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怪盗×魔法少女  作者: 金屋周
第3章 月輪教団
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第22話:泣いている子

「お母さーん!ねえ!もう帰ろうよー!」


陽咲と一緒に駅前に戻ってくると、ほとんど泣き声といって差し支えない子供の叫びが聞こえてきた。


「なんだろ?」


あそこまで大きな声が聞こえたら、流石に気になって様子を見に行ってみる。


見ると小学校低学年くらいの女の子が叫んでいて、その傍にいる大人の女性が何か紙を通行人に配っていた。


「仕事なら子供、置いてくればいいのに……。」


陽咲の言うことは尤もだ。


チラシ配りか何かをやっているようだが、子供を連れてくる必要はない。特別な理由でもない限りは。


「……ちょっと見てくる。待ってて。」


「え?夕桔?」


驚く陽咲を置いて私は近づく。


別のシチュエーションなら私も無視していただろう。


だけど何というか、親が子供を理解してくれないというか、自分のことばかり考えているというか。


とにかく、そういう時の子供の辛さは理解できるから。


「あ!どうぞ!」


母親の女性は私が近づくのに気が付くと手に持つ紙を渡してきた。


チラシ……じゃない?


いや、分類上ではチラシなんだろうけど、スーパーとか商業施設のチラシではなかった。てっきりそういうものを配っていると思っていたのに。


月輪教団(がちりんきょうだん)……?」


「はい!あなたも何かお困りのことはありませんか?月輪教団に入団すれば【お月様】が救ってくださいますよ?」


「えっと……。」


予想外の内容に何て返事をすればいいか分からず固まってしまう。


「夕桔!」


左腕を掴まれて我に返る。


「陽咲……。」


「行こう。」


「うん……あっ。待って!」


屈んで泣き叫ぶ子供の目線に合わせる。


「ちょっとお話してもいいかな?」


「え……お姉ちゃんだれ?」


「魔法……正義の味方だよ。」


大人には冗談と思われるだろうけど、それでも魔法少女と名乗るのは憚られた。


「えっと……お子さんの面倒、少しの間私たちが見ますね!」


「え?ええ、はい。お願いしますね。……お願いしまーす!」


陽咲が強引に母親に伝え、それに返事したらすぐにチラシ配りを再開していた。


これは……ちょっと異常だ。


女の子を連れて近くにあったベンチへ移動する。


「何か飲み物、買ってくるね。」


「うん。お願い。」


陽咲にお願いして、女の子の顔を見る。


「私は夕桔。あなたの名前は?」


「澪……。」


「澪ちゃんか。よろしくね。」


「うん……。」


涙は止まったようだけれど、表情は暗いままだ。


母親がああなのだから無理もない。


さてと……。


「……どうしよっか?」


「ノープランだったの?はい、飲み物。」


そこへ戻ってきた陽咲が私と少女にりんごジュースを渡してきた。


「それ飲みながら、少し話せばいいんじゃない?」


「ありがとう。それじゃあ澪ちゃん、お母さんと何かあったのか教えてくれるかな?」


「うん。えっとね……。」


少女の話を聞きながら頭の中で組み立てて内容を整理する。


母親の様子が変わり始めたのは春頃。それまでは優しい母親だったそうだ。


「お家に知らないおじさんがきて、お手紙をお母さんにわたしたの。」


恐らくそれがこの月輪教団の勧誘だったのだろう。


大抵の人は相手にしないだろうし、丸く収めるために受け取るだけだろう。けれど、この少女の母親は本当に関心を持った。


父親が話に一切出てこないのは、ただ関係ないだけなのか。それとも、父親という存在自体が要因の1つなのか……。


「そしたら、お母さん、お出かけする日がふえてきて……。」


「ガチ目にハマってんじゃん……。」


陽咲がボソッとそう言った。


その通りだ。そういう人には外野が何を言っても聞き入れてもらえない可能性が高い。実際、娘が泣き叫んでも宗教活動を優先したいるのだから、私たちが口出しした程度では何も変わらないだろう。


「どうするの夕桔?私たちに出来ることなんて何もないよ?」


陽咲は気を遣って小さい声で私にそう告げたが、少女には聞こえてしまったようで、また涙ぐんでしまった。


「あ、え、えっと、大丈夫だよ!お姉ちゃんたちがなんとかするからねー!」


慌てて宥める陽咲。カラオケで聞いた高めの声音だ。


「そうそう。私、魔法少女と友達だから頼んでみるよ。」


「ホント!?」


一転してキラキラした目を見せる少女。


「ホントホント。だから澪ちゃん、安心して大丈夫だよ。ほら、そろそろお母さんのところに戻ろうか。」


「うん!」


私に心を許したのか、手をつないで母親のところへと戻る。


いつの間にかチラシ配りの手伝いに応援が来たらしく、2人体制になっていた。これなら子供の面倒を見る余裕も生まれるだろうし丁度いい。


「それではお母さん、私たちはこれで失礼します。澪ちゃん、寂しがっていたので、あまり悲しませないようにしてくださいね。」


「お姉ちゃんたち!またねー!」


手を振って別れ、私たちは駅構内へ入る。


「良かったの?安請け合い……というか、無理な約束しちゃって?」


「う~ん……それはまぁそうなんだけど。」


友達にいるというのはあながち嘘では……いやヒスイは別に友達ではないな。


「ほっとけなかったというか……。」


あの澪という少女に共感してしまったのだ。


重ね合わせたのは栞里?それとも……私自身?


