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16 天と人との狭間で

【9月7日 天】

『よう、シッポレル。暇そうだな』


『……あ?ヒマじゃねーし。なんだよおっさん。また蚤取りして欲しいの?』


 ガブリエルが突然舞い降りてきて、私の隣にドカッと腰を下ろした。


『いや、風呂上がりだからな。蚤はいない』


『……あのさ。前から聞きたかったんだけど』


『なんだ?』


『おっさんの……その、毛先。いっつも燃えてるけどさ。なんで?』


 おっさんの丸い瞳が少し大きくなった。


『……これか?さあな。気づいたら燃えてた!』


 デカい口を開けてガハハと笑う。デカくて鋭い牙を剥き出しにして。顔の形は狐野郎と似てるのに、白くて目がくりっとしててちょっとかわいい。おっさんだけど。狼男だけど。狼ってか、わんこっぽい。毛もきっともふもふだ。燃えてるけど。


 おっさんはあくびをした。それから伸びをして、草の上に仰向けになった。


『ちょっと。隣でいきなり寝るな!』


 おっさんはむにゃむにゃ言いながらそのまま寝た。なんなんだ。


 あーあ。呑気でいいなあ。私はここんとこ、考えることありすぎて熟睡できないってのに。猫なのに。

 狐野郎。古臭い喋り方すれば賢く見えるとでも思ってんのか。ムカつく。バカにしやがって。私はバカかも知んないけど。

 だいたい私は、勉強とか努力?そういうのは嫌いなんだ。つまんないしすぐ飽きる。


「……ふっ……ほう。なるほど……うむ……」

 なんだこいつ。寝言か?キモいんだけど。


「……へえ……おっふ!……ガハハ……」

 ちょ。マジキモい。

「おっさん!寝るならちゃんと家で寝ろよ!」

「……ん。ああ……シッポレル。まだいたのか」


『おっさんが勝手に来たんだろ!てか声だして寝ごと言ってんじゃねえよ。キメえよ!』


『あー、声出てたか。いや、狼たちの映像を見てたもんでな。つい』


『ついじゃねーし!……狼たちっておっさんのペットの?こっち連れて来たの?』


『あ?そんなこと出来るか。あいつらは地上で走り回ってるのがいいんだ』


『……え?地上の狼とコミュニオ(精神リンク)できんの?おっさん超能力者だったの?』


『なに言ってる。誰だって出来るだろ。なかなか面白いぞ?いい暇つぶしになるし気が安らぐ』


『ええ?そ、そうなの?』


『ああ。天にはない大自然の中を走り回るのは爽快だ。おまえも暇なら見てみたら?』


『ヒマじゃねーっつってんだろ!』


『そうか。邪魔したな。さて、坊やの子守でもしに行くか』


 おっさんは、来た時と同じに突然飛び去った。翼、いいなあ。私にも翼があれば、狐野郎なんてすぐ見つけられるのになあ。


 てか、コミュニオ?天にいても繋がるなんて知らなかった……なんで坊やは教えてくんなかったんだ!

 ちょっと懲らしめろ。ちょっとじゃねえ!投げっぱなしってありえんだろ!


 イライラする。

 大自然で気が安らぐ、かあ……。


 道路。壁。電柱。

 ……全然大自然じゃねーし。

 他の猫の尻穴。

 ……こいつら、尻穴ばかり見てんな。

 車。人間の足。水。餌。トイレの砂。

 暗くて狭いところ。

 ……何がおもしろいんだこんなの。

 犬。ネズミ。カラス。

 ……飽きた。

 おっさん、いっつもこんなの見て喜んでんのか?狼は猫よりおもしろいってことはないだろ。ヒマなのはおっさんじゃね?


 ……ん?

 キタキツネ。

 ……ここはどこだ?街中じゃない。プレハブみたいな小屋。あれ?あの女、私のペットの飼い主だ。アメショじじいとシャムもどきの。

 あいつら。私がせっかく顕現してやったのに、なーんも受け取らなかった。頭わる。まあ私も、あんまり……いや全然上手く出来なかったけど。

 つまんない。

 寝よ。



 ——バサバサッと突風で目が覚めた。

 もう。せっかく熟睡できそうだったのに……って、またおっさんかよ!私の真上を飛んでった。白い大きな翼で羽ばたいて、炎をなびかせて——


 映像。

 コミュニオがちゃんと切れてなかったのか。なんの——


 狐野郎!!

