28話 思い出
「……」
ダメだ、全然釣れない……。
「よし来たぁっ!」
一方でジラルドはこれでもかと魚を釣りまくってるというのに……。
「――んー、本当の釣りって難しいなあ。俺には無理そうだ……」
「大丈夫ですよ。カレルさんは【釣り】スキルの持ち主です。本場のようなものですから、きっと挽回できます!」
「あはは。じゃあもう少し粘るか……」
「その意気です!」
コレットに元気づけられて、俺は王都の海岸沿いや砂浜で過ごした日々を思い出していた。確かに【釣り】というスキルがあって、それで色んなものを釣ってきた俺が簡単にあきらめてちゃダメだよな。スキルだと簡単に釣れるけど、それでも外れが多くて当たりを釣るまではかなりの忍耐が必要だったし……。
「――お、来たっ!」
「おー、カレル君よかったねえ。どんな小魚かな?」
ジラルドが余裕の笑みを浮かべてるのがなんか癪だが、とりあえず一匹目だ。
「う……」
ジラルドの言うように、手のひらサイズの小魚だった。
「どんまいです、カレルさん! 次はもっと良いお魚さんが釣れます!」
「よーし……おっ……」
気合を入れ直して湖に針を投げ入れたんだが、早くも二匹目が釣れたっぽい。ん、結構暴れてるし飛沫も大きいな。少しでも力を弱めると湖の中へ引き摺り込まれそうになるほど凄い力だ……。
「――お……こ、これは……!」
「わああっ……」
二匹目の魚はとても大きくて人間の赤ん坊サイズだった。
「くっ……負けた……」
ジラルドが顔を真っ赤にしてとても悔しそうにしている。それもそのはずで、彼が今まで釣り上げたどの魚よりもずっと大きかったからだ。
「いやいや、数じゃボロ負けだし……」
「はっはっは! 釣りっていうのは魚の大きさがものを言うんだよ! だからどんなに苦境でも一発逆転がある! どうだい、楽しいだろう?」
「はい、凄く……」
「見てるだけでも楽しいです!」
……あれ、なんかリーダーに聞きたいことがあったんだけど、釣りに熱中するあまりか忘れてしまった。まあいっか。ほかに言いたいこともあるし。
「……正直、俺は本物の釣り自体好きじゃなかったけど、今回で少し変わったかな」
「ええっ? カレルさん、釣り好きじゃなかったんですか? 初耳です……」
「むしろ嫌いだったな」
「へえ、そうなのかい? そりゃまたなんで……」
「魚を食べるためじゃなく、遊びで傷つけてるだけのように見えたから」
「なるほど……それは一理あるかもしれないね。実は、僕も釣りは嫌いだったんだ。別の理由だけど」
「「えぇっ……」」
そりゃ意外だ。ジラルドは俺よりずっと熱中してるように見えただけに、余計に。
「僕の故郷は、レウデニアルっていうここから遥か遠くの誰も知らないような山奥の村でね、そこで子供の頃、友達に釣りに誘われても断ってたんだ。僕の家の近くにある綺麗な川辺をゴミだらけにする釣り好きの連中が許せなくてね。釣り自体が嫌いになるのも自然な流れだった」
「「なるほど……」」
俺としては、釣り場の砂浜をガラクタだらけにしていたのでバツが悪かった。終わったら一応ちゃんと片付けてはいたが、釣りしている間の景観は損ねていただろうしな。
「毎日毎日ゴミを拾っては、釣りしてる連中に呆れてたもんさ。発見したら追い払ってやろうかとも考えてた。ところが、ある日見つけちゃってね……。猫耳の可愛い女の子が楽しそうに釣りをしているところを……。その子に惚れちゃって、話しかけたら仲良くなって一緒に釣りをするように……。それから釣りも好きになったんだ……」
「「へえー……」」
ジラルドらしいエピソードだ。
「でも、ある日彼女は父親と一緒に遠くへ旅立つことになってね、会えなくってしまって……。僕がモテないのも、その頃のことを引き摺っちゃってるからかもね……なんて……!」
照れ臭そうに話すリーダーはとても輝いてるように見えた。男は色々と引き摺るからな。知らないうちにバリアを作ってしまってる可能性もある。
「その猫の亜人さんにもう一度会えるといいですね!」
「あは……そうだね。会えたらいいけど、向こうはもう僕のことなんて忘れちゃってるかもだし、結婚だってしてるかもしれないからちょっと怖さもあるね……」
「……」
俺は気付けばうなずいていた。その気持ち、凄くよくわかるような気がする。
「あ……」
そうだ、すっかり忘れてたことを今やっと思い出せた。
「リーダー、なんか誰かと賭けをしてるみたいなことを言ってたけど、それって……?」
「……あ、あぁ、それね……」
リーダーの表情が見る見る沈んでいく。どうやら相当に根が深い問題のようだ……。