「まぁちょっと調べてみるよ。もしかしたら本当に悪の組織的な存在かもしれないし。」


誤魔化すにしては楽観的すぎるが、こういう言い方をするほかない。


「見方によっては悪だけど……商売の邪魔とかって言ってるの聞いたことあるし……でも学生に出来ることなんて限られてるよ。本当に魔法少女に頼めるなら別だけどさ。」


「そこは冗談だから流して……。」


本気で信じていないのは確かだが、何とも心臓に悪い。


陽咲とはそこで別れた。


本当は他にも行く予定があったのだが、この一件で思ったよりも時間を使ったので、今日は解散という流れになった。


電車に乗ってぼんやりと景色を眺めながら考える。


この件、どこまで介入すべきか。


学生の二ツ森夕桔としてなら、陽咲の言う通りやれることなんて殆ど何もない。


だけど……。


私の裏の顔としてなら、いくらでもやりようはある。


「……よし。」


電車を降り、決断する。


放っておけないと思ったのは事実だ。そして乗り掛かった舟だ。


やってやりますか!





「栞里!調べてほしいことがあるんだけど!」


「うわっ。急になんですか?というか予定よりも早くないですか?」


「ただいま!早く帰ってきたのには理由があります!」


帰宅した私は栞里の元へと直行した。


「──月輪教団について調べてほしい、ですか。」


私は大きく頷く。


「仕事でもないのに、どうして急に?」


「困ってる……ううん。泣いている子がいたんだ。私は、その子を助けたい。」


「そんな理由で…………いえ。そういえば、夕桔はそういう人でしたね。」


どこか懐かしむような表情を浮かべる栞里。


そしてすぐに真面目な顔つきに変わる。


「分かりました。金にならないことは極力やりたくないですが、今回は手を貸します。」


「ありがとー!花時丸ちゃん!」


「邪魔なので引っ付かないでください!」


怒られた私は椅子を持ってきて、キーボードを叩く栞里の隣に座って大人しくしていることにした。


「月輪教団……今から20年ほど前に設立された新興宗教団体。当初は非常に小さな組織だったみたいですね。」


普通に調べただけでは出てこない、裏社会用のネットから情報を仕入れていく。


「設立から約5年後、一気に拡大してますね。この【お月様】というのが影響してそうですが……。」


【お月様】……そういえば、あの母親もそんなことを口にしていた。


「それがその神様的な存在ってこと?」


「御神体というヤツですね。そういうのって普通、最初にあるというか、その特別な存在を特別扱いするところから始まると思うので……順序が逆なんですよね。」


「じゃあ、また別の何かってことか……その【お月様】の情報はないの?」


「多分、ない……ですね。」


色々なところを調べてくれているが、それらしい情報は出てこないようだった。


「そもそも、このネットワークは裏社会用なので。元月輪教団の関係者で、このネットワークを知っていて、その情報を書き込む存在なんて確率的には相当ですから。」


栞里はモニターから目を離して私の方を見てきた。


「これ以上詳しくというのなら【情報屋】に頼むことになりますけど、どうするんですか?当然、依頼するなら金がかかりますけど。」


「うーん……多分、大丈夫だと思うんだよね。私と海遥は友達だからね!」


「はぁ!?タダでやるわけないでしょ!アホか!」


【情報屋】である海遥に電話して依頼内容を話したら怒鳴られた。


「いいじゃん!それかせめて友達料金!」


「んなもんないわ!誰が依頼しようと料金は変わらないのよ!技術料を軽んじるな!」


なんか怒り方に私情が入ってそう。


「というか、電話は極力避けるように伝えてるわよね?」


「こういうのは熱意が大切だからね。」


「要らないわよ、そんなの。」


心底呆れた声でそう言われた。


「そもそも、そんなこと知ってどうする気?潰すの?」


物騒すぎる。


「そんなんじゃないよ。ただ、私に出来ることが何かないかなって思ってるだけ。」


「あっそ。殊勝な心がけね。」


「いいじゃん、別に。私だって仕事以外で動くことあるんだから。」


「言いたいことはそれで全部かしら?もうないなら切るわよ。」


「待ってまって!ちゃんと依頼するから!」


本当に通話を切られそうな気がしたので慌てて止める。


「どうも。それじゃ、空いている日を教えてくれるかしら?渡したいものがあるのよ。」


「え……?」


渡したいもの?

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