79)港を巡ろう!
「おい! そっちじゃねえよ! 間違えるな!」
「誰か手伝ってくれ!」
クロト達はガタイの良い男達の怒声に近い声が飛び交う合間を縫うように歩いていた。
「街の中とはまた違った活気だな」クロトが興味深そうにキョロキョロする。
「船乗りさんにしたら職場ですものね」隣にいるアメリアが答える。
先頭はクロトとアメリア。次にジュリアとアーヴァント、そしてフレア。最後に警戒も兼ねてシーラが続く。
倉庫街を抜けると、急に視界がひらけて多くの船が停泊する船着場が現れる。
流石に小型の船の姿はなく、中型から大型の船が並んでいる。
「壮観だな」
「そうですね」
「わぁー!」っと走り出すジュリアを、「おい、一人で行くんじゃない、危ないぞ」と言いながらシーラが追いかける。
猫だからか、炎属性だからなのか、水を好まないフレアは一番海に近づかなさそうなアーヴァントの肩に飛び乗って安全を確保している。
「これが毎日港を出たり入ったりして、たくさんの荷物が来るのを考えるとちょっと不思議だ」
「前から思っていましたが、クロトさんって結構、感受性豊かですよね」
「そうか?」
「はい」
ふふっと笑いながらクロトを見るアメリア。
「ああ、あれが港の事務所だな。ちょっと手頃な船がないか聞いて来る。クロト達はシーラを呼んで来てくれ」
アーヴァントがフレアを乗せたまま事務所へと向かうのを見送って、2人はジュリアを追いかけて行ったシーラを探しに向かうのだった。
「あれ?」
シーラはすぐに見つかったが、何やら船乗りらしき獣人と言い争っている?
「どうしたんだ?」2人が近づくと羊タイプの獣人の方が相好を崩す。
「ああ! やっぱり貴方がたですよね、エル・ポーロというパーティは! 今この街に来ているって話題になってましたよ! ねぇ、海に出るなら私の船に乗りませんか!?」
どう言うことかシーラに視線を移すと
「先ほどからこの剣幕でな。どうしたものかと思っていたのだ」
「いやぁ、エル・ポーロの話は諸島にも伝わって来ていますよ! あのアーミーアントを撃退した英雄って。そんで連合議会で来てるって噂を聞いていたから、一度会ってみたいなあと思っていたんですよ。そしたら、そこの嬢ちゃんと騎士さんが海に出る話をしていたので、なんとなく聞き耳立ててたら、こいつはもしかしてエル・ポーロの人たちじゃないかって、声かけてみたんです!」
男はウールール族のポロンポと名乗り、握手を求めてくる。
とりあえずこちらも自己紹介をして、まずは落ち着いて話を聞こうと言うことになり、港の関係者が利用するための茶屋へ。
シーラがアーヴァントを呼んで来るのを待っている間に、クロトが聞く。
「えっと、ポロンポだったよな。俺たちロック島に行こうと思っているが、ポロンポはどこから来たんだ?」
「私はザウベルの近く、獅子王様の傘下の島です。でも安心してください、ロック島に行きたいってんなら、連れて行きますとも!」
「そうか。しかし、連れてってやるからって、、、仕事どうするんだ?」
「? ああ、私は船主から雇われてるんじゃないのですわ。ポロンポ商会の頭が私、ポロンポです」
自ら商会を率いているらしい。最も、全員合わせても10人程度の小さな商会で、仕入れたものを次の港で売り、あっちこっちを渡り歩く営業スタイルなのだそう。
「だから、バルゲドで仕入れたものをロックで売るだけなので、なんのことはないんですわ」
そんな話をしているとシーラがアーヴァントを連れて来た。
全員揃ったことを確認してからアメリアが口を開く。
「あの、こんなことを聞くのは失礼かもしれませんが、いくら私たちをご存知だからと言って、突然の申し出はなにか裏があるのかと少し警戒してしまいます。また、逆に私たちの人となりを確認せずに乗船させてしまって良いのですか? もしかしたら噂とは違って、とんだ無法者かもしれませんよ」
