24)クロトは魔族商団と出会う
「ガーヴォ様が2、3日いろと言った以上、最低でも3泊は滞在せねばどこまで追ってくるかわかりません」
という、本気かわからないが目は真剣だったシーラの言を聞き入れて、出発を4日後と決めた翌日。
朝食を食べてのんびりしているとガーヴォがやってきた。
「今日は仕事があるのでな! 明日は稽古するぞ! クロト殿とも手合わせ願おう!」
隠居しにきたのに全然のんびりさせてもらえんわ、というでかい独り言を響かせながら退室。いらんことにも首突っ込んでるタイプだな、アレ。
せっかくなので、今日は街を巡り、適当なところで昼食をとって帰ってこようという話になった。
歩きながらアメリアが解説する。
「クロトさんには「西の砦」の方がわかりやすいと思ったので、そのまま通していましたが、この砦はオベリアの砦、年配の方を中心にオベリア城とも呼ばれます。名前の由来はこの町の中央にあるあの時計塔ですね」
と、時計塔を指差す。他の建物よりも頭2つ高い時計塔。砦の外からも見えたやつだ。
「この時計塔を建てたのは当時の領主の妻、オベリア様です。長年、魔族との争いで常に緊張感のあったこの砦に、せめて時計塔の鐘が鳴った日は戦いをしないようにという願いを込めて建てられました。そしてオベリア様自身が前線でそのように訴えた結果、戦いに倦んでいた両軍は、この鐘が鳴ると人間側だけでなく魔族側も兵を引いて3日間は休息とした、という伝説が残ります」
「あれ、その話なんか子供の頃絵本で読んだことあるぞ? そういえばあのタイトル「オベリアの雪鐘」だっけか?」
「ええ、国内のみならず広く読まれている物語です。初めて鐘が鳴らされた日、その年の初雪が降ったので、それにちなんだタイトルですね」
「ちなみに、城門から入ってしばらくトンネルを歩いたでしょう。オベリアの砦は普通の街と違い、城壁が二重になっています。外側が防衛エリアで、戦闘時は戦える人間しか出られません。また、お店の類も一切ありませんし、寝泊りも騎士か傭兵しか許されません。内側が居住エリアですね。こちらはごく普通の大きめな街です」
そういえば通ったな、トンネル。あの間が防衛エリアなのか。大変わかりやすい説明ありがとう。一家に一台アメリアだね。
特に目的があるわけでもないので、そのまま街をブラブラしながら店を冷やかしていると、通りの向こうから走ってきた2人組の男がぶつからんばかりに3人の合間を抜ける。
通り抜け側に「あぶねぇだろ! 気をつけろ!」と怒鳴りながら走り去って、、、行けるわけが無かった。
激突の直前、スッとアメリアをぶつからない場所へと誘導したシーラは、そのまま走り抜けた男の1人の襟首を掴んで地面へと叩きつける。
もう一人は「ぽげッ」という声とともに地面に伸びる連れを一瞬見やったものの、そのまま逃げようとする。
「自分だけ逃げるのはいただけないな」と、すでに回り込んでいたクロトのデコピンでツレが伸びている場所まで吹っ飛んだ。
「何だったんだ、こいつら?」
「さぁ? だが、こういう逃げ方をしているやつは大抵ロクでもないな」シーラさんが辛辣。
「もしかして、あちらで揉めているのと何か関係あるのでしょうか?」
アメリアが差した先には、何やら怒鳴っている声。その周りに人だかりが見える。
「とりあえず行ってみよう」と、2人の男の襟を掴んで、引きずりながら喧騒の方へ。
ズリズリと男を引きずりながら近寄ってみると、異様な光景に気がついた見物人がギョッとしながら道を空ける。
するとその先にいたのは露店の店主と、昨日入国を待っていた魔族の商団の面々だった。
「だから! お前たちが盗ったんだろ! さっき目を離すまではここにあったんだ! 振り向いたらモノがなくてあんたらがいた! 誰かさっさと衛兵を連れてきてくれ!」
「先ほどの繰り返しとなるが、我々はたまたま通りがかっただけだ。衛兵を呼んでも構わんが恥を掻くのはそちらだぞ」
