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20 その相手を求める理由

 公平に、というつもりかは別にして、ライザが離れるとアルは立ち上がり、イルナの頭をポンポンと、軽く撫でる様に触れると、根回しをして来ると言って出て行った。


「ねえ、イルナ」

「ん? 何?」

「私さ、アルに受け入れて貰ったのには、打算もあったんだ。

 迷宮で、ペラガルロ子爵の策略を知って、お父様もお母様も居ない状態で、伯爵家後嗣として一人残されても、どうして良いのか分からなかった」

「うん、そうだね」

「貴族の子女としても、領主家の後嗣としても攻められるべきなんだけど、私がバード家当主になるのが怖かったんだよ」

「そっか」


 当然、一般民から自由民になったイルナには、貴族の事も、其の家を継ぐという事も分からなかった。

 普通に考えれば、立場を有し、一般民としては夢見る様な安定した生活、豪華な生活を送れる、羨ましくも自分達とは異なる存在といった印象しか無いのだから。

 しかし、考えてみれば立場が違うだけで、人という同じ存在なのだ。

 当然苦しみや悩みもあるだろう。

 ライザと仲良くなり、貴族であっても同じ人であると分かってはいたイルナであったけれど、ここで改めて、立場の違いでしかないんだな。と、再確認するのであった。


「領民の生活もあるし、系統の子爵家の事もあるから、私の不安を理由に後嗣を降りる訳にもいかないし」


 基本的に子爵家は、伯爵以上の爵位を持つ家から別れ、主家の領地内から疑似的に収める領地を分配される立場となる。

 王家から領地を下賜されるのは伯爵家以上であり、子爵家は主家から貸し与えられた領地を治める、いわば代官としての役割となるし、男爵や、名誉爵位となる騎士爵、準騎士爵、勲功爵といった下位貴族は、領地を持つ事は無い。

 中には領地を持たない伯爵位も存在するものの、そういう家は基本的に王都住まいの貴族であり、当主は王都にて何らかの職を持っている。

 領地持ちの伯爵家は、子爵位を五家まで持ち、自分の領地内であれば小領を分け与える事が出来る事となっているのだ。

 逆に言えば、領地持ちの伯爵家以上の当主というのは所領の民に対する責務を負うし、主家として系統の子爵家に対する責務も負うのだ。


「でもさ、アルは虹銀ランクなんだよ。

 それを知って、アルの元に嫁げば、貴族どころか王家でさえ文句は言えないだろうし、立場的にも守って貰える・・・なんて考えがあったんだよね」


 そもそもが伯爵家にして、領主家の当主となる立場であれば、通常は自分より下位との婚姻は有り得ないし、ライザの立場であれば婿を迎え入れ、家を継続する事が当然となるのだ。

 その為、上位貴族や王家からの求めでもない限りは、ライザは女当主としてバード家を継ぐ立場を避ける事は出来ないのであった。

 それを覆す方法としては、系統子爵家の中で有力な家の当主を伯爵家に添え、それを王家に承認して貰う方法があったが、何しろ系統子爵家筆頭はペラガルロ子爵を当主としたバッティ子爵家である。そこを王家が承認する事等無いであろうし、そもそも親貴族家を陥れようとしたのだから、子爵家存続さえ難しいだろう。

 しかも、それが可能だとしても、その場合はライザがバッティ子爵家に嫁入りする形で爵位が上がり、バード伯爵家からバッティ伯爵家へと変わるのだから、その選択はライザの中には無かった。

 残る方法としては、自由民の中で地位の高い、所謂上位ランク探索者の元に嫁ぐという方法となる。


 自由民は、どこの国にも属さない立場の為に、通常であれば一般民よりも立場が低く扱われる。

 しかし例外的に扱われるのが、上位探索者である。

 その影響力、そして万一の場合の強力な戦力として、また、そこまでに至る経緯による資本力等から、貴族と同等に扱われる。

 金Ⅲランクで下位貴族、白金Ⅰランクで中位貴族、白金Ⅱランクでは上位貴族と同等となるのだから、ライザの場合白金ランク探索者に求められ嫁入り出来れば、国に縛られる事が無い為に、国内の貴族社会の柵から開放される事になる。

 系統の子爵家は、他の貴族家に引き継がれる為に、爵位を失う事も無く、領地にも王家より支援が入るのだ。

 これは、探索者に対する国の特例であり、そうした優遇があるからこそ、魔物の大発生や、金ランク以上の災害級と呼ばれる魔物の襲来等といった国の存亡がかかった際には、上位探索者は命をかけた討伐に応じるのだから。


「アルが虹銀ランクだって知って、それならどこからも文句が出ずに、私は自由になれるって考えたんだ。

 勝手だよね」

「ん~、じゃあライザは、都合が良いからってだけで、アルの元に来られる様に決闘を挑んだの?」

「そんな事は無いよ。

 あの日迷宮で、全てがペラガルロ子爵の手の上だったって知って、全てを失ったんだって思ったけど、そんな暗闇からアルが引っ張り上げてくれたんだもの。

 でもね、アルが虹銀ランクだって知って、都合が良いと思ったのも事実なんだよ」


 王侯貴族の世界では、政略結婚を始めとして、何らかの思惑や都合で相手を選び、また選ばれる事は珍しくは無い。

 けれど、アルは自由民であり、そんな環境とは無縁なのだから、自分の都合で巻き込んでしまったと、ライザは悩んでいるのだ。


「ライザはさ、真面目だよね」

「え? いや、今の話しで何でそんな印象になるの?」

「だってさ、別に都合込みで相手を選ぶなんて、貴族とかに限った話しじゃ無いよ。

 私がおまけでくっついて来たのだって、アルさんが探索者として最高位だから、超優良物件だと思った事もあるし、そこに丁度食い込めるチャンスをライザが作ってくれたからって言うのもあるし、受け入れて貰えればライザと離れて孤立も避けられるっていうのもあったよ。

 他にも細かい事も含めれば色々、自分の都合で相手を選ぶって、むしろ当然じゃないかな」


 それこそ『好きって言うのだって、都合と言えば都合だしね』と、イルナは言った。

 都合が絡まないのに夫婦になる、結婚する事こそ無いだろう、と。


「ライザはさ、アルさんに惹かれたっていうのも、アルさんを選んだ理由の中にあるんでしょ?

 だったら、別に悩む必要は無いと思うけどね」

「そう、なのかな?」

「じゃあさ、ギルド長にアルさんの事を聞いて、ライザはアルさんと一緒に居たいって言う気持ちは減ったり、無くなったりした?」

「それは無い!

 少なくとも今回マディナさんに聞いた話しでは、私はアルに対する気持ちは一切変わっていないし、むしろその・・・より、アルの傍らに居たいと思ったし」

「ほら、何の問題も無いじゃないの」


 そう言ってイルナは、にっこりと微笑みを向けたのであった。

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