論理的収束とチャラ男の毒舌裁定
スーパーの精肉コーナー前。
静香の「ミリグラム管理論」、理央の「激重献身論」、そして真壁教授の「ジャンク適当論」。
三つの異なるベクトルが俺という一点に集中し、周囲の空気は物理的な熱量を帯び始めていた。
「湊様、答えを。私の計算した完璧な鶏ささみメニュー以外、選択の余地はありません」
「お兄ちゃん、私の特製・愛の煮込み料理を拒否するなんて言わないよね?」
「湊君、たまには私の適当なジャンクで、脳を甘やかすのもいいわよ?」
「……あー、その。私の消化器系(胃腸)のリソースは一つしかない。同時実行は不可能だ」
俺が論理的な逃げ道を模索していた、その時。
「――お前ら、スーパーの真ん中で何やってんの? 公害レベルに目立ってんだけど」
ダルそうに声をかけてきたのは、カゴにエナジードリンクと徳用パックの肉を放り込んだ直道だった。
彼はチャラい身のこなしで俺たちの輪に割って入ると、まずは真壁教授のカゴを覗き込んだ。
「先生、あんたの食生活は論外。研究より先に自分のバイタル死ぬだろ。少しは自覚持てよ」
「あら、直道君。相変わらず厳しいわねぇ」
教授がのんびりと受け流すのを無視し、直道は次に静香と理央へ視線を向けた。
「で、そこの二人。あんたらの言ってることも、ただの『押し付け』だろ」
直道の言葉に、静香と理央が同時に眉をひそめる。
「静香ちゃん。数字で固めた食事なんて、ただの『燃料補給』だ。湊みたいな合理的バカにそれをやったら、いよいよこいつ、人間辞めるぞ」
「……主人を『バカ』と呼称するのは看過できませんが、燃料補給という点は否定できません」
「理央ちゃんも。あんたの『愛の煮込み』は、湊の細い胃袋には物理的に重すぎるんだよ。相手のスペックを無視した『献身』は、ただの自己満足。嫌がらせと変わんねえよ」
「な、な……っ! 私はお兄ちゃんの健康を想って……!」
「想ってるなら、こいつが今『帰りたがってる』ことに気づけよ。隙だらけの湊が、さらにフリーズしてんじゃねえか」
直道は俺の肩をポンと叩くと、俺が手に持っていたジャガイモを取り上げ、カゴの中へ放り込んだ。
「いいか、今日の正解は『肉じゃが』だ。静香ちゃんがタンパク質とカロリーを計算して、理央ちゃんが味を整える。先生は……黙って座って、湊と一緒に出来上がりを待つ。これが一番『角が立たない』。だろ?」
……不愉快だ。
直道の提示した案は、極めて情緒的で非効率に見えるが、この場を収める「政治的解決策」としては一〇〇%の正解だった。
「……直道。お前の指摘は、極めて不愉快だが……現状の最適解であることは認めざるを得ない」
「だろ? さっさとレジ通して帰れよ。見てて疲れるんだわ」
直道はヒラヒラと手を振って、レジへと去っていった。
残された三人の女性は、毒気を抜かれたように顔を見合わせた後、なぜか「共同戦線」のような空気で俺を見つめてきた。
「……湊様。共同作業における、私の管理精度の高さを見せつける良い機会です」
「お兄ちゃん! 最高の肉じゃが、作ってあげるからね!」
「あら、私も混ぜてもらえるのかしら。楽しみね」
どうやら今夜は、三人掛かりの「過剰な肉じゃが」によって、俺の胃袋が論理的に破壊されることになりそうだ。
(続く)




