッファローの先頭集団は高速を生かして、護衛の戦闘機メッサーシュミットBf109が格闘戦を挑んで突撃してくるのをスルーして真直ぐに進み、獲物に狙いを定めるためにゆっくりと旋回を始めたJu87ストゥーカ急降下爆撃に向かう。
戦闘をスルーされたBf109がF2Bの後を追うために旋回を始めた頃を狙ったように、第2波のF2Bが無防備に腹を見せたBf109に機銃掃射を仕掛ける。
12.7mm機銃6門の一斉掃射による威力は凄まじく、次々にBf109戦闘機が黒煙を上げ、あるものは翼をもぎ取られて地上へと落ちて行く。
そしてドイツ軍の戦闘機をスルーした部隊は行動の鈍いJu87を次々に追いかけまわしては堕として行く。
数は圧倒的にドイツ軍の方が多いので、アメリカの航空隊は上空で戦況を見る隊長機の指示に従って効率のいい行動をとっている。
しかも彼らは戦闘機同士の格闘戦を意図的に避けて、攻撃目標を完全にドイツ軍の爆撃機に絞っている。
攻撃を避けられたドイツ軍の戦闘機はさっきの部隊と同じ様に反転して追おうとするが、そこをまた後から来たF2Bに狙われて堕とされる。
何度も似たような戦闘が繰り返され、ドイツ軍の戦力は瞬く間に削がれていった。
ドイツ軍からしてみれば、アメリカ軍は一度に攻撃してくる数は多くないものの、なぜ次々に切れ目なく新しい部隊が投入され続けることに半ばパニックに陥っていた。
しかし上空の高い位置から見ると、そのカラクリは面白いように良くわかる。
ヒット&アウェイを繰り返しながら戦場を抜けた部隊は、いったん地中海を大きく回り、また同じ攻撃を繰り返すために戻って来ているのだ。
この戦法はまさに武田信玄との川中島の決戦の際に上杉謙信がおこなった、車懸りの陣そのもの!
次々と現れる新しい敵に翻弄され、戦い続けなければならなかった武田軍は次々に大物武将たちが討ち死にしたように、ドイツ軍の戦闘機隊も右往左往するばかりで肝心の爆撃機の損害を抑えられないでいた。
おそらく私もドイツ軍パイロットとして出陣していたなら、目の前の敵の動きに翻弄され続けて大局が見えないまま堕とされていたことだろう。
前史では日本とアメリカの差は数の差とか工業技術の差だと思っていたが、実際にこうして彼らの戦い方を見ると、個々の能力に頼らず全体の能力を向上させ総合力で敵を圧倒していたのだということがよくわかった。
おそらく未来から来た柳生さんの開発力をあてにして、高性能な武器を持っていたとしても、そう易々とアメリカには勝てなかったことだろう。
そして資源力のない日本は前史と同じように負けるだけだったに違いない。




