【アイゼンハワー】
19日火曜日の午前6時にワシントンDCに到着した私たちは、そこからワシントンDCの街に行き開いていた店で朝食を摂ってからホワイトハウスに向かいハル長官と会った。
ハル長官は6月に続いて私たちが来たことを喜んでくれたうえで、出発の準備が行われる前に陸海軍の担当将校から現地の状況を説明された。
現在アメリカとイギリスの連合軍はモロッコとアルジェリアの制圧に成功しており今後は上陸中の陸軍の戦力が整い次第、北アフリカ戦線へ投入する予定だと説明してくれた。
ドイツとイタリアの反撃状況を聞くと、現在空の戦いではドイツ軍戦闘機の行動範囲の限界線上にだけ爆撃機による攻撃を受けるだけでそれもF2Bが抑えていて、海ではUボートによる攻撃が散発的にあるだけだと説明された。
逆にもしこれが日本の作戦であった場合はどうするかと聞かれたので、私は駆逐艦と対潜哨戒機を総動員してでもまずはUボートの根絶を図るとともに、迅速に陸上部隊を敵戦闘機の行動範囲内に押し上げると言った。
Uボートの根絶に関してはアメリカ側としても努めていると言ったが、陸上部隊を敵戦闘機の行動範囲内に押し上げることは無駄に損害を受けてしまうだけだと反論されたので、それでは敵の戦力は崩せないままではないのかと問いかけた。
アメリカの将校もそれについては同意したものの、戦争はそう簡単に運ばないことと、ドイツ軍の地上部隊を攻撃するはずの地上部隊が損害を受ければアフリカでの戦いは長期化すると懸念を示した。
そこで私は、前線に投入する部隊が敵の地上部隊を攻撃する目的でなければどうだと言い、私の考えを明かした。
それは木で作られた偽の大部隊を投入すること。
敵は偵察機でその大部隊に気付くと必ず、爆撃機を投入してくるだろう。
空からの偵察では、それが本物か偽物なのかは分かりにくい。
仮に偽物だと分かったとしても、本当の部隊が攻撃にさらされることを避けるための偽装だと思うだけだろう。
そして攻撃してきた敵の航空部隊を、こちらの戦闘機で迎撃して戦力を削ぐのがこの目的。
戦力を削ぐためなら、そういった小細工はせずに力で押せば簡単にいくはずだと誰かが言ったので、これはアメリカよりも人口が少なく工業力も劣る日本が戦うとした場合の仮定の話で、それはそっちの方から言われたことに答えたに過ぎないと、指摘してきた方向を睨んで言った。
出席していた将校の中の一人が、アメリカだって人口が多いからと言って兵士の命を無駄に費やすことは出来ないし、ドイツと戦ううえで特に厄介なのはUボートと奴らの航空戦力だからこの意見は今後の作戦において大変参考になると言い応援してくれた。
現地の戦況についての説明会が終わると、別室で我々の移動について話があった。
アメリカ海軍では女性の艦隊勤務者はいないので、薫さんは陸軍の通信部と一緒にモロッコで勤務することとなりWAC(女性陸軍隊)のホビー大佐が挨拶に訪れた。
(WACは前史では、1942年5月15日に発足されたWAAC[女性陸軍補助隊]から発展し1943年7月1日正式な陸軍軍人としての身分でWACへと転換された組織だが、この時代では欧州戦争参加時点で既に発足された設定になる)
「あなたは元々通信将校だと井上長官から伺っていますが、通信機器の扱いは大丈夫ですか?」
「はい、日本の通信機ですが、訓練は受けています」
「それでは、結城大尉はこれから私たちWACが預かりますが、柏原大佐異存はありませんか?」
「よろしくお願いします」
ホビー大佐が薫さんを連れて行くのを、少し恨めしく思いながら見送っていると入れ替わるように一人の将校が部屋に入って来た。
その将校はさっき私を応援するコメントを言った男。
階級章を見ると私と同じ大佐だが、階級にしては歳を取りすぎていると思った。
きっと苦労人なのだろう。
彼は私の前に座ると、これから貴方の世話役を務めることになったのでよろしく頼むと言い名乗った。
男の名前は、ドワイト・アイゼンハワー。
のちに第34代アメリカ合衆国大統領になる男だ。