 映像の中で、狐野郎が空中に浮かんでる。行かなきゃ!どこだ?

 あの女。またあの女がいる。

 狐野郎が女に憑依した。

 これはシャムもどきの視覚か。

 ナイフ。乾いた血で汚れたままのデカいナイフ。その切先が襲いかかってくる。

 

 かわした。飛びついた。噛みついた。


『きゃぁァアアーッッ!!』


 悲鳴!狐野郎が悲鳴あげやがった!ざまあみろ!よくやった、シャムもどき!そのまま放すな!私が——


 ——うえ〜……口の中に人間の血の味がする。キモい。吐きそう。吐いた。ケホケホッ。ついでに毛玉も。

 てか噛みついてたのに離れちゃった。シャムもどき、血で窒息しそうになってたし仕方ないけど……だめだ。毛玉吐いてる隙に逃げられた。


 毛玉まで吐いてなければ間に合った?狐野郎、なんかすぐ天に昇れなかった。なんでだ?

 ……シャムもどきが噛みついてたからか?ペットにそんな力があるのか?それなら——


 ——私のせいだ。せっかくあいつが捕まえてくれたのに、私が毛玉吐いてたから……生理現象だから仕方ないんだけど……ちくしょう。


 でも。またひとつ覚えたぞ?レベルアップ!ティロリン!

 ペットだ。猫たち。映像だけじゃない。見つけるだけじゃない。

 私と猫たち。

 力を合わせれば捕まえられる!


 ……どうやって力を合わせるか。

 それが問題か……。

 


【9月12日未明 札幌】

 猫たち。私のペットたち。

 猫たちと力を合わせる。そのために、私は4日かけて映画を作った。


 狐野郎を取り逃して、考えた。

 今まで私は、ペットに使命を伝えたくて、とにかくたくさん情報をぶち込んでた。焦ってた。それじゃダメなんだ。

 狐野郎を捕まえる。そのためにはみんなに手伝ってもらわないと。やれ!だけじゃ、坊やとおんなじだ。ちゃんと説明して、お願いしなきゃ。頭の悪い猫たちにもわかりやすく。


 それで思いついたのが、映画上映会。

 これまでに集まった猫たちの視覚映像はもちろん、観測係にも丁寧にお願いして記録映像をたくさん借りた。まとめて編集して一本の映画にして、みんなで観る!

 やばい。私、天才かも!

 猫たちもきっと、この私が4日もかけて頑張って作った映画を観れば、絶対力を貸してくれる!もしかしたら感動してみんな泣くかも!

 さあ、みんな!いっつもここで猫集会やってるんでしょ?えーっと……2匹。……ま、まあ最初だから!口コミで人気爆発するに決まってる!次だ次!

 日の出までに、札幌中の猫集会で上映してやる。



 3ヶ所目。ここは……6匹か。

「……なにこれ……」

 ん?あれは……あの女か?シャムもどきもいる……まあいいか。さあ、始めるぞ!


 映画は、いきなりアスファルトのアップから始まる。どうこれ。革新的じゃね?狐野郎の1件目の悪戯、そして2件目。憑依されてた男が凶器を持ったまま逃げるシーン。ドキドキハラハラ!圧倒的サスペンス!

 そしてナイフ。インパクトある〜!これで観客はもうナイフが頭から離れない。そこに、ド〜ン!ここかっこよすぎ!キタキツネ登場!

 場面変わって、3件目の現場。夜道を歩く幸せそうなカップル。そこに現れる不気味なキタキツネ。無邪気にキタキツネを追うヒロイン。だが愛する恋人は、ワルモノに……はいココ!観測係の記録の山から見つけ出したワルモノ登場シーン!デデーン!狐野郎!


 ヒロインは哀れにも殺され、義憤に燃えた主人公つまり私が、ヒロインに決死の思いで転生!だが狐野郎の狡猾な罠にハマり、あと一歩というところで取り逃してしまう……くぅ〜!熱い!盛り上がる!


 そして次のシーン。起承転結の転だね、専門用語で言うと。

 主人公つまり私が、相棒シャムもどきのドタバタから逆転のヒントを掴む!

