23)西の砦のガーヴォ
トナンの村を出たあとは、宿屋で酔っ払いに絡まれてシーラがぶっ飛ばしたり、途中でジャイアントベアに遭遇してクロトがぶっ飛ばしたりした以外、クロト達はそれほど大きなトラブルもなく順調に進んだ。
「ジャイアントベアに遭遇したのは大したトラブルなのだがな。。」
かれこれ10日以上顔つき合わせているので、シーラのツッコミにも慣れたものだ。
「もう少ししたら西の砦です。魔族領に入るのに、砦で出国届けを発行してもらう必要があります。今日は砦で一泊し、明日、キロル鉱山へ向かいましょう」アメリアが馬を寄せて伝えにくる。
「了解。そんな手続き必要だったんだな」
「そうですよ。小康状態とはいえ、お互いに誰でも出入りできるわけではありません。必ずどこかの国の出国証を見せませんと」
「なるほど、それじゃあ俺が一人で旅していた時に、直接魔族領に行っても追い返されただけかな?」
「うーん、そこが微妙なところなのですよね。クロトさんの場合おじいさまが魔族ですので、そのツテを辿れば或いは。ただ見た目が魔族っぽくないので、信じてもらえるかどうかと言ったところでしょうか。ちなみに、おじいさまから紹介状などは?」
「親しい友人の住んでいる街の位置と、その人宛の簡単な手紙は持ってるんだけど、じいさんもそういうとこ疎いんだよな。そもそもばあちゃんと結婚するために、魔族領、ほぼ強行突破したみたいだし」
「それは、実にクロトさんのおじい様らしいといいますか、ですね」
ん? どういう意味かな? 俺は常識人ですよ?
「クロト、アメリア。見えてきたぞ」
先を走っていたシーラが声をかける。その先には大きな街。いや、砦なのかあれ。
周囲をぐるりと高い壁が囲ってはいるが、その向こうには時計塔の先などが見える。ここまで巡った町の中でも王都の次に大きい。
もっと砦っぽいものを想像していたのだが、意外だった。
「そうですね。魔族領との最前線ですが、同時に魔族や鉱山などの交易の窓口ですので」
次第に大きくなってくる西の砦。
「前回は結局、ここにたどり着けませんでしたから。そう考えると感慨深いものがありますね」
ポツリとアメリアが呟いた。
頑丈そうな門の前には、何人かが入国審査を受けていた。魔族領や鉱山から来たのだろう。
中には明らかに魔族の一団、商隊だろうか? の姿も見えた。
「私たちはこっちです」
アメリアに呼ばれるがまま、正門から少し離れた小さな門に向かう。
出窓にいる兵に名前を告げると、少し待たされてから大柄な老騎士がやってきた。
「おお、アメリア様。お待ちしていました。来ないかと思いましたぞ!」
「ガーヴォ様、お久しぶりです。すみません、少々寄り道をしていましたので」アメリアの知り合い?
「はい、ご紹介しますね。こちらの西の砦、オベリア城を指揮する3将軍のお一人、ガーヴォ様です」
巨大な手がぬっと突き出される。
「ガーヴォだ。お前が噂のクロト殿か。会えて嬉しいぞ」
「どうも」なかなかの力で握られたので、同じくらいの力で返す。
「おお、噂に違わぬ力量という訳だ。ぜひ一度手合わせしてもらいたいものだな。おっ、そこで大人しくしているのはシーラか! なんだ、腹でも痛えのか!」
ガハハと笑う。もうこの時点でガーヴォの性格は大体わかった気がする。
ご指名されたシーラは呆れた顔で「変わりませんね、あなたも」とだけ言った。
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「まだ仕事があるから、ちょっとここで茶でも飲んで待っていてくれ」とガーヴォは出ていった。
部屋に残された俺たちは、思い思いくつろぎの体勢に入る。
「そうだ、アメリア。気になったんだけど、なんでガーヴォは俺たちが来るの知ってたんだ?」
「魔族領に行くなら、西の砦には必ず立ち寄ることになりますからね。王都を出立する前に「もしかすると立ち寄るかもしれない」と手紙を書いておきました。いつ行けるかわからないとも添えたので、まさかガーヴォ様が出迎えに来るとは思いませんでしたが」
「へえ、流石に準備がいいな」
えへへと照れるアメリア。普段のできる感じとのギャップがかわいい。
「その手紙で簡単に王都での顛末もお知らせしていますので」
「伝えちゃっていいのか?」
「ガーヴォ様なら。あの方はバーンの前の近衛騎士団長です。若くして近衛騎士団長に抜擢され先王、現王と2代に亘って近衛兵をまとめていましたが、お年を召して騎士団長を勇退されたので、その実力を惜しんだお父様が隠居兼、オベリアの守護として、この地へ」
「へぇ、凄い人なんだな」ぶっちゃけ、さっきの握手俺じゃなかったら手、砕けてるぞ。あれは爺さんの握力ではない。
「シーラなどは小さい頃からガーヴォ様に稽古をつけてもらっていましたからね、今でも頭が上がりませんよ」
というと、シーラが慌てて訂正する。
「いや、そんなことはないですよ。ただ、ガーヴォ様はいまだに、まだ私は10代前半の子供と思っている節があってですね。ちょっと苦手なだけです!」
こういう話題で動揺するシーラって珍しいな。よっぽど小さい頃から面倒を見てもらっていたのだろう。
そんなたわいのない話をしていると、ガーヴォがドカドカと戻ってきた。遠くからでも登場がわかるな、あの爺さん。
「や、すまんすまん。待たせたな!」
そのままソファにドカンと腰を下ろす。
「出国手続きは準備している。あと宿泊はこの館の空き部屋を掃除しているので、そこを使うといい」
苦い顔をするシーラ。
「色々ありがとうございます」アメリアが礼を伝える。
「気にするな、だが、まさかあのアメリア様が『見聞を広める旅に出る』なんて言い出すとはな。ここしばらくで一番面白かったぞ!」
豊かに蓄えられたヒゲを触りながら、シーラが入れたお茶を美味しそうにすする。
「そんで、手紙にはキロル鉱山によるって書いてあったな。予定通り行くのか?」
「はい。今の所そのつもりです」
「そうか、せっかくきたのだ2、3日はここでゆっくりしろ。シーラには稽古をつけてやる!」
ぱあんと両手を叩いて、満面の笑み。
シーラが今日一番深いため息をつくのだった。




