6日目:来訪者?敵対者?
弁当を食べ終えた生希は動けずにいた。
部屋が暑くて動きたくなかったというのもあるが、内側の揚げ物で重たい感じだ。
食事の後、気力もなくただテーブルの後ろにあるベッドに寄りかかっていた。
「......ぁあ。」
そういいながら天井を見上げる。
つぶれたはずのコロッケも、衣のはげた白身魚もきっちりと胃袋に治まっている。
「そういえば、昔......。」
そういうと、小さい時のエピソードがフラッシュバックした。
昔、おばあちゃんからもらった大福がつぶれて中身のあんこが出ていた時があった。
小さかった生希は、それが嫌だと泣き喚いたが、母親に「腹に入ればみな同じなんだから、感謝して食べなさい!」と叱られたことがあった。
「たしかに、言う通りだな.......。」
当時は言われている意味をよく分かっていなかったが、この状況になって初めて実感した。
「食えるだけでありがたいわな......。」
そういうと天井に一つ息を吐いた。
隣では扇風機がこっちを向いて「ブォー、ブォー」と音を立てている。
ベットに上ろうも、起き上がる気力もない。
スマホのゲームを起動しようもスマホをとる気力もない。
今日は1日休みだったはずなのにすでに疲れている。
生希の中でとりあえず1日目を生き延びたという安堵感と、明日からまたこの生活が続くのかという絶望感で体に力が入らなかった。
「そういえば、明日休みもらったんだっけ......」
そう言いかけると「ピンポーン」とインターホンが鳴った。
気を抜いてうとうとしかけていた生希が飛び跳ねる。
普段人が訪ねてくることはない。
宅配にしても遅すぎる。
ましてや、時刻は21時26分。
「こんな夜に!?誰だ!?」
(ま、まさか、詐欺グループがここを突き止めて、誘拐しに!?)
そんなバカなことを思い、しかし、万が一に備えて部屋にあった自転車用のヘルメットをかぶり、なぜかあるくたびれたナイロンバットを片手にドアのほうへと近づいていく。
一歩、また一歩.......
普段なら何とも思わない玄関から、どす黒いオーラが漏れてきている気がする。
ごくり......。と唾を飲み込み、足音を立てないように近づいていく。
イメージトレーニングは十分だ。
玄関を開けたら、即バットを振り上げて先制攻撃を仕掛ける。
相手がひるんだところで、一気に家から飛び出して近くの交番までダッシュする。
(く、来るなら来い......!こっちは武装してるんだ......!!)
全神経をドアに集中させて、一歩、また一歩とドアへ向かう。
心臓の鼓動がまるでBGMのように耳元で鳴り響く。
玄関の前に来ると、すでに膝が笑っている。
腰もたぶんだが、引けている。
どう見ても戦闘態勢というより、面白い恰好をしている奴だが、そんなことは気にしていられない。
呼吸を整えていざドアノブに手を伸ばす。
「い、行くぞ.......!」
意を決してガチャリと開ける。
「きえぇぇぇぇぇぇええええええ!!!」
自分でも想像していない声が飛び出た。
ナイロンバットをぶり上げて、相手に飛びかかろうとした瞬間。
「お前、何してんの??」
聞き覚えのある声がした。
生希の時間が止まった。
いや、二人の時間が止まった。
目の前に立っているのは、フード付きパーカーにコンビニ袋を提げた榊原優児だった。
数秒。沈黙が流れる。
目の前で固まっている生希を優児が見つめる。
視線が、裸足→震える膝→へっぴり腰→ヘルメット→ナイロンバットへとゆっくり移動する。
「.......」
「.......」
「......それ、新しい趣味?」
「......い、いや......」
もはや上手い言い訳すら思いつかない。
――――――――
部屋の中に優児の笑い声が響き渡る。
笑いすぎて目から涙が流れている。
「そんで、お前、詐欺グループがこの家に訪ねてきたと??」
目の涙を拭きながら生希に問いかける。
「......お、おう......」
恥ずかしすぎて優児の顔が見れない。
顔の暑さなのか、部屋の暑さなのか、よくわからない。
「ちょっ、お前、これはほんとにやばいって!!」
そういうと、さっきスマホで撮った生希の恰好を見つめて再び笑っている。
「しかも、きえぇぇぇぇぇぇって!どこからそのセリフとってきたの?」
「い、いや.......それは......とっさに出たっていうか......」
もはや黒歴史でしかない。
「いや、今年入って一番笑ったわ!」
そういうと優児はスマホを置き呼吸を整える。
「それで、何しに来たの?」
優児の呼吸が落ち着いたのを確認して、改めて生希が問いかける。
「あ、そうそう!これ!」
そういうと優児がコンビニの袋を差し出す。
「なにこれ?」
生希が手を伸ばす。
「お前、詐欺にあったって聞いたから、食いもの困ってるかなと思って差し入れ!一緒に食おうぜ!」
「え?ほんとに?ありがとう!」
そういうと、優児は持っていたレジ袋を手渡す。
生希は期待に胸を膨らませてレジ袋の中を開ける。
生希
「.........」
優児
「......ん? どうした?」
生希
「い、いや.......」
袋の中には、大量の揚げ物が入っていた。
「どうかしたの?あれ?揚げ物好きじゃないっけ???」
すかさず、優児が訪ねる。
「す、好きだね......」
さっき、ミックスフライ弁当を食べて、お腹が油で重いなんて......
(なんで、ミックスフライ弁当にしたんだよ。俺!!!!)
そう思いながらも、優児のやさしさと気遣いを考えたらとても言えなかった。
「た、食べようぜ、、ありがと」
そういうと、上がってきそうな油を抑え込んで生希はフライをテーブルの上に並べ始めた。
しかも、さっきのミックスフライとは大違いの立派なフライだった。
ますます、さっき食べたぐちゃぐちゃのフライが悔やまれる。
(誰だよ.....。腹に入ればみな同じとか言ったやつ。全然違うじゃねぇか。)
「よし!」
そういうと、優児は意気揚々と缶ビールを開ける。
「え!?」
生希は思わずフライから優児へと視線を移す。
「お前も飲む?」
そういうと、優児は別のレジ袋から缶ビールを取り出し、生希に振って見せる。
「飲む!!!!!」
遠慮など入り込む余地もなく返事を返す。
さっきまで我慢していたアルコール欲が一気に湧き上がる。
「ふっ......ほらよ!」
そういうと、優児はテーブルの向こう側から生希に缶ビールを手渡す。
念願のキンキンに冷えたビールが手元にある。
カシュッという音ともに、一気にのどに流し込む。
「ぷはぁーーーーーー!!!!」
思わず声が漏れる。
その光景を優児が笑ってみている。
「めっちゃうまそうに飲むな!」
「夏はこれだろ!」
そういうと、缶ビールをテーブルの上に置く。
お金がなくて、ビールが買えないなんてこと、口が裂けても同僚には言えなかった。
いや、言いたくなかった。
ビールがのどを通ると、すかさず、優児の買ってきたフライを口に入れる。
さっきのフライとはまるで別物。
「サクッ」という音ともに、口の中に旨味が広がる。
「うま!!!!」
すでに、さっき感じていた満腹感はどこかへ行ってしまった。
優児もその光景を見ながらゆっくりとフライに手を付ける。
一口かじり、皿の上に置くと、ニヤニヤしながら生希のほうを見て続ける。
「そんで、お前、なんでフィッシング詐欺なんかにあったの?」
優児がそれを聞きに来たことは、明白であった。