 だがここで終わっちゃうのはシロートの脚本だ。まだまだここからがおもしろくなるんだ。

 ワルモノもただでは捕まらない。ずる賢く暗躍し、主人公つまり私の仲間たちに魔の手を伸ばす。静かな駐車場に停まる一台の車。運転手がタバコを吸いに出た、その油断をついてワルモノ出現!運転手に憑依し、車内の荷物を漁る……掴み出したのは、あのナイフ!

 どうなる?どうなるどうなる?!

 ……to be Continued。


 拍手喝采、絶賛の嵐!全天が泣いた!

 ……静かだけど。まあ早朝だし?みんなきっと、感動と興奮のあまり拍手すら忘れてるんだ。……みんな、さっさと帰ってくけど。

 そうか。一刻も早く帰って、この感動を誰かと分かち合いたい的な……。


 ……なんか疲れた。

 いいんだ。要はナイフとキタキツネさえ覚えてくれれば。映画って難しい。

 あとシャムもどきとあの飼い主。たまたまかもだけど観てくれてよかった。きっといいレビューをくれるはずだ。キャストなんだし。


 いやそんなことよりナイフだ。

 その後どこにあるのか……ホテルの外で道端に捨てられたのを、ペットのキタキツネに拾わせてトンネルでまた使い、警察が押収したのにわざわざ刑事に憑依して持ち出した。

 さらに、シャムもどきが噛みついて落としたのを、偶然?イイモノ側の仲間が確保してたのに、運転手が憑依されてまた取り返された。

 狐野郎はなぜか、あのナイフに執着してる。理由なんてどうでもいい。絶対次も使うはずだ。


 ナイフとキタキツネ。


 その後も夜明けまで、猫たちの集会場を片っ端から渡り歩き、巡業公演を続けた。なんてけなげな私。

 猫たち、頼んだぞ。レビューは後でいいから、ナイフを探せ。


 地上に朝が来てからも、休むことなく新しい映像を見る。寝る間も惜しんで仕事に打ち込む私。やればできる子!私、えらい!

 ここからはライブだ。札幌に散らばった猫たちからの映像——


 これは?……知ってる女だ。確か、シャムもどきの飼い主の仲間。イイモノ側。ふらふらと歩いてる……あれ?ここって、あのトンネルの近くだ!あの時とは逆からだからわからんかったけど、間違いない。

 やっぱり!トンネルに入って行く——

 ——いた!キタキツネ。ええ?ナイフ!咥えてる!待って待って!行く!


 地上に降りて行くことはできない、誰も死んでないし、けど行くしかない!行けばなんとかなる——


 狐野郎!!

 見つけた!この女に入ってやがった!逃がさねえ!ここで捕まえなきゃ——


 ——どうやって?わかんねー!いいから手を伸ばせ!

 

 光の穴。地上が、狐野郎が見える!手を突っ込む。鉤爪全開!捕まえる!この——

 

 ——え。もうひとつ……そっちじゃねえ!

 狐野郎が自分で開けた光の穴。私の穴のすぐ隣り。そこに頭から吸い上げられて行く。緑の炎の眼が私を見た。

 

 笑いやがった、この野郎!

 太いふさふさの尻尾。先端の白い毛。

 待ちやがれ!あと——

 爪先が届いた。狐野郎のゴワゴワの毛。爪が梳くように掠める。

 そして、光の中に消えた。


 ……ちくしょう……ちくしょうッ!あと……あとほんのちょっとだったのにッ!

 私の爪……私の腕がもうちょっと長ければ。私がもうちょっと早く来ていれば、捕まえられた!はずだ!

 悔しい。悔しい悔しい悔しいッ!

 やつはのうのうと天に戻った。薄ら笑いで。天は……広すぎる。猫たちの目もない。見つけられない。

 翼が欲しい。

 おっさんみたいな翼があれば、天の空から探せるのに。翼があれば……。


 でも、私には翼はないんだ。

 私にあるのは、この爪と牙と……。

 目だ。

 私の眼。

 猫たちの眼。

 私たちの眼。


 地上で見つけるしかない。

 絶対……絶対、見つけてやる!

 ただ見つけるだけじゃ同じだ。

 早く……先に。

 先回り。狐野郎がどこに出るか、先にわかれば……捕まえられる。引っ掻ける。きっと。


 毛皮ひん剥いて、足拭きマットにしてやる。あのゴワゴワ、ちょうどよさそう。


 待ち伏せだ。

 狐野郎は狡猾だ。頭がいい。私よりずっと。

 だから、私みたいに行き当たりばったりじゃないはずだ。今までだってそうだった。


 考えろ。考えるんだ、私!

