第21話:お出掛け
眠い……。
日曜日、午前10時前。
昨日……正確には今日の明け方になるが、椛さんに海まで連れられかなり長い時間過ごした。おかげで完全に寝不足だ。
……まぁ私も途中からはしゃぎすぎたけど。
駅前で陽咲が来るのを待っているのだが、何度も欠伸が出てしまう。
スマホが振動した。
『あと5分くらいで着くよ』というメッセージが送られてきた。
もうちょっとで着くのか。
……服装、変じゃないよね?
成舞さんに選んでもらった服装だし、大丈夫なはずだけど妙にそわそわするというか、緊張するような感覚だ。
ベージュのスカショーパンに黒のシアーニットというファッション。髪型はどうすればいいのかよく分からないから、いつも通りのストレートだ。
通行人から何故か視線を感じるが、そこまで変ではないはず。成舞さんのセンスを信じてる。
でもあの人、何にでも可愛いっていうタイプな気がするんだよな……。
「お待たせ。ごめん、待った?」
なんてことを考えていたら陽咲が到着した。
「ううん。さっき着いたトコ。」
「そっか。なら良かった。」
陽咲のファッションは、黒のTシャツにネイビーのワイドデニム、そして黒のキャップ。ボーイッシュな雰囲気を感じさせるストリート系のファッションだ。
「それで今日の予定は?お昼に回転寿司店に行くっていうのは知ってるけど……。」
お昼を食べに行くだけなら、わざわざ午前10時に待ち合わせる必要はないはず。
「ああ、うん。色々やってみたいことがあって。……ホントに私のやりたいことだけでいいの?」
「うん。陽咲のやりたいってこと、色々やってみようよ。」
自分では何にも遊ぶ内容が思いつかないから。なんて打算的な理由は胸に秘め、夕桔は頷いてみせた。
私が知っていて陽咲が知らないであろうところなんて、喫茶フォルトゥナくらいしかないからなぁ……。
あれ?でも成舞さんにお礼も兼ねて会いに行った方がいいのかな?
「そっか。ありがと。じゃあまずは、カラオケに行ってみたいんだよね。」
「分かった。」
……まぁいいか。成舞さんにはまた今度、会いに行こう。
そういうわけで、駅前にあるカラオケ店にやってきた。
4月にクラスメイトに誘われた時以来だ。人前で歌ったことがないから、どうすればいいのかよく分からない。遊びのヒントにしているビタミンちゃんも歌う姿を見せたことがないし。
「私、カラオケに来たことなかったんだよね。夕桔は来ることあるの?」
「ううん。私はとりあえず、見てる?聞いてる?……から、陽咲の好きにしてみて。」
「分かった。えっと……。」
慣れない手つきで端末を操作して、マイクを握る陽咲。
「それじゃあ歌いまーす。あーあーあー……。」
モニターにアニメの映像が流れ始める。
「……。」
陽咲の歌声は何というか、アニメっぽい感じの声だ。いつも喋る時は低めの声だけど、歌声は高めなんだ。ギャップというやつか。
歌声の良し悪しは正直良く分からないけど多分、上手い方なんじゃないかな。
「この声で歌うの難しい……。」
歌い終わると、そうボソッと呟いた。
多分、今の曲の歌声を真似て高音で歌っていたのかな。
「夕桔は?何か歌う?」
「ううん。気にしないで。好きなの歌っていいよ。」
「そう?それじゃあ……次は……。」
今度は演歌が流れ始めた。モニターに歌の情報が色々出てくるわけだけど、私が生まれるよりも前の歌だ。
……何で知っているんだろう?
