80)月の狼
「じゃあまた、今夜!」
ポロンポ商会の仕入れや出航準備が整うのが2日後とのことだったので、今日の夕飯は顔合わせを兼ねてポロンポ商会の面々と共にし、明日の夜はエルトラと飯。そうして明後日はいよいよ出航となった。
ポロンポと別れたクロト達は港を冷やかしたのち、街の屋台で食べ歩きをしたり、貸し竿屋で竿を借り、のんびりと釣りを楽しんだりした。
一応、先々でエルフの里のウワサを聞いたことがないか確認したが、収穫はゼロ。
やはり王国内で情報を集めるのは難しそうな感触だった。
夜、ポロンポ達を招いたのは、城内でも要人と外部の人間が同席できるようになっているゲストルームだ。
ゲラント達と会食をしたVIPルームよりも庶民的とは言え、流石に調度品などは一流のものが取り揃えられており、招かれたポロンポ達は目を丸くしていた。
「いやぁ、こんなところにお呼ばれされるだけでも、この商談を成立させた甲斐がありましたよ!」
ポロンポは上機嫌で腹を揺らす。
「街中でもよかったのですが、たまたまフレアちゃんも大丈夫なお店で大人数で予約できるところがなかったので、ご足労いただいてすみません」アメリアが詫びる。
流石に2日連続で留守番は可哀想だからな。
「いや、とんでもない。しかし本当にお姫様でいらっしゃたんですなぁ」
昼のうちにいつものやりとりで、殊更へりくだった対応はしないで欲しい旨伝えてはいるが、ポロンポはともかく他の乗組員は若干雰囲気にのまれ気味。
「格調高いからって気にしなくていいぞ。俺なんかもその辺の村人だからな。こんなもの慣れだ、慣れ」
クロトがマイペースにテーブルに着く。堂々としたその姿たるや自分の家のようだ。
その姿を見て、ポロンポ商会の面々もおずおずとだが席につき始めた。
それぞれに飲み物が配られ、改めてそれぞれ自己紹介。
ポロンポ商会の船乗りは、ポロンポを含めて全部で10人。
主にウールール族だが、中にはゴリアテ族(ゴリラ型獣人)のパックや、カプリコ族(鹿型獣人)のピエールという他種族もいる。珍しいところでは飛行能力もあるイグルー族(ワシ型獣人)の船乗りも一人。
中でも「私が対応できないときに困ったことがあったら、この2人のいずれかに言ってください」と紹介されたのが、先ほどのピエールと、ウールールの中でも毛色が黒いのが特徴的なペリントだ。ペリントはこの船の副船長と紹介された。
食事が始まり酒が入るとポロンポ商会の面々も徐々に緊張がほぐれ、時折、船乗りらしい豪快さが顔を見せるようになる。
「ところで、聞いていませんでしたが、皆さんはどのような御用で諸島へ?」
「主な用事が1つと、個人的にはついでの用事が1つかな」
「個人的な用事?」
クロトの答えにポロンポのみならず、隣に座っていたアメリアが首をかしげる。
「あれ? そう言えばみんなにも言ってなかったっけ? 別に無理してまで行こうと思ってなかったから言うの忘れてたな。ほら、俺の婆ちゃんの故郷、一回見て見たいなと思って」
「それ結構大切な理由じゃないですか。ついでじゃなくてちゃんと行きましょう」
アメリアを始め全員が行くべきと言った。
「ところで、クロトさんのおばあ様というと、、、?」
と、ポロンポにクロトが亜人であることなどを説明する。
「そうだったんですかー。てっきり人族の方かと思いましたが、親近感湧きますわ。それで、なんという種族です?」
「えーっと、ムーンウルフだったかな」
クロトが言った瞬間、先ほどまで騒がしかった商会の面々がピタリと固まる。
「あれ? なんかまずかった?」
「い、いやぁ。まずいことはないのですが、本当ですか? 聞き間違いではなく?」
「本当だが? 聞き間違いではないぞ」
「なんというか、驚きました」
ポロンポが汗を拭きながら
「いや、とにかくムーンウルフで悪いことは何もないのですよ。ただちょっと驚きましたわ」
驚きましたと2度も繰り返しながら、ポロンポが理由を説明し始めた。
獣人諸島連合は多種多様な獣人達が様々な島で暮らしているが、かつては種族間の諍いが絶えなかった。
争いの中で次第に強者の庇護下へと徐々にまとまり始め、最終的に多くの種族が「獅子王」「鳳王」「白虎王」のいずれかの傘下となり、現在の均衡が保たれている。
「獣人の方は人、魔族の両方と上手く共存しておられるので、穏やかな平和主義かと思っていましたが、、」
アメリアやシーラが意外そうな顔をする。
「いやー全然。表立ってませんが単に内輪の争いが多くて、外と争う余裕も余力も無かったから、とにかく友好的にしていただけですわ」
ポロンポが苦笑しながら続ける。
さて、多くの種族が3王の元に降ったが、僅かながら独立独歩の姿勢を崩さない種族も存在した。
3王とも対等に付き合い、揉め事があっても自分たちの力で解決するだけの実力を持った少数精鋭の種族達だ。
「そのうちの1つが“ムーンウルフ族”。戦闘能力は諸島でも五指に入るとされる超戦闘種族です。もっとも、火の粉をかけられない限り、ムーンウルフから攻撃するということはほぼありません」
「攻撃しなければ何もしてこない。そういう意味では穏やかな種族なのですが、みんな子供の頃は、寝物語としてムーンウルフを怒らせた話というのを聞かされてきたので、本能的な部分で恐怖心があるというか。。。」
「どんな話なのだ?」物語と聞いてアーヴァントのモノクルがキラーんと光る。
食事中に話すような物語ではないですよ? とポロンポが拒否したが、気になったことはすぐにでも知りたいお年頃のアーヴァント。エル・ポーロはみんな多少のスプラッタなら平気で美味しく食事を続ける面々ばかりだ!
