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第二次世界大戦を乗り越えろ!  作者: 湖灯


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10/15

【クイーン・メリー号】

 私たちはその日のうちに飛行機でニューヨークに移動して、夜には軍隊輸送船として徴用されている客船「クイーン・メリー号」に乗船してモロッコを目指した。

 一応薫さんと私は、客人扱いで1等の個室が当てられた。

 もちろん部屋は別々だが、徴用されたとはいえ元々は豪華客船なので客室も内装も豪華だった。

 夕食はその豪華な食堂で、お互いの担当者たちとのミーティングを兼ねた夕食会が催されて薫さんと一緒に食事を楽しむことはできなかったが、夜はデッキで待ち合わせることにした。


 待ち合わせ場所に着いてから、私は少し失敗したと思った。

 上のサンデッキで合おうと言ったが、私たちが夕食を取ったメインダイニングサロンは船の中層にあるので、上のデッキと言っても左舷にだけあるソファー付きのメインデッキとその上の階の左舷と右舷にある屋根付きのプロムナードデッキ、更にその上にあるサンデッキの上にあるスポーツデッキと4層と左右2箇所に分かれている。

 船の構造は複雑だから、初めての船でこのデッキに薫さんが来ることは非常に難しいはず。

 サンデッキだけ言って上を指さしただけでは、一番上にあるスポーツデッキに上がるかもしれないし、僕たちは食堂の左舷側にいたので薫さんはメインデッキのソファーで寛ぎながら私を待っているかも知れない。

 人の目は気にせず、そのまま食堂で待ち合わせしたほうが良かったと私は後悔して左右だけでなく上や下もキョロキョロと見渡していた。


「よっ、総一郎くん、どうしたの?」

 キョロキョロしている私に薫さんが声を掛けてくれた。

 ちなみに「総一郎」とは私の名前。

 結婚して私たちはプライベートでは、お互いの名前を呼んでいる。

「薫さん! よく来れたね。迷わなかった?」

 私は驚いて尋ねると、薫さんは「迷わないよ。だって総一郎さんちゃんとサンデッキだって言ってくれたじゃない」と言った。

 それでも初めての船で、迷わないなんてすごいと言うと、薫さんは意外にも初めてではないとニヤリと笑った。

 意味ありげなその笑いに釣られて理由を聞くと、なんと彼女は大学を卒業する時に友達とロサンゼルスに旅行で訪れた時に、この船に宿泊したことを教えてくれた。

 未来でもこのクイーン・メリーは太平洋航路で現役なのかと思ったら、既に退役していてロングビーチに係留されてホテルとして使用されていると教えてくれた。

 つまり80年も先の未来で、薫さんはロサンゼルスに旅行で来たときに、この船のホテルに泊まったらしい。


 二人で景色を眺めていた。

 月明かりに薄っすらと灯火管制を敷かれた船団が見える。

 もちろんこのクイーン・メリーも例外ではなく、デッキへ出ることは許されるが、デッキで煙草を吸うことは禁止されている。

 灯りが消されているのは、Uボート対策によるもので、ドイツの潜水艦は第一次世界大戦の時からアメリカ東海岸で活動を繰り返していて、フロリダ半島の付け根ほどの場所に位置するジョージア州セント・シモンズのすぐ沖まで来てタンカーなどを沈めていたし、ニューヨーク州ロングアイランド沖にもたびたび出没して船を攻撃していた。

 だがこの時代のアメリカは前史のように無防備ではなく、夜間にもかかわらず対潜哨戒のために航空機を飛ばしていた。


「あれって航空母艦なの?」

 薫さんが指さす方向には3隻の巨大な船のシルエットが見えた。

 おそらく艦影から見ると「ヨークタウン」と「ホーネット」それにもう1隻は「レンジャー」だろう。

 甲板にはアフリカに運ぶためのたくさんの航空機が乗っていた。


 ニューヨークを出発して船団はすぐに2つのグループに分かれた。

 ひとつは空母を中心とする高速艦艇のグループ。

 もうひとつは商船を中心とした速度の遅いグループ。

 意外にもこのクイーン・メリー号は常に時速30ノット近い高速で大西洋を走ることができ高速艦艇のグループに入り、航海中に3度潜水艦の警報が出たものの特に何もなくニューヨークを出発して6日目の早朝にモロッコのカサブランカ港に到着した。

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