81)朝陽
新章、諸島編の開幕です
幸いなことに風もない穏やかな天気。出港日和だ。
出航を待つエル・ポーロを見送るため、わざわざクート、ザーバル、ロッセン大使のヘラルに、ファウザ大使、さらにはここ数日お世話になった執事さんも見送りに来てくれた。
「何かあればすぐに手紙を寄越してください。あまりおかしなことに首を突っ込まないように気をつけて」
ヘラルとしては孫を見送る祖父の気分なんだろうな。
「必ずエルトラにもくるのじゃぞ!」
クートとは再会を約束し、がっちりと握手をかわす。
執事さんはフレアを名残惜しそうに撫でていた。
「準備ができましたよぉ!」
ポロンポの掛け声で乗船を始める。
「それじゃあ! また!」
手を振る皆に見送られて、船はゆっくりと出港した。
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船は初めての者が多いと伝えていたので、ポロンポが事前に酔い止めの薬を用意してくれていた。やたらに酸っぱい薬だったが、おかげで思ったほど船酔いになる者はいなかった。アーヴァントを除いて。
というのもアーヴァント「ちょっと調べたい物があるから少しだけ」と書物を開き始め、「酔いますよ?」というピエールの心配する声も聞かなかった結果、見事に酔った。
すでに船室でダウンしており、腹の上ではフレアが寝ている。
ちなみにフレアの横では、ポロンポ商会の船猫“ラック君”が同じく丸くなっていた。
忍び込んだネズミを取ってくれる猫は船上では歓迎されるそうで、フレアもすんなりとクルーに可愛がられている。ラック君とも仲良くやっているようで何よりだ。
、、、多分猫じゃないけど。
「どうですか? 海は」
クルーの一人、カプリコ族のピエールが声をかけてくる。
「日差しは強いが、空が高くて気持ちいい!」
「でしょう!」クロトの答えに満足げに返すピエール。
「しかし、穏やかすぎなので到着予定は遅れそうですね。。。」
ぴょこんと跳ねた耳を気持ち下げながらピエールが首を振る。
バルゲドからロック島までは、順調に行って大体丸3日かかる。
あるポイントまで進めば潮流に乗れて楽になるのだが、そのポイントに到着するまでは風の影響も大きく受ける。
今日は穏やかすぎるくらい穏やかなので、ピエール曰くこのままのペースだと到着は4日目の昼頃になるかもとのこと。
「あっ! 大きなお魚? が一緒に泳いでる!」
ジュリアの声に水面を覗くと、大型の動物が船と並走して泳いでいる。
「キュイッキュだ! 実物を見ることができるなんて!」シーラが感動している。
「ああ、確かにキュイッキュですねー。賢い動物でこうやって船と遊んだりするんですよ」
ちょっと待っていてくださいとピエールが船室へと入ると、魚を一匹持ってやってきた。
「これ、キュイッキュの少し向こうに投げてみてください」
ピエールはジュリアに渡そうとするが、シーラが羨ましそうな目をしているのを見て
「ボクじゃ上手く投げられないかもしれないから、シーラお姉ちゃんお願い!」と大人の対応。
シーラは最初、せっかくの機会を奪うのは申し訳ないと遠慮していたが、ジュリアに懇願され嬉しそうに魚を受け取る。
「じゃあ投げるぞ、さーん、にーい、いちっ!」
投げ込まれた魚が空中にあるうちに、キュイッキュが水面から飛び上がり上手にキャッチ!
歓声をあげるエル・ポーロの面々。
その後、キュイッキュはお礼とでも言わんばかりに2度、3度と水面を跳ねてから、船から離れて行った。
感無量といった表情のシーラ。
そんなこんなで飽きることなくはしゃぎ、気がつけば陽が沈み始める時間となっていた。
「そろそろ夕飯ですよ」ピエールに呼ばれ船室へと戻る。
食堂には7名のクルーとアーヴァントの姿が。
「おはようございます」と挨拶するのは副船長のペリントだ。食堂にいるクルーのうちペリントを含む4人は夜勤組。昼前には仮眠に入り、今しがた起きて夕食ならぬ朝食。食べ終わったら、航行作業にあたっているクルーと交代するのだとか。
夕食はシンプルに肉の塩焼き。魚じゃないのが意外だったが、これはこれでうまし。
アーヴァントはスープとサラダだけ頂いていた。
「なるほど、船酔いとはこれほどのものか、、、実体験に勝るものはない」
などと、力なくいって再び横になるため寝室へ。夕食を終えたクロトたちも寝室へ向かう。
寝室には最大10名が休息できるように、5つのハンモックと5つの据付ベッドがあった。
ベッドは睡眠中に落っこちないように固定用のロープが据えられている。
ピエールよりどちらを使ってもらっても構わないと言われたので、4人はハンモックを選択。アーヴァントのみ据付ベッドでダウンしている。
ハンモックに揺られながら、就寝組のクルーたちと取り留めのない話をしていたが、一人、また一人と静かになっていった。
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ギイ、ギイ
波の音と、船が波に押される音以外聞こえないような静寂の中、クロトは目を覚ます。
他の者が寝静まっているところを見ると、随分と早い時間に目が覚めてしまったみたいだ。
寝ている人達を起こさないように慎重にハンモックから降りると寝室を出る。
物音に気付いたペリントが操舵室からひょっこり顔を出した。
「おや? クロトさん。おはようございます。早いですね」
「ああ、おはよう。目が冴えちゃってな。邪魔しないようにするよ。なんなら、なんか手伝おうか?」
「いえ、お気遣いなく。特に問題なく航行中ですから。それよりもいい時間に起きましたね。もうすぐ陽が昇る時間ですよ。海の上からはまた違った日の出が見られますので、よければ甲板へどうぞ」
ペリントにお礼を言って甲板へ出る。暑い盛りとはいえ、早朝は心地よい冷たさが体を包む。
海を見ると、遠くの方が黒から濃い青へと変わっていく頃だった。
と、背後で扉が開く音がした。ペリントが出てきたのかと思い振り向くと、そこにいたのはアメリア。
「おはようございます」
「おはよう。起こしちゃったか?」
「いえ、実はクロトさんが起きるよりも先に目が覚めてしまっていて、ぼんやりハンモックに揺られていたのですが、クロトさんが出ていかれたのを見たので」
「そうか。これから日の出らしいぞ。一緒に見よう」
「はい」
嬉しそうにクロトの横に寄ってきて、2人で水平線を見つめる。
「、、、クロトさんと出会ってから、本当にいろんなことが起きますね。王宮内の状況が良くなかった半年前には、こんな風に船の上で日の出を待つ事になるなんて想像もできませんでした」
「半分くらいロクでもないトラブルだけどな」クロトが苦笑する。
「それでも、クロトさんや皆さんがいれば、なんて事ないように思えるから不思議です」
「そうだな。アメリア達と旅に出られて良かったよ」
「本当ですか? そう言ってもらえると嬉しいです」
そんな会話をしていると、太陽が水平線に「すっ」と金色の線を引き、急に世界が輝き始める。
先ほどまでは暗くてわからなかったが、光に照らされいくつかの島の影も浮かび上がった。
「綺麗。。。」
アメリアが呟く。
2人だけで独占するには勿体無いような、でも、みんなを起こすのも躊躇われるような。
そんな、ほんのひと時の奇跡のような時間を、2人は黙って見つめるのだった。




