27話 本物
どういうわけか、俺とコレットとジラルドの三人で、近くにあるという湖で釣りをすることになった。例の【投影】スキルを使って楽々と移動するのかと思いきや、徒歩で行くらしい。
「僕のスキルを使えば一瞬で到着だけど、周辺の道を覚えてもらいたいしね。徒歩でも十分程度で行ける場所だし、高地だから体も少しは鍛えられる!」
「というかジラルドさん、釣りなんてしてる場合なんですかね……?」
「カレル君、タメ口で頼むよ」
「あ……リーダー、釣りなんかしてる場合かなって」
さすがにジラルドと呼び捨てにするのは難しいから、みんなの呼び方に倣うことにした。
「釣りが無駄だって? あははっ! そんなことはないよ。今にわかる!」
釣り道具を手にウキウキな様子のリーダー。
まさか、ルーネが言ってたように本当に釣り仲間が欲しかっただけなんだろうか? いや、パーティーは岐路に立たされているとか言ってたしそんなはずはないな。気分転換的な意味合いで釣りをするだけだろう。あるいは、無駄じゃないと言ったように釣りという行為がパーティーにとって何か意味を成すことなんだろうか。
……もしかしたら、あとで今までのことは全部釣りだったとみんなに告白されて、笑われながら追い出される羽目になるのかもしれないが、それはそれでまたあの砂浜でコレットと一緒に【釣り】スキルを使った生活に戻るだけだと思うと気が楽になった。
正直、海から山へと急激に環境が変わったせいなのかは知らないが、早くもホームシックみたいな現象が起きているのも確かなんだ。とにかく今は場所を覚えるように言われているので、俺は周りの光景を目に焼き付けることにした。
「どこを見ても同じ景色ですねっ! ……あ、変なこと言ってごめんなさい……」
「あっはっは! 別にいいよ。事実だしねえ。だからこそ覚えがいもあるというものだけど……」
「……」
なるほど、これで記憶力みたいなものを鍛えられるってわけか。
「ま、そう言う僕も未だに道に迷いそうになるときがあるんだけどねー」
「「あはは……」」
さすがリーダー。方向音痴だと自称するだけある。
「――おおっ……」
「わあ、綺麗ですぅ……」
あれからしばらく歩くと、青々とした美しい湖が姿を現わした。沢沿いの草花や苔の生えた岸壁、遠くに見える山々まで綺麗に映し込んでいる。
「どうだい? 飛び込んで泳ぐのもよし、釣りに興じるのもよし、うっとりと眺めるのもよし、デートの場所にも……いや、これはなしでっ! とにかく、絶景の秘境と言えるだろう?」
「確かに……」
「ですねぇ……」
ここなら充分な広さと深さがあるので【釣り】スキルも普通に使える。ただ難点なのは、ガラクタが出てもこんな辺境だと売るにしても手間がかかるからゴミが溜まってしまうってことなんだが……。
「カレル君には、これから本物の釣りをしてもらうことになる」
「「……え?」」
ジラルドの発言はまさに寝耳に水だった。
「【釣り】スキルは、本物の釣りをすることで隠された力を引き出せると僕は睨んでるんだ」
「……例の、よく当たるっていうリーダーの勘?」
「もちろん。でも、なんの根拠もないわけじゃないんだ」
「そ、それじゃ、まさか――」
「――ほかのメンバーの方に対しても、ジラルドさんが隠れた力を引き出したんですか!?」
コレットが自分のことのように身を乗り出してジラルドに詰め寄っている。嬉しい気持ちはあるが、その分がっかりさせてしまったときの落差が怖い。
「い、一応ね。例えば、ファリムの【落とし穴】っていうスキルは、当初は足を取られる程度のものだったんだけど、スコップで地面を耕すことをやらせ続けたら、一気に才能が開花して体ごとすっぽり落とせるようになったんだ」
「「へえ……」」
「だから、本物の釣りをすることでいずれなんらかの効果が出ると僕は信じてる……。もちろん、一緒に釣りをしたいからでもあるけど……!」
「「あははっ……」」
「ほかに気になることとかあったら遠慮なく僕に聞いてほしい。釣りをしながら話を聞くよ!」
そう言いつつ、嬉々として釣りの準備を始めるジラルド。俺たちの中で一番やる気満々の様子だった……。




