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21 根回し

 二人を家に残し、一人動いたアルが向かった先はギルドであった。

 虹銀ランク探索者としての装備で訪れればそれは、少なくとも現時点で、クレリアナのギルドに集う探索者の多くは理解する。

 その姿を見た事が無い者であっても、今は薬草採集で集まって来ているのだから、その場を提供するギルド最高ランクの存在なんていうものは、宣伝しなくても自然に伝わり広がっているのだ。

 クレリアナに来たばかりで、それを知らない探索者にとっても、周りの様子に何かを感じ、次いで身近な探索者から話しを聞く事で理解する。


 今のアルの格好は、普段の虹銀ランク探索者としての装備であるが、何しろ普段より人出が多い時期である為、普段と異なる装備が一つだけあった。

 額から目元までを多う様な仮面である。

 無機質で、飾り気のない仮面ではあるが、これもエーファが、天浮島産の素材を用いて作った物である。しかもアルによって、認識阻害効果が付与されている為、普段と異なり深くフードを被っていなくても、個人の特徴を認識される事は無くなっている。

 ただ、アル自身があまり好んでいない為、人の目に晒される場でだけ使われる、不遇の装備品でもあったが。

 ともあれ、現れたアルに対しては、ギルド職員が急いで近付きギルド長室に通すのは、この時期定番の光景になりつつあった。


「ふう。何時になっても慣れないな、あの雰囲気」


 ギルド長室に入った、アルの最初の一言がこれだった。


「立場ある者の挙動に注意が向くのは、世の常ですよ?」

「望んで得た立場じゃないから、そんな世の常に従わなきゃいけない理由にはならないだろ」


 そう言いながら、進められた訳でもないのにソファーに腰を下ろす。

 勿論部屋の主であるマディナは、そんな事に一々不満は示さないが。


「それで、何かありましたか?」

「ああ。ルネッリ侯爵家の軍と、バッティ子爵家の軍を見つけた」

「そ、それはどこで?

 直ぐに代官に知らせないと」

「まあ落ち着け。

 ちなみに居場所は教えない。

 今回は俺が出る事にしたからな」

「なっ! それは、王国の不利益にもなりますよ?」

「そんなのは俺には関係無いだろ。

 そもそも、あの侯爵も加わって、俺の身内を自分のものにしようとした。

 しかもだ、そんな連中に対して王国は何をした? 俺を関わらせずに処理しようとしただろうが。

 そんなふざけた王国の不利益になろうが、それは自分で蒔いた種でしかないし、俺の身内を狙った連中は、俺が手を下しても文句を言われる筋合いじゃ無い」


 そもそも、未だ確証段階ではないにしろ、実質的に侯爵家の軍と、子爵家の軍の残りは王国に反した、いわば賊と成り果てているのだから、それを探索者が討ったところで、文句を言われる筋合いではないのだ。

 元軍人の盗賊など、幾らでも居るのだ。

 それが軍という体裁を保ったままであったとしても、賊である事に変わりは無い。


「て事で、だ。俺は発生したでかい盗賊団を潰して来ようと思っているわけだ。

 そこに横槍を入れるのは、獲物の先優権を奪うマナー違反行為だろ? それが例え、国軍や騎士団だとしてもな」

 「つまり、虹銀ランク探索者、アル=ローウェンからの正式な通達として、王国に動くなと念押しをすると?」

「根回しって大事だろ?」


 この発言を蔑ろにした場合、それはアルに喧嘩を売るのと同じ事となる。

 つまりアルは言っているのだ。

 『不利益を受け入れ自らを正すか、見栄の為に虹銀ランクに喧嘩を売るか選べ』と。

 そしてそれを態々、探索者ギルドに言いに来たのは、王国だけでなく、ギルドに対しても同様の問いを投げかけるという事だ。

 それと同時に、王国軍正式装備を纏った相手を討つ正当性を、事前に示しす意図も含まれているが、それはおまけであり、もし賊に堕ちた相手では無くても、対すればそれを討つ事を咎める国は、実際には殆ど存在しない状態にある。

 つまり、本当に根回しでしか無いのだ。


「本当に、難儀な人ですね」

「短いなりにも育ての親でしょう?

 その辺りは察して貰いたいな」


 この根回しの本意は、『これから見せしめを実行するから理解しろ』という事である。


「少なくとも、探索者ギルドが敵対する意図は無い様ですよ。

 既に本部より、全幹部一致で指示が出ていますからね」

「ほう、どういう指示が?」

「バゼーヌ王国が、ギルド最高ランク保持者に敵対するのであれば、その時点をもってバゼーヌ王国内の全ギルド支部は閉鎖し、同王国内での探索者ギルドの活動を停止するそうです。

 まあ、あくまでも今のところは決定事項と言うだけで、その旨は王国に示されていませんけれどね」

「それはまた、随分と過剰反応と言うか、本部の指示が早くないか?」


 少なくとも、この話しを推測として出したのは数日前だ。

 それを受けてのものであれば、緊急連絡手段をギルドが持っていたとしても、距離から考えて速過ぎる事は明らかだ。

 そこに引っかかりを覚えるのは、おかしな事では無いだろう。


「決して早くは無いですね。

 何しろ、アル=ローウェンという虹銀ランクが此処、クレリアナをベースにした時点で出された指示ですから」


 つまりは、今回の件に関わらず、既に決められていた事の様だ。

 内容自体は、基本的な虹銀ランク探索者への扱いに準じたものである。が、それは損得や諸々の都合等が合わさった、所謂お約束事というものであって、表向きに明文化されたものでは無いという認識が、対象当事者の一人であるアルも持っていたのだ。

 しかし、ギルド内とは言え、指示という明確なものであればそれは明文化されている事が前提となる。

 何しろ、明文化されていない指示など、責任の素材が明確では無い事から、徹底される事が難しくなり、指示の体を成さないのだから。

 つまりは、アル本人にとっても完全に想定外であったという事となる。


「世界最大の組織である冒険者ギルドの最高ランクに対しては、それだけの事を行うだけの価値がある。という事ですね」

「危機回避も結果益となる、か。

 まあいいや。それじゃおまけ。

 明後日明け方、東方辺境軍営で反乱の動きがあるかも知れない。

 そのくらいは王国に譲っておくよ」

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