今回はいつもの地声に近い、低い歌声だ。
これが無理のない、自然な歌声なのだろう。
そしてさっきよりも上手く感じる。
「ふぅ……。」
歌い終えた陽咲に拍手を送る。
「上手だったよ。好きな歌なの?」
「好き……というか、家の……忘年会とかでよく聞いてる曲だから。慣れてるのかも。」
「へぇ~。」
家族に演歌が好きな人がいるのか。
「ほら。せっかくだから夕桔も何か歌ってみなよ。ここには私しかいないんだから。」
「あぁ……うん。」
知ってる曲が何もないんだよなぁ……。
子供の頃から、テレビもそんなに見た記憶がないし……。
……あ。あのアニメなら見たことがあるから知ってるか。
月に住むお団子が大好きな二足歩行のウサギが、勉強も運動も出来ない小学生のもとへやってきて、月の技術で作られた不思議なアイテムで手助けするアニメ。
「えーっと……それでは聞いてください。『Dry Moonの歌』。」
音楽が流れ始めると、どんな曲だったか思い出せてきて、自分でイメージしているよりも歌えた。最後に聞いたのはもう10年近く前のことなのに、意外と覚えているものなんだな。
「あ……2番は分かんない。」
演奏中止。
私の歌はこれにて終了。後は陽咲に任せましょう。
それから陽咲がアニメの曲を高音で苦しそうに歌い、演歌を低い声で落ち着いて歌うのを繰り返してカラオケの時間は終了した。
続いては回転寿司店。
バーチャルタレントとコラボしているということで、特定のメニューを頼んだり一定数食べたりすると限定コラボグッズが貰えるという話だ。
私はビタミンちゃんしか知らなくて、尚且つ当のビタミンちゃんのグッズはないわけだから、ここで手に入るものは全て陽咲の物となるわけなのだが……。
「どれが欲しいとかあるの?」
何目当てなのかは聞いていなかったから尋ねてみる。もっとも、ランダムなので目当てのグッズが手に入るかどうかは運次第だ。
「あー……特にコレが欲しい!的なものはないんだよね。手に入るなら、なんでもいいやって感じ。」
「ふーん……。」
そういうものなのか。
まぁかなり種類があるみたいだし、狙っているものが出るまでやる!なんて言われても大変だ。
注文数が一定に達するたびにグッズが手に入るらしいので、タッチパネルでテキトーに注文する。
味は……まぁ普通だ。
陽咲は手に入ったグッズをテーブルに置いて写真を撮り始めた。
「何してるの?」
「えっと、ゲットした記念というか、思い出を写真に残しておこうかなと。……そういえば夕桔って、SNSは何もやってないんだっけ?」
「うん。よく分からないから。」
「そっか。こういうのを写真に撮ってアップしている人とかよくいるんだけど……興味ないなら、やらない方がきっと幸せだよ。承認欲求に囚われると地獄だから。」
まるで目撃してきたかのような凄みがあった。
「今日ってこの後、どうするの?」
確か色々やってみたいことがあるって言ってたけど。
「この後はね、スポーツ施設に行きたいと思ってるんだけど、いい?」
「もちろん。」
私に断る理由はない。
「ありがとう。食べ終わったら行こう。」
そうしてスポーツ施設へと足を運んだわけなのだが……。
眠い。カラオケで大きな音を聞いているうちに眠気が飛んだと思っていたけれど、食事をしたことでぶり返してきた感じがある。
こんな状態じゃ万全に楽しめない……けど。
「ぜぇ……はぁ……はぁ……。」
陽咲よりは楽しめているのかもしれない。
「だ、大丈夫……?」
膝に手をついて喘ぐ陽咲に声をかける。
「だ、大丈夫……なんでそんなに……上手いの……?」
バドミントンを始めたわけだが、早々に陽咲は息を切らしていた。
「えーっと……何でなんだろう……?」
怪盗として鍛えているから。
そう言うわけにもいかないので誤魔化す。
「中学で部活やってた?」
「やってないよ。ほら、あと10分くらいできるから。」
深く突っ込まれる前に、多少強引にでもプレーを再開する。
腕を大きく振って後方へとシャトルを飛ばし、返ってきたら今度は弱く当てて手前に落とす。単純な揺さぶりだけど、大会でも何でもないんだからこれで充分だ。
陽咲は必死に走って打ち返してくれるけど……明らかに私よりも運動量が多くて消耗している。
「……。」
体育の授業では目立たないように手を抜いているから、こうやって普通にスポーツできるのは楽しい。だけど……。
ちょっとだけ……。
物足りない……かも。
「うぇ~……。」
「だ、大丈夫?」
バドミントンが終わると、陽咲はベンチに座ったまま動かなくなってしまった。
「……自分でスポーツするのが、こんなにキツイとは思わなかった。漫画と違う……。」
「体育はどうしてるの?」
「陽キャどもが好き勝手やってるから、ほとんど見てるだけ……。」
事情は違うけど、私とそんなに変わらなさそうだ。
「もう止めとく……?」
「いや……せっかくお金払ったんだから、やらないと損。よし!夕桔、次やろう。」
ホントに大丈夫かな……?
テニス。
「走るの辛い……!」
バレーボール。
「手が痛い……!」
卓球。
「当たらない……!」
陽咲はベンチでぐったりして動かなくなってしまった。
買ってきたスポーツドリンクを与える。
「ありがとう……。」
一気に半分近く飲み、陽咲は天井を見た。
「こういうキラキラした、普通をやってみたいって思ってんだけどなぁ……。」
そう小さく呟いた。
「……帰ろっか。付き合わせちゃってごめんね。」
諦めたような声でそう言った。
スポーツ施設を出て外をゆっくりと歩く。
「……ねぇ。陽咲。」
私は立ち止まって話しかける。
「また、さ。こうやって、遊ぼうよ。私、こうやって遊ぶ経験ってなかったからさ。すっごく楽しかった。」
「……いいの?」
「うん!」
陰りのあった顔が、パァっと花が咲くみたいに明るくなった。
「ありがとう!」
その声は本当に嬉しそうで、明るくて。
こっちが恥ずかしくなるくらい。
「それで陽咲?この後はどうするの?」
「この後はね──。」