 狐野郎は次はどうする?どこに出る?誰に憑依する?

 考えて……わかるか?私に?


 この女。

 キタキツネからナイフを受け取ってトートバッグにしまった。狐野郎が抜けたのはその後だ。

 なんで?

 ナイフを、どこに持って行く?


 この女だ。この女がナイフを運ぶ場所。

 そこで待ち伏せすれば、やつは来る。絶対。



【中の島パークサイドレジデンス】

 ここは……シャムもどきたちの家じゃん。

 あのトートバッグ女、裸足でここまで来た。途中タクシー乗ったけど。人間って靴履かないとだめなんだっけ。弱っちいなあ。毛がないからか。肉球もないし。靴とか服とか、嫌過ぎる。


 シャムもどきはどこだ?

 これは……車の中か。


「——あーしは猫に愚痴る寂しい女みたいじゃねーか」

 飼い主の女の声だ。

 あーし?わたしって言いたいのか?頭悪そうな言い方。ぜってー使いたくねーな。

 車で帰って来る途中か?

 トートバッグ女はマンションの1階で座ってる。シャムもどきたちを待ってるのか。

 狐野郎、どういうつもりだか知らないけど、私にとってはチャンスだ。シャムもどきが噛みつけば時間を稼げる。捕まえやすい。


  

 帰ってきた。

 狐野郎はいない。待つしかない。


「シャーッッ!!」

 シャムもどきがなんかキレてる。トートバッグ女は今は憑依されてない。噛みつくならトートバッグにしとけよ?敵はその中だ。

 

 ん?宇宙カプセルに入るの?なんでだ?それってすぐ出れる?出れるんならいいけど、肝心な時に飛びつけなくね?


 シャムもどきたちは部屋に入った。トートバッグも。トートバッグ女は身支度してる。

 ここじゃないのか?でも他に当てはない。あのトートバッグを、ナイフを追いかけるしかない。

 トートバッグ女が……帰る。あれ?トートバッグは?

 ……忘れて行った。

 部屋にいる間、トートバッグはシャムもどきの隣に置かれていた。誰も触ってない。

 ナイフは、まだ中にある。


 わざとか、ほんとに置き忘れたのか。

 あの女の中には狐野郎はいない。今はまだ、誰の中にもいない。


 子ども。

 シャムもどきに、子どもが近づいて来る。そして——


 来やがった!狐野郎!!行くぞ待ってろ!!

 ……いや、待つのは私だ。焦っちゃだめだ。待ち伏せするんだ。

 あいつらの上で。天で。

 狐野郎は光の穴をもう一度開ける。天に逃げ帰るために。その時まで待つんだ……。

 

 狐は穴を開けるのも上手い。さっきだって、わざわざ私のすぐ隣に開けやがった。おちょくってやがる……だが今度は、その穴を私が利用してやる。どこに開けるかなんて開くまでわからない。だけど……シャムもどきがいる。シャムもどきの眼がある。

 シャムもどきの眼で狐野郎が穴を開けようとしてるのがわかったら速攻!天で開こうとしている穴を見つけて、待ち伏せる!

 さっきは掠った。今度は間に合う!


「——片端から切り刻んでやるか!」

 出た。子どもから抜け出した。

 まだだ。

 シャムもどきは宇宙カプセルの中。出られない。使えねーバカ猫。私が焦って手を出してもまた逃げられる。 

 飼い主の女に入った。

 まだだ。待つんだ。


 天で前屈みになり、捕獲態勢。

 私の下半身が我慢できずに動く。お尻ふりふり、尻尾パタパタ。

 待て、待つんだ、その瞬間を——


「フギャアアアーーーッッ!」

 ……え?

 アメショじじい!噛みついた!狐野郎の悲鳴!出てこい!さあッ!

 ナイフ?!

 ええっ!!

 もうめちゃくちゃだ!なんで自分を刺す?!

 鮮血が。真っ赤な血が。おまえ死ぬぞ?

 いやそれはどうでもいい、狐野郎、血、めちゃくちゃ、死ぬぞ、子ども、どうでもいい!!


 今だ!

 狐の穴が開く。狐野郎はナイフに引っかかってる!

