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怪盗×魔法少女  作者: 金屋周
第3章 月輪教団
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第20話:バイヤー

土曜日──深夜。


「着いたら教えてください。システムを落とすので。」


「分かってるって。いってきます。」


栞里に見送られ、全身を黒い服で包み、露出を限界まで抑えた格好で家を出る。


普段の仕事であれば【怪盗ツインテール】として行うが、今夜の仕事は別件として扱うため、普通の泥棒のような格好となっている。


少し歩いたところ──表通りには出ない辺り──そこに停めてある黒い車に近づく。


念の為、周囲を見渡して人目がないことを確認してから、運転席の窓を4回ノックする。


少しだけ窓が開き「乗りな。」と声がした。


リアドアを開けて素早く乗り込む。


「いやぁ~夕桔ちゃん、来てくれてありがと。今日もよろしく頼むよ。」


「はい。よろしくお願いします。(もみじ)さん。」


ハンドルを握るウルフカットの女性──椛さんに挨拶する。


「んじゃ、出発するよ。」


車がゆっくりと動き出す。


「悪いね、いつも依頼しちゃって。」


「気にしないでください。私も稼ぐ機会なので。」


「そっかそっか。なら良かった。金稼ぐのは大切だもんなぁ。なっはっは!」


深夜の静寂に包まれた車内に椛さんの豪快な笑い声が響く。


「てかさ、夕桔ちゃん。この噂知ってる?あ、仕事前に言わない方がいいか。」


「前フリするなら言ってくださいよ。」


そこで止められたら気になってしょうがない。


「なっはっは!そりゃそうだ!最近の話なんだけどさ、都市部を中心に活動しているとされる殺し屋の噂。知ってる?」


「いえ。知らないです。どんな噂なんですか?」


「それがさぁ。よく分かんないんだって。手口から同一人物だって話だけど、誰も心当たりがないらしくってさ。」


「組織の人じゃないってことですか?」


そもそも私は殺し屋業界に疎いから、どこぞの名前を出されても分からないと思うけど。


「多分ね。まっ、素性隠してるだけってことも考えられるから、何とも言えないんだけどさ。」


「そうなんですね。」と私は相槌を打つ。


……ん?


今、この話をしたってことは……?


私の予想通りのことを椛さんは語る。


「だから気を付けなよ。ばったり出くわすかもしんないからさ。」


「あぁ……それでさっき、言うか迷ってたんですね。」


「そうそう。あ、そろそろ着くよ。」


ゆっくりと停車する。


「んじゃ、あたしはここで待ってるから。頼んだよ、夕桔ちゃん。」


「いってきます。」


降りて目的地へと足早に向かう。


しっかし椛さん、なんで仕事前にあんな話するんだか。


いや、言わせたのは私なんだけど。


まぁでも、今日のこの時間のこの場所で遭遇するとか、そんな偶然が重なることなんてないか。それに私は魔法少女に変身できる。いざって時は、この力を使えば何とかなるだろう。


「着いたよ。」


通信機で栞里に連絡する。


『これより30分、警備システムを落とします。迅速に。』


「了解。」


都心部に構える小さめな宝石店。今日のターゲットはここだ。


椛さんは闇市のバイヤーだ。


宝石を主に取り扱っていて、こうしてたまに私に依頼がくる。


一度入った店は警戒が強くなるので、毎回新しい店に向かう。私が宝石を盗み、椛さんがそれを買い取ってばらして闇市に売り出すという流れだ。


従業員用の勝手口からピッキングして侵入する。


もっと大きな店舗だったら電子ロックにしていたり(その時も栞里が解除してくれるから実のところ関係ない)、警備員を雇ったりいるけれど、そうじゃない店を狙っているから楽勝だ。


スタッフルームの金庫に鍵が入っているのだろうけど、それを無視して表の方へ向かう。


宝石の入ったショーケースがズラリと並ぶ売り場に出る。


こういうショーケースには警報装置が取り付けられている。ガラスを割ったり無理に開けたりしたら警報音が鳴る仕組みだ。


ただ鳴るだけなのか、それとも警備会社に連絡がいくのかは分からないが、こういうのは作動させないに限る。


さて……。


鍵自体はシンプルだから、私のピッキング技術があれば突破できる。しかし、ものによっては開けるだけでも鳴る場合がある。


そういった類のものは専用のリモコンで解除する必要がある。


そこで栞里が闇市で買ったピッキング用リモコンの出番だ。詳しい仕組みは分からないけど、周波数を合わせて解除できるという代物だ。


それを使ってショーケースを安全に開け、中の宝石や貴金属を袋に入れていく。


指輪やネックレスのデザインが見事なのに、全てばらしてしまうのはちょっともったいない気もする。


……なんてね。


私の仕事はこれらを椛さんに卸すこと。その後の扱いについては気にしても仕方ない。


一通り盗んだことだし、そろそろ引き上げるか。


店を出て急いで椛さんの車へと向かう。


焦って町の監視カメラに映らないように注意しないと。


「お帰り。さ、出すよ。」


後部座席に乗り込み、さっさと出発して現場を離れる。


「お疲れ様、夕桔ちゃん。いつも通り、座席の下の箱に入れといて。これ鍵。」


「分かりました。」


椛さんから鍵を受け取って、シートベルトの差込口を押し込むとカチッと音がし、座席が持ち上がり下に隠されていた宝箱が現れた。


それを鍵で開け、今日の戦利品を袋ごと入れて閉じる。


「ねぇ夕桔ちゃん。この後って時間ある?」


座席を元に戻しているとそう聞かれた。


「まぁ……今日の仕事はこれだけですから。」


「そっかそっか。じゃあちょっくらドライブに付き合ってくれよ。あ、着替え用意してるから。」


「はぁ……。」


急にどうしたんだろう?