「食欲無くなっても知りませんよ」とポロンポが渋々話し始める。
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ーーーかつて、ある悪しき種族が諸島連合の統一を狙い、自分たち以外の種族は奴隷のように扱って、各地の島々を蹂躙して行きました。
彼らはとても強い種族だったので、戦わず諦めてしまう種族も多くいました。
次々と飲み込まれる島々。そんな中、悪しき種族が次に狙ったのがムーンウルフの住む島です。
しかし、ムーンウルフを攻めたその夜、不思議なことがおきました。星は見えるのに、月が消えてしまったのです。
人々は恐ろしいことが起こるのではと震えながら夜を過ごしました。
月が消えた翌朝、いつもなら悪しき種族が奴隷となった種族の元にやってきて色々と命令をするのですが、その日に限って誰もやってきません。
次の日も、その次の日も。
不思議に思ったある種族が本島に行ってみると、、、
「行ってみると?」
そこには惨憺たる状況が広がっていました。
悪しき種族は全て殺され、見るも無残な姿に。
ほとんどが肉塊となっており、原型の残っている者の方が少なかったそうです。
その島には、悪しき種族ではなかったけれど、悪しき種族に取り入っていた者もいて、その数人だけが辛うじて生き残っていました。
全員四肢は折られ、恐怖でおかしくなっている者もいました。
何かあったか聞くと、震えながらも話し始めました。
ポロンポが一旦話を切り、全員を見渡して、再びゆっくりと話し始める。
ムーンウルフは攻められた日の夜、悪しき種族の本島を奇襲。
瞬く間にその種族の主だったものを屠り、島は大混乱。
特に悪しき種族の王は身体をバラバラにされて、見せしめのように王の館の門柱に飾られたそうです。
恐怖で降参を願い出るものもいましたが、一切の容赦はなし。
はっきりと、狩るものと狩られるものに分かれた、一方的な蹂躙だったそう。
悪しき種族は一夜にして壊滅。生き残りも執拗に探し出され、島内を無事に出ることができた者は一人としていなかったそうです。
そして残された悪しき種族以外のものを並べ、「お前は、俺たちの敵か?」と聞いて回り、否定しなかった者はそこで終わり。
否定した者は四肢を折られて打ち捨てらました。
みんな悪しき種族に天罰が当たったのだと、口々に噂しあったそうです。
月が消えた日はムーンウルフが怒っているよ。悪いことをしている者は、扉を閉めて反省なさいーーー
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、、、、、こっわ! ばあちゃんの種族こっわ!
「この話は悪いことをすると天罰が下るよ。という戒めのお話として、獣人の子供なら少なくとも一度は聞かされると思うのですが、いかんせんムーンウルフの印象が強すぎてですね。。。」
「なるほど、興味深い話だな」言いながら美味しそうにスープを飲むアーヴァント。
「面白かったね!」とジュリアが海鮮の串焼きをほおばりながら同意する。
「面白かったですかね、、、」みんな普通に食事を続けているので、ちょっと引いてるポロンポ。
「それじゃあ、ムーンウルフの島に行くのは嫌か?」
クロトが聞くと
「いやいや、先ほどの話の通り、こちらが敵意を持って接しなければ物静かな種族と聞きます。あまり商売で立ち寄ることは少ない島ですが、私もいつかは一度行って見たいと思ってましたから、これで腹が決まりましたよ」と笑った。
その後ジュリアがエルフの亜人で、エルフの里を探していると伝えると、商会の面々はさっきよりももっと驚いていた。
エルフの里のことは、噂程度に諸島にあると聞いたことがあるくらいで、残念ながら具体的な話は知らないと。
そんなこんなでポロンポたちとの顔合わせは、エル・ポーロ、ちょっとヤバい奴らかもとクルーに思わせつつ終了するのだった。
翌日、夕食をご馳走になりつつエルトラの人達とも別れの挨拶をすませ、なかなかに騒がしかったバルゲドの日々は、ようやく終わりを告げようとしていた。
いつも読んでいただきありがとうございます。マルメ編(連合議会編)終了です。次回から新章となります。引き続きお楽しみいただけると嬉しいです。ちなみに108話まで予約完了。今の所少なくとも4月1日までは連続更新します。