 見つけた!今だッ!!絶対捕まえる!!


 全身をバネにして天を駆け、狐の穴に両前足を突っ込む。鉤爪全開——確かな感触!

 

 捕まえたッ!

 今度こそ捕まえた!がっしり胸ぐらを掴む。毛皮を突き破り、爪が喰い込む。両手の10本の爪が全部。


 もう逃さない。

 天に引きずり上げる。

 穴が閉じた。


 狐の糸目が見開かれ、緑の瞳が私を見た。

 涙が垂れ、流れる。


『捕まえたぞ狐野郎。なんか言いたいんじゃねーのか?お喋り狐が』


 天の野原に狐野郎を転がして、前足の爪は一旦放してやる。念のため後ろ足で尻尾を踏んづけてるけど。プルプル震えてやがる。片前足でちょいちょいする。


 アルムエルはしゃくり上げ、嗚咽を漏らすだけ。もう難しい言葉も品切れかよ。

 つまんねー野郎だ。



【天】

『ミカエル!捕まえたよー、悪戯者を!』

 

 泣き虫狐の尻尾を踏んづけたまま、坊やを呼んだ。


『おーい。いねーのか?このまま、足拭きマットにしちゃっていーい?』


 返事はない。そのかわりに、足元に黒い穴が開いた。見てると、どんどん大きくなってく。

 穴の奥でゴォゴォと渦巻く暴風。

 地獄への穴か。落とせってこと?


 簡単でいいや。捕まえちゃったら、もう興味は無くなった。

 アルムエルはまだ咽び泣いて震えてる。みっともねー。

 ゴワゴワの毛皮で後ろ足を拭いてから、穴に蹴落とした。

 風の音がすごくて、悲鳴も聞こえなかった。黒い穴はすぐに閉じて、あとには元の草むらしかない。


 これでおしまい。

 


 爽やかな風が吹いた。地獄の暴風(くしゃくしゃ)じゃない。

 空を見上げると、またおっさんが飛んでる。くるっと一回、私の上で旋回すると、炎の飛行機雲を残して飛び去った。


 使命は終わった。やり遂げた。完璧。

 だって私、(ぴょんぴょん)天才だし?

 泣き虫狐は地獄に堕ちた。てことは堕天使になったってこと?

 

 うーん、それってどうなんだろ。堕天使ってなんか(ハイハイ)かっこよくね?アヴィエルをアヴィらせたのも堕天使ってウワサあるし。地獄も今は昔と違って、人間の女が女王になったとかって話も(白いダリア)聞いたことある。都市伝説か?


 まあ……私の使命は捕まえることだし。その後の(ユウヤの)ことは知ったこっちゃない。とにかく、地上はもうしばらくは(ユウヤが)いいや。猫たちはほっといても心配ないし。(ユウヤに)悪戯者もいなくなったし。地上にはもう用は(ユウヤは)ない。ごちゃごちゃして(ユウヤを)うるさいし空気も臭いし人間が(ユウヤと)たくさんいすぎるし。

 

 帰るか。

 寝よ(ユウヤと一緒に)う(・)る(・)せ(・)え(・)!


 子どもの顔、よく知らない子ども、話したこともない子ども、名前も知らない(ユウヤと一緒に)子どもユウヤ、ユウヤ、ユウヤユウヤユウヤユウヤユ——

「——うるせえってッ!!……ハァ……ハァ……」

 

 あの女(ユウヤと一緒に)。シャムもどきの飼い主が死んだ。だから(ユウヤと一緒に)なんだってんだ!私の知ったこっちゃ(ユウヤと一緒に)ねえって!

 嫌だ!絶対嫌だ!(ユウヤと一緒に)絶対しない!地上はもう(ユウヤと一緒に)嫌なんだって!天がいい、自由がいい!(ユウヤと一緒に)あんな不便な(ユウヤと一緒に)身体に何十年も閉じ込められるなんて絶対嫌!絶対(ユウヤと一緒に)絶対嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ絶対嫌だ!(ユウヤと一緒に)

 ……嫌だ……こういうの……もやもやすんだよ!

 あーーーッ!

 もうッ!!



【地上】

「……ーーーッ!」

 くせえ!

「……ハァー……」

 なんで……なんで私……。


 真ん丸な目。

 青い眼。

 光。


 不思議な、こころの眼。

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