するとポロンポは気を悪くするでもなく、豪快に笑って
「無法者は自分からそんなこと言いやしないでしょう! それに、実は理由はあるんですよ。私たちは売り出し中のまだ小さな商会。取引先を増やすに当たって”箔”が欲しい」
「ああ、そう言うことですか」
納得顔のアメリア。さすが、話が早いですなとまた笑うポロンポ。
「つまり”あの有名なパーティ”を乗せたって言う実績で信用度を上げようって事であってるか? 自分で”有名”とか言うのもなんだが、、、っつーか、そもそもそんなに有名じゃないと思うぞ、俺たち」
「そう言う事です! あなた方が活躍するほど、それを乗せた私たちの信頼度も上がる。話のとっかかりにも使えますし。あと、あなた方は自分達が思っている以上に有名ですぞ」
「でもそれなら俺たちが悪さをしたら、あんたらの商会の評判も落ちるんじゃないか?」
「いや、その時は黙っていればいいだけです。知っている相手には「ひどい目にあった」って事で、また話題のネタになるので、損はありません」
なるほど、なかなか商魂たくましい。
ポロンポは「それに」と続ける。
「こうして実際に会って確信しましたよ。これはなにか大きな事をしそうな人達だって。これでも少しは商人としては知られた身。人を見る目には自信があるんですよ」
「しかし、一度船に乗せたなんて程度で”箔”とは言えないのでは?」
アーヴァントがモノクルのズレを直しながら聞く。
「そう! そこなんです! さっきそこのお嬢ちゃんと騎士さんが『色々な島を回ることになるかも』って話していたのを聞きましてね。諸島の移動を一手に任せてもらえないかと!」
「ちなみに料金は?」
シーラがまずはそこからとばかり切り出す。自然とパーティのお財布係に収まったしっかり者である。
「そうですね、どのみちいろんな港を巡って取引をするのが私の商会です。利益が出る港間の移動なら、食料などの実費だけで構いませんよ。港もないような島に行くなら、実費と相場の7割でどうでしょうか。残り3割が宣伝費、皆様が大陸に戻って諸島の話をすることがあったら、ポロンポ商会の船で移動したって言ってくれるだけで構いません」
「悪くはない条件だと思うが、皆はどうだ?」お財布係が承認。他のメンバーの意見を求める。
「いいけど、その前に、、、」クロトは海の方を眺めながら言う。
「その前に?」ポロンポが乗り出してくる。
「いや、ポロンポの船、見せてくんない?」
クロトの言葉を聞いて、全員が「そう言えば」となった。
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茶屋から出て、少し歩く。ポロンポの船は端の方にあるとのこと。
「まだ新参にはいい場所はもらえんのですわ」
停泊場所は明確に決まっているわけではないが、大手や古参は入り口に近い方、新参は端の方という暗黙のルールがある。
「お、見えてきた見えてきた、あれです」
そこにあったのは、大きくはないが作りはしっかりした帆船。船首には羊のモニュメントが設置されている。
「造船してそれほど経ってないので、船内も綺麗ですよ」
さ、とポロンポが率先して船に乗り込み、クロト達もそれに続く。
船内では何人かの獣人がデッキを掃除していた。
「あれ? タイショー? どうしたんです? そちらの方は?」
デッキをこすっていた獣人の一人が聞いてきて、ポロンポが事情を説明している。
係留されていても、ゆっくりと揺れる足元。それでも分厚い縁が安心感を与えてくれる。
「どうでしょうクロトさん、、、って。聞くまでもないみたいですね」
アメリアが見たのは子供みたいに目をキラキラさせたクロトの横顔。
アメリアがシーラに目配せし、頷いたシーラは苦笑しつつも、ポロンポへ契約の話をするために歩き出すのだった。




