【発動Operation No Way!⑤】
シチリア上空に入ると、やはりドイツ軍戦闘機が迎撃に上がってきた。
配備されているのはE型ではなく性能向上型のF型なのだろう。
うわさには聞いていたが、なかなか素晴らしい上昇力を持っているし、速度も零戦よりも圧倒的に速い。
私はしばらく様子を見てから、速度はそのままで高度をさらに12,500mまで上げた。
外の気温はおそらくマイナス40℃近くあるだろうが、与圧キャビンで外気の入ってこないこの偵察機の中は快適だった。
眼下に見えるメッサーシュミットは、高度8,000mを超えたあたりから上昇力が鈍り、9,000mから少し機体がフラフラと揺れ出して全く追いついてこなくなり、私はそのことを高い空をゆうゆうと飛びながら彼が帰るのを待っていた。
(※ドイツ軍のメッサーシュミットBf109E型の燃料搭載量は400リットルで航続距離は頑張っても700㎞飛べればいいところで、燃費は1.75km/ℓ。 これに対して前史の零戦二一型は燃料搭載量525リットルで航続距離は2,200㎞飛べるので燃費は4.19㎞/ℓと約2.4倍の燃費となる。 またBf109E型に搭載されているダイムラー・ベンツ DB 601エンジンをコピーして作られたハ40型エンジンを搭載した三式戦飛燕の燃料搭載量は500リットルで航続距離は1,800㎞、燃費は3.6km/ℓとメッサーシュミットに比べて約2倍の燃費性能となり、これはエンジンだけの問題ではなく機体設計上の問題も大きな要因であることがわかる)
迎撃にでてきたメッサーシュミットは諦めて戻り、当面の危険がなくなり高度を5,000メートルまで落とし、私はシチリアの港湾施設を見てから飛び立ったコンスタンティン飛行場の方向に進路を変えた。
速度は時速300キロ以下まで落とした。
しばらく行くと最後尾にいる通信士から1機ついてくる双発機があることを知らされ、いったん速度と高度を維持するオートパイロットに切り替えて後部座席に向かった。
後部座席まで行くと床の窓から約3㎞離れた高度3,000メートル付近を着いてくるHe 111H爆撃機が見えた。
「攻撃するつもりでしょうか?」
通信士が心配そうに言ったので、あいつは私たちの死角に入ったと思って、つけているだけだから心配ない事を伝えた。
「101式には、ほとんど死角なんてないのに、分かっちゃいないな」と、通信士は敵の意図が攻撃でないと分かるとリラックスして笑った。
もっとも攻撃をしかけて来ても、こっちは攻撃を受ける前にとっとと逃げてしまうのだから、向こうは攻撃することもできない。
これは相手が爆撃機のHe 111Hだからではなく、さっき迎撃に来たBf109Fであっても同じこと。
マニュアルによるとこの101式司偵には不意打ちを食らったときのように、急加速しなければならない場合約5秒間の水メタノール噴射が使用でき、排気タービンと合わせて一気に最大速度近くまで加速することができるらしい。
しかし柳生さんがいて本当によかった。
初めて乗る機体でも、マニュアルがあるのでいろいろなことがわかりやすい。
前史では機体の取り扱いだけでなく、必要な毎日の整備に関してもマニュアルというものも作っていなかったわけではないが、ただその数は少なく機体の性能や部品構成などもわかってしまうため、極秘事項とされ、連隊長や師団長の金庫の中に仕舞われてそれを必要とする部隊まで届くことはめったになかったのだから。
ドイツ軍のHe 111Hは私たちが気付いていないと思い、おとなしくついてきている。
私は以前追跡者に気付かないふりをしながらチュニジアを越え、いよいよ囮部隊がいるアルジェリアまで誘い込むことができた。
He 111Hはすぐに囮部隊に気付いたらしく、機体を傾けて旋回を始めた。
それを見た私も、機体をゆっくりと傾けてHe 111Hから距離をとったまま大きく旋回して、つけられたことをようやく察知したかのような素振りを見せてから敵には近づかずに高度を落としてアンナーバにあるボーン飛行場へと着陸態勢に入る。
気付かれたことを察知したHe 111Hは追っ手が来ることを恐れ、急いで機を東のシチリア方向に向けて加速して逃げる。
私はボーン飛行場に着陸せずに、着陸したように見せかけて飛行場の上を低空で飛び抜け、それと入れ替わるように飛行場で待機していたP-36戦闘機2機がゆっくりと迎撃のために飛び立ち逃げたドイツ軍のHe 111Hを追った。
既にドイツ軍のHe 111Hは視界から消え、それを追う2機のP-36戦闘機もやがて地平線の向こうに消えて行った。




