物理的破損と電気街の正論漢
学食での「不純物」との聖戦、そして研究室での「サンドイッチ強制入力」。その激闘の過程で、俺の外部演算ユニット(ノートPC)が沈黙した。理央が零した「高純度DHA入りコーヒー」が、精密基板に致命的な短絡をもたらしたのだ。
「……致命的だ。基板上の回路が愛情という名の不純物で短絡している」
「ごめんねお兄ちゃん、でもこれで最新機種に買い替えられるよ!」
「湊様。私が秒速で家電量罰店の在庫を全スキャンしました。直ちに出発します」
左右で色の違う靴下を履いたまま(機能に差はない)、俺は秋葉原へと向かった。
「――よぉ湊。相変わらず、重力に負けそうなツラして歩いてんな」
秋葉原の路地裏。声をかけてきたのは、緩く着崩したシャツに明るい髪色の男――直道だった。俺の数少ない親友であり、俺の屁理屈を「本質」という名の正拳突きで粉砕してくる悪友だ。
「……直道か。見ての通りだ。私の外部脳が物理的エラーにより、出力不能に陥っている」
「はっ、またその『外部脳』とかいう痛い呼び方か。要はPC水没させたんだろ。ダサいな。あんたのその壊滅的な生活管理能力のツケだろ」
相変わらず、こいつの言葉には見た目に反してゆとり(バッファ)がない。
量販店で俺が「キーボードの打鍵音〇・二デシベルの差」を静香と論じていると、直道が鼻で笑って、展示棚にある最新の超頑丈なノートPCを指差した。
「湊、あんたが買うべきはそれだろ。防水も耐衝撃も完璧なやつ」
「……直道。私は最高速度の演算を求めている。この無骨なモデルは、私の美学的論理に反する」
「その『美学』、コーヒー一杯で死ぬんだな。ウケるわ。……いいか、あんたは自分が万能の天才研究員だと思ってんだろうけど。実際、身近な二人の干渉すら予測できない、ただの隙だらけなんだよ。自覚持てよ」
「…………っ!!」
「あんたにとって一番のバグは、スペック不足じゃない。物理的に作業が止まることだろ。壊されるなら、壊れない道具を選ぶ。それが効率を気にする研究者の『合理性』ってやつじゃないのか?」
今日何度目かのフリーズ。直道の言葉は、俺のプライドを「生活能力ゼロの現実」で淡々と包囲した。
「……直道。お前の指摘は、極めて不愉快だが……統計学的には正しい」
「だろ? さっさとそれをレジに持ってけ。あと、理央ちゃん」
直道がチャラい笑顔のまま、理央を横目で見た。
「兄貴を想うのはいいけど、道具を壊すのは愛じゃないだろ。ただの邪魔。次にその『愛情』をぶちまけるなら、その丈夫なPCを壊してからにしなよ」
「う……直道さん、相変わらず正論すぎて可愛げがないんだから……」
「湊様。……計算外でした。物理的防御力を優先する選択肢を失念するとは、メイドとして不覚です」
結局、俺の手元には、多少の衝撃や液体ではびくともしない最新の頑丈なノートPCが残った。
「……ふん。これでようやく、不測の事態(二人)を気にせず演算ができるというわけだ」
「よかったねお兄ちゃん! じゃあお祝いに、そのPCが本当に頑丈か、上から特製おしるこをかけて試してみようか!」
「……直道。今すぐこいつを物理的に隔離してくれ。頼む」
(続く)