明日は……いや今日か。陽咲と遊びに行く予定があるけど、まぁ少しくらいならいいか。


「……着替えってこれしかないんですか?」


用意されていた服は肩やらへそやら出た黒を基調としたデザイン──いわゆるパンクファッションというやつだった。


「それしかないよ。」


ルームミラーから見える椛さんは真顔だった。


「椛さんのサイズじゃないですよね?なんでこんな服持ってるんですか?」


「夕桔ちゃんが着ている姿が見たいからだよ。」


声音が本気だ。


「……。」


いつまでも泥棒の恰好でいるわけにもいかないので、しぶしぶ着替える。


肩、腋、へそ、そしてミニスカートで脚。


これだけ露出しているとスースーする。


「……着替えましたよ。」


このセリフを聞いた瞬間に路肩に停車し始め、エンジンを切ると椛さんは振り向いた。


「かわいい!こういうの似合うと思ってたんだよ!あたしの見立て通り!なっはっは!!」


うるさい。


「写真撮っていい!?というか一旦、一旦外に出ようか!全身見せて!」


「落ち着いてください。」


豪快な人っていう認識だったけど、こんな人だったの?


結構ズボラというか、こういうことには無頓着な人だと思っていたけど、かわいい好きとは意外だ。ギャップというやつか。


「こんなにかわいいのに落ち着いていられるかってんだ!」


その時、窓をノックする音がした。


「あぁ!?誰だ邪魔すんのは!?……警察(サツ)じゃん。」


「えっ!?」


急に落ち着いた!


じゃなくて警察!?


着替え終わっているし、盗品は座席の下に隠してあるからそうそうバレないと思うけど、そもそも何で警察が?


何かしくじった?


「何すか?」


窓を開けて椛さんが対応を始めた。


「いや、なに、こんな何にもないところで停まってるから、どうしたのかなーって思って。お姉さん、何やってたの?」


「何って深夜のドライブっすよ。ストレス発散のね。で、今はちょっと休憩中。」


「そう……後ろの子は?」


後部座席の私に気付いてそう尋ねてくる。


「親戚の子。どういう子かは……まぁ服装通りっすよ。」


「あぁ……。」


どこか納得した様子で警察は頷いた。


不良って思われてそう。


こんな時間に外にいるんだから、不良には違いないだろうけど。


「そろそろ行こうと思うんすけど、行ってもいいすか?」


「そうだねー……一応、免許証見せてもらってもいい?」


「はいはい。どうぞ。」


免許証を見た警察の顔色が僅かに変わった。


「コレのことっすよね。日常的には問題ないんで。」


椛さんは自分の右脚を叩く。


コンコンとノック音が鳴る。


「若い時に事故でね。もういいすか?」


「あ、あぁ……協力ありがとう。近頃物騒だから気を付けてね。」


「はいはい。じゃ。」


窓を閉め、車を発進させる。


「椛さん……。」


「海、行こっか。」


「へ?」


半ば遮るようにそう言われ、素っ頓狂な声が出た。


「悩んでる時は海を見るのが一番なんだ。」


さっきの警察へのぶっきらぼうな喋り方について聞こうと思ったけど、椛さんは語り始める。


「景色も音も、全部が心地良い。心洗われること間違いなしだ。」


夜の海を見てリラックス出来るかはさておき、これは……。


「……分かった。」


わざとぶっきらぼうに返事をした。


それから椛さんはケーキを食べればストレスが吹っ飛ぶだの、運動すれば気分転換になるだの、そんな当たり障りのないことを喋り続けた。


「……おっ。自販機あんじゃん。」


近くに車を停めると財布を取り出した。


「悪いけどあたしの分も買ってきて。何でもいいから。」


「……はい。」


車から降りて、どんなものが売っているか眺める。


どんなの買えばいいんだろう?


コーヒー?炭酸?


……椛さんの好みって知らないや。


分からないから、緑茶を2つ買った。


車に戻ると、椛はスマホのライトでドアやミラーを照らしていた。


「買ってきてくれてサンキュー。問題なかったわ。」


「何してたんですか?」


問題ない、という言葉を聞いて私は普通に喋ることにした。


「盗聴器とか付けられてんじゃねーかって思ってたけど、そんなことなかったわ。あたしの気にしすぎだったみたいだ。なっはっは!」


「それでさっき、なんか普通のこと言ってたんですね。」


何かしらの意図があることは気付いていたけど、さっきの警察を警戒していたのか。


「そゆこと。このあたしがあんなしょーもないこと言うわけないだろー?」


車に乗り込み、ゆっくりと動き始める。


「ストレス発散したいなら、趣味でも食うことでも何でも好きなことに没頭すんのが一番!それ以外は全部捨てる勢いでな!」


「はぁ……?」


その感覚はよく分からない。


「そんじゃ、行こうか。」


「行くって、どこへですか?」


今日の仕事はもう終わったし、警察に遭遇したからてっきり今日はもう帰るのかと思っていた。


「どこへって、そりゃあ海だよ。」


「えっ……?」


さっきの話、本気で言ってたの?


ここから海って、結構距離ありそうなんだけど……。


「あの……私、明日……もう今日ですけど、予定があるので……。」


「大丈夫だいじょーぶ。若いんだから、徹夜くらい平気だって。それに……夕桔ちゃんのその姿、じっくり見れずに帰れますかってんだ!」


……こりゃあダメだ。

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