激昂する店主に対応しているのは、緑の肌をした美人。クールビューティー。
その中に登場した、男を引きずった珍妙な一団。クロトたちである。
一触即発の雰囲気を纏っていた両者だったが、想定外の絵面の登場に一瞬ポカンとする。
男を引きずっている事などいつものことだが、何か? くらいの平常運転で「何があった」とシーラが問う。
何があったか聞きたいのは向こうだと思う。
「ここ、こいつらが俺がちょっと目を離した隙に、置いておいた金細工をくすねたんだ!」
場の雰囲気に飲まれ、若干トーンダウンをしながら言う店主。魔族の女性は黙ったままこちらを見ている。
「ふむ。ちょっと待っていろ」と、シーラは引きずっていた男をつまみあげる。
「おい、もう気がついているだろう? 寝たふりはよせ」と言うとうっすらと目を開けて、またぎゅっと瞑る引きずられた男。
「目は閉じていても構わんが、今から聞くことにハイなら頷け。いいな」
コクコクと首だけ動かす、元引きずられた男で今つままれている男。
「そこの店の金細工、盗ったのはお前らか?」
すごい勢いで首を横に振るつままれ男。
「ほう、今からお前の服を脱がして、金細工がないか徹底的に探す。もし、お前か、そこで寝ている男が金細工を持っていたら、この場で首を飛ばすが、良いか?」
再びすごい勢いで首を横に振るつままれ男。
「では、もう一度だけチャンスをやる。盗ったのはお前らか?」
すごい勢いで振っていた首をピタリと止め、プルプルし始めるつままれ男。
「よし、じゃあ剥こう」と言った瞬間
「ま、待ってくれ、悪かった! 俺たちが悪かった! ものはそいつのポケットに入っている! 殺さないで!」
シーラが目で合図を送り、クロトがポケットを探るとそれらしき細工が出てきた。
「店主? これか?」と見せる。
「あ、ああ、そ、それだ、お前たちが盗ったのか! この野郎! 衛兵に突き出してやる!」
と詰め寄る店主をシーラが手で制す。
「待て、まずはそちらの方々に謝罪が先だろう?」と促す。
「くっ、紛らわしいところにいた奴らも悪いだろう!」と逆ギレ。
と、ここでクロトの後ろからちょこっと出てきたアメリアが会話に参加する。
「どうしても謝るつもりはありませんか?」
「いや、だが、、、紛らわしいところにいた、、魔族どもが、、、」とだんだん声が小さくなる。
「ところで、この金細工ですが、金じゃありませんね。見た目はそれっぽいですが。それを本物の金細工として売っていたみたいですね。露店の許可証、見せてもらえます?」
「な!? 今日はちょっと持ってなくて、、、」
と、この辺りで見物していた人たちからも店主への非難の声が上がる。
「おい、魔族だからって関係ないだろ! まずは謝れよ」
「もぐりの露店が偽物盗まれて、何被害者づらしてんだこの野郎!」などの罵声が飛ぶ。
店主は最終的にちょっと泣きながら女性らに謝罪をして、無許可の商売の罪で盗人の男2人と共に連れていかれた。
ちょっと気の毒だが、偽物を売ったりしていたことを考えると、自業自得か。
衛兵が店主たちを連れていくと、自然と人がはけ、クロト達と魔族の集団だけが残った。
リーダーらしき緑の肌の女性が頭を下げる。
「新緑商団の団長をしているリャナンシーのムジュアだ、助かった。見ての通り魔族の商団だが、嫌でなければせめてものお礼に昼飯でも奢らせてくれ。どうだ?」
俺たちはお言葉に甘えて昼食をご馳走してもらうことにした。
「しかし、つまらんトラブルに巻き込んだな。君たちが来てくれなければ面倒なことになっていた。ありがとう」
それにシーラが返す。
「困ったときはお互い様だ、それに、こちらにはちょっと出かけるとすぐトラブルに巻き込まれる奴がいるからな。いつものことだ」
ん? シーラさん、それって俺のこと? はい! 異議あり! 聞いて! 無視しないで!




