22)ゲラントは苦笑する
ここはロッセン城内。
第一王子ゲラントの執務室にバーンがやってきた。
「クロトさんが早速やらかしたとか」と笑っている。
「ああ、もう王証を使ったそうだ。とは言ってもアメリアの指示だろうが」
「王証を? それはまた、一体何に?」
「おいおい、バーン、からかうな。騎士団のお前が知らないはずがなかろう」
と、数枚の書類を投げる。
「まぁ、噂は。警備の騎士団が慌てて出立していきましたからね」
と言いながら、ひらりと舞う書類を器用に全て捕まえて書類に目を通し始めた。
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うさんくさい旅人に悪事を暴かれそうになったと思ったら、王証を見せられた挙句、その隣にいたのは自分の国の第二王女だった。
トナン領主が今おかれた状況である。
慌てて膝をつき頭を下げ、どう言い訳をすればいいか必死に考える。
「ひひひ姫様におかれまして、御壮健そうで何より、、、」
「いまさら挨拶は結構です。王証の御前、ここからのあなたの発言に嘘があれば、全てはこの国への虚偽とみなします」
「は、はい」
「では、改めて問います。王都からの調査員はどちらに?」
「あっあの、いえ、、、確かに王都へは、、、なっ、、、ゲド!」
名指しされたゲドはさっきからずっと震えている。ゲドがゲボ吐きそう。
「たた多分、使者は出したたたたかと、おお、おかしいですね、、、何か事故でも、、オエっ」
おい、ここで吐くなよ?
当然アメリアのターンは続く。
「では、その端の方、捕えた野盗を一人牢から連れてきてください。顔は昨日見ていますので、誰でも良いですが、そうですね、あの首領格の髭面の男を」
「ひゃぁ」と情けない声を出しながら、助けを乞うように領主を見つめる端っこの衛兵。
「どうしました? まさか逃したわけではないですよね。そうであれば全員死罪ですが」
あっ、ゲドくんが吐いた。
端っこの兵が必死で否定する。
「逃してはおりません! 決して! ただ。。。」
再び領主を見つめる端っこの人。
「ただ? 領主が何か知っていると?」
アメリアの視線が領主へ注がれる。余計なことをと、端っこの人を睨む領主。
「領主よ、何か問題がありますか?」
「い、、、いえ、、ですが、、、そう、あの髭面の男は昨日倒れまして! 何かの病気かもしれません! 姫に会わせるには宜しくないかと!」
「別に目の前で話す必要はありません。近づかなければ病気も問題ないでしょう。早く連れてきなさい」
すると、威圧に耐えかねたのか衛兵の一人が「恐れながら申し上げます!」と叫び顔をあげた。
「発言を許します」とアメリア。なかなか堂に入っていて、なんか偉い人みたいだな。あ、偉い人だったわ。
「あの野盗は領主が雇っている傭兵どもです! 今頃は館の中でくつろいでいるかと!」
「貴様! なんという嘘を! 姫、あのような下賎な者の言うことなど全て嘘です! そうだ、あいつが野盗と通じて逃したに違いありません! おい、誰か奴を取り押さえろ!」
領主の声に動こうとした衛兵もいたが、シーラの「動くな!」の一喝で即座に元の姿勢に戻る。
「なるほど、では、後ほど私たちの手でこの館を探してみましょう。見つからなければ衛兵の兵舎も調査します」
領主の額からは大量の汗が流れ、床にシミができている。だが、アメリアのターンはまだ終わらない!
「さて、これも確認しておかなければなりませんが、王都ではいつから「利子付きの金貸し」を始めたのでしょうね?」
「アプワァ」
という変な声を出して領主はその場で気絶した。
先ほど野盗は領主館にいると告発した衛兵に、領主の息のかかっていない兵士を呼んでこさせ、領主およびその場にいた衛兵は全て捕縛。とりあえず投獄された。告発した衛兵に関しては酌量の余地ありとし、兵舎に軟禁。他の者よりも低い罪に処せられることをアメリアが約束した。
案の定、領主の館には野盗達がいて酒を飲んでゴロゴロしていた。
予想してはいなかったが、髭面は綺麗にヒゲを剃っており、それだけに領主は髭面を連れてくるのを渋ったのだろう。
捕まっているはずのやつがヒゲも剃って、身ぎれいにしていたのでは言い訳もない。
告発兵によると髭面は普段、領主のボディーガードとして平然と横にいるそうだ。
各集落を襲うときだけヒゲを生やして変装するんだと。
ちなみに酔っ払っていた7人の野盗はシーラがその場でボッコボコにした。それはもうボッコボコ。
正直、腫れ上がった後の顔からヒゲのない髭面を探すのを諦めるくらいボッコボコ。
まあ、髭面に関しては、昨日前歯を折ったので口開ければ分かるけど。
一部始終を腰を抜かして惚けたまま見ていたウェッツさん。我に返ると床に頭を擦り付けんばかりに平頭したが、アメリアが普段通りでいてくださいと頼むと、ようやく立ち上がってくれた。ただし、新しい領主がくるまでの一時的な領主を頼むと、また腰を抜かしていた。
ともかく、王都を発ってわずか1日目に遭遇した野盗騒ぎは、こうして収束したのだった。
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「なるほど、アメリア様も生き生きとしてらっしゃるようですね」
「元気が良すぎだ」とゲラントは嘆息する。バーンに渡した書類の何枚かはアメリア直筆の報告書だ。
事の顛末までと、ウェッツという信用できる集落のまとめ役を、一時的な領主に任命した事。
各集落が背負わされた借金の被害額と、没収すべき領主の主な資産などが細かに書かれていた。
報告書の最後には「次の目的地に行くので、あとは宜しく」と。
ゲラントは立ち上がり、バーンから書類を受け取って、窓を開けると大きく伸びをする。
活発な妹だと思ってはいたが、これほど大胆に王証を使って立ち回るとは。。。
クロトはなにやらトラブルを呼び込みやすそうな人間であるし、これはとんでもない組み合わせを世に送り出してしまったのではなかろうか。
爽やかな風が執務室へ流れ込んでくる。
今日もいい天気だ。ゲラントは深く考えるのをやめた。
きっとあの三人なら、何かしでかすにしても面白い事だろうと、苦笑しながら仕事に戻った。




