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23 バゼーヌ騒乱

 アルがギルド長室を出てからの、マディナの動きは素早いものだった。

 殆ど間を置かずに書類をまとめると、それを手にギルド長室を出、事務長に一言伝達するとそのまま代官の館へと向かう。

 アルの言葉だけからも、幾つかの情報は得られたのだ。

 少なくとも明後日の明け方、東方辺境領にて何かが起こる事、つまりはそこから、行方が分からなかったリオネロ侯率いる軍もおそらく、辺境伯爵領に集結する動きであると判断する事は容易だ。

 ただし、その軍・・・いや、アルが賊と示した様に、既に扱いとしては、反乱軍等では無く賊の類と見なすべきであろう。そこには手を出せないというのが、少なくとも探索者ギルドのクレリアナ支部としての判断であるべきとなる。

 それをギルド全体の判断とするべく、ギルド本部への緊急連絡対応指示は事務長に書面で残して来ていた。

 同様の判断とするかは分からないものの、少なくともギルド支部としてはそういうつもりである事は、代官に示さなければならないのだ。

 その上で、東方辺境軍営の対応を、王国に示唆しなければならない。

 既に残されているのは、一日と数刻のみ。

 一切の余裕は無いどころか、足りないと言える状態であった。



「クレリアナから緊急伝令です!」


 バゼーヌ王国の中心である王城、その謁見の間に伝令兵が飛び込んで来たのは、アルがギルドを出てから僅か半刻も経ていない時であった。

 通常の緊急連絡であっても、クレリアナから王城までは、早馬で二日程、特別に飼育した伝書速鳥を使っても一日半程は必要な距離である。

 それでも完全なものでは無く、途中で天候や魔物、盗賊等、様々な障害が生じる為に、確実性を持たせる為に複数の伝達を行う事を必須としていた。

 しかしそれら通常の緊急連絡であっても、今回の場合は時間が足りないと考えたクレリアナの代官は、伝令兵を転移石で送る事で、最速の伝達を行ったのであった。


 転移石は、特定の魔物の魔石を用いた簡易転移を実現させるのだが、転移先とする場所で特定の処理を行わなければならない事、使い捨てである事から、一つで金貨一枚以上はするという高価な物である。

 しかも、転移石一つで軽装の人を二人程度が限界である為に、余程の緊急事態でなければ使われる事は無い。

 更に言えば、魔石は使用できる期限があるのだ。

 魔石自体の蓄積された魔力は、魔物から取り出されると、魔力の供給が止まる為に、転移石として使える状態は魔物から取り出されて後、およそ三年から五年で使いものにならなくなる。

 これは魔物によって異なるのだが、そもそも空間属性を持つ魔物の魔石でなければ転移石として機能しない事、そして何よりも、空間属性を持つ魔物自体の種類が非常に少ない事から、いくら国家であったとしても、数を用意しておけず、容易に使える物では無い。

 今回クレリアナからの緊急伝令は、その転移石を用いたという事で、謁見の間は俄にざわめきに包まれる事となっていた。


「発言を許す。また、儀礼無く、用件のみでの伝達を許す」

「はっ!

 クレリアナの代官、アルーノー=バイル伯より預かりまして御座います」


 玉座から続く赤い絨毯にて最敬礼の姿勢のまま、伝令兵は封蝋が施された初回皮紙ファースト・ベラムを捧げ出す。

 それを近衛騎士の一人が受け取り、宰相であるヴィリバルの元へと運ぶ。

 そこで宰相によって封が開られ一読。その後に王へと渡されるのだが、玉座に座るロズッモンドエッジ=ディル=バゼーヌ国王により、その儀礼すら省かれる事となった。


「よい。伝令兵よ、そのまま封を開け読み上げよ」

「は? い、いや、しかし」

「火急の報であろう。儀礼は無駄だ」

「ははっ!

 では、読み上げさせて頂きます」


 そこで読み上げられた内容に、謁見の間は静寂に包まれ、その後様々な声が飛び交う事態となる。が、それも国王の一言によって押さえられる。

 その時謁見の間に居たのは、国王に王妃、王太子、宰相、上級文官や近衛を受け持つ武官といった王都詰めの貴族、そして伝令兵のみであった。


「ご苦労であった。

 アルーノーには『確かに受け取った』と伝えよ。

 また、今回使用した転移石の代わりと、この者が戻る為の、クレリアナまでの転移石を用意せよ。

 アルーノーには、本内容の口外を禁ずる旨を命じる」


 伝令兵に対して指示を出してから、書面を受け取ると共に、伝令兵の退出までの間、国王が一切の事はを発する事は無く、また、その場に居た者も、その雰囲気に飲まれ、小さな声でさえ発する事は出来なかった。


「陛下、どの様に対処するおつもりですか」


 伝令兵が、近衛の一人に導かれて謁見の間を去ってから、文官の一人が声を上げた。


「あまりにも一方的な物言いです。

 まさかこれを受け入れるという訳では無いでしょうな」

「ふむ、ではどうすると。

 虹銀ランクが動くとなれば、それを止める手立てはあるのか?

 また、リオネロが率いる者共に同調して、東方辺境軍営での動きも示唆されているが、リオネロに対する為、そして現況軍営での事を収める為の人員を用立て、その場に送る事が可能か?

 可能であったとして、虹銀ランク探索者と敵対する事となるが、その分の人員はどうするのだ?

 それだけの動きにかかる費用、考えられる被害、そしてその後に必要となる費用や人材を用立てられると申すか?」

「い、いえ、それはその・・・」

「代案あっての言い様であればともかく、国の威信やつまらぬ見栄での言など、物の役にも立たん。

 これより本件に対して議を執り行う為、本日の謁見はこれにて終了とする。

 この場に居た者は、本件に関する一切の口外を禁じる。

 フォルトゥナート、ヴィリバルは我と一緒に静寂の間へ。エヴラールは本件で動ける隊の指揮官を選出した後に静寂の間へ。

 以上である!」


 これはつまり、今回知らされた件に関する動きは、王太子であるフォルトゥナート、宰相であるヴィリバル、軍務局長代行であるエヴラール、実際に動く部隊の指揮官、そして王本人のみで、今後の対応を決めると宣言した事となる。

 これに反論ある場合は、国王の退出までに述べなければならないが、居並ぶ文官、武官からは、異を唱える者は現れなかった。

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