表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理論で恋は解けません!――天才兄貴の学術的聖域は、妹とメイドと親友のバグで溢れている  作者: 水上 空


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/56

論理的拒絶と親友の苦い溜息




直道が提示した「肉じゃが」という妥協案により、俺の部屋のキッチンはかつてない高密度な演算領域と化していた。


「湊様、皮を剥いたジャガイモの表面積を計算しました。煮崩れを最小限に抑える角度でカットします」


「お兄ちゃん! 脳が活性化するっていう特製ハーブと、お砂糖を愛の分だけドバッと入れるね!」


「あら、それなら私のこの『賞味期限不明な高級スパイス』も混ぜちゃいましょうか」


「――却下だ。 脳のエネルギー源とはいえ過剰な糖分はインスリンの急上昇を招き、食後の演算効率を著しく低下させる。さらにその得体の知れないスパイスは、未知の化学反応による健康リスクが不透明すぎる。私の人体を治験場にするのは論理的に認められない」


俺は左右で色の違う靴下を履き直し(機能に差はない)、断固とした拒絶を突きつけた。


だが、真の脅威は背後にあった。静香が、俺が最も忌避する食材――「しいたけ」を、精密な手つきでスライスし始めたのだ。


「待て。しいたけは咀嚼時の触覚ノイズと香気によるデータ汚染を引き起こし、私の演算能力を著しく低下させる致命的なバグだ。ゆえに、論理的に排除を要請する」


「……ただの好き嫌いを、そこまで論理武装して語るとは。流石は主人です」

 静香は感心しつつも、手を止めない。


「お兄ちゃん! じゃあ、しいたけがダメならこの『セロリ』をたっぷり入れるね! 繊維質がお兄ちゃんの血管を掃除してくれるよ!」


「理央、それも非論理的だ。セロリの繊維は、口腔内において『糸状の不純物』として認識される物理的エラーだ。血管の掃除なら、サプリメントという最適解が存在する」



「――お前ら、まだやってんのか」


キッチンの入り口で、肺の空気を全部入れ替えるような深い溜息をついたのは、様子を見に来た直道だった。


「直道、聞いてくれ。彼女たちは、私の摂取プロセスに不必要な負荷をかけようとしている」


「……湊。あんたさ、その『論理』って言葉、昔からの隠れ蓑にしすぎなんだよ。幼ピーマン嫌がって『葉緑素の過剰摂取は色覚に影響する』とか泣きながら言ってた時と中身変わってねーぞ」


「……っ。その過去のログは破棄したはずだ」


「……いいか二人とも。湊の『脳内プログラム』はバグだらけなんだ。今更嫌いなもん食わせてフリーズさせたら、結局あんたたちが介抱するハメになるだけだぜ。ここは湊の……『生存戦略ワガママ』に付き合ってやってよ」


直道はそう言いながら湊の肩を軽く叩き、静香と理央の手からしいたけとセロリを自然な動作で回収した。


「その代わり湊、『論理的』に選んだ具材なら、残さず食えよ。これ、おまえが決めた最低限の肉じゃがだろ?」


「……。当然だ。私は自分の選択を疑わない」


「はいはい、分かったから。……ほら、火加減は俺が見ててやるから」


直道が俺の代わりにレードルを握り、鍋のバランスを整え始めた。不愉快だ。直道の指摘は、常に俺の論理の装甲を貫通し、一番カッコ悪い内側をさらけ出させる。


結局、嫌いなものを全て「論理」で排除した結果、鍋の中には極めて純度の高い(が、少し色の薄い)肉じゃがが完成しようとしていた。



 俺の胃袋は守られたが、俺の「偏食」という名のバグが、親友の溜息と共に白日の下に晒された夜